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014 知らせ

 静かな時が流れる。


 太陽が傾き、なにもかもが真っ赤に燃えた景色の中、ヤギが逃げないように囲われたフェンスが見える。ヤギたちはゴブリンたちに狙われているとも知らずに暢気に枯草を食んでいた。


「お兄さま、まだかな?」

「まだ来ないみたいだね。ひょっとしたら、襲撃は夜になるかもしれないね」

「ぶー、退屈だわ。早く来ないかしら」


 僕の膝の上でコルネリアが足をプラプラとさせていた。こうしていると、本当に小さい子どもみたいだ。


 コルネリアはまだ十歳。小さな子どもであることは間違いないんだが、コルネリアはこれまで邪神の呪いのせいでまともにご飯を食べれなかったから本当に体が小さい。パッと見ただけでは、5、6歳くらいにしか見えないだろう。


 だから座っているオレの膝の上に乗せることができるわけだ。


「リアは小さくてかわいいね」

「ひゃんっ!」


 オレはコルネリアのうなじにキスをすると、コルネリアは大袈裟に驚いた。


 いや、大袈裟じゃないか。こっちの世界では日本よりもスキンシップが過剰だが、それでも頬やおでこにキスくらいするくらいだ。うなじにキスはあまり聞かない。


 でも、したくて堪らなくなってしまったんだから仕方がないじゃないか。


 コルネリアがかわいいのが悪い。


「もー、お兄さま? そこは汚いから、キスしないで!」

「リアの体に汚い所なんてないよ?」

「でも……。恥ずかしい……」

「くはっ!?」


 かわいい! コルネリアかわいすぎだろ!


 オレはコルネリアを強く抱きしめた。


 それにしても、コルネリアにとって初めての実戦になるわけだけど……。まったく動じてないね。頼もしいと言うべきか、楽観視していると叱るべきか、ちょっと迷ってしまう。


 だが、それでいい。コルネリアの不足はオレがカバーすればいいんだから。


 それに、コルネリアを支える人間はオレだけじゃない。アヒムやバッハをはじめとした常備兵の四人。それに村からの応援として腕に覚えのある五人の若者を借りている。


 事前情報の通りなら、過剰かもしれない戦力だ。


 彼らには、コルネリアのためにゴブリンを一体確保するように命じてあるし、なにも見落としやミスはない。そのはずだ。


 だが、オレはコルネリアの高い体温でも消せない寒気を感じていた。


 あるいはこれが虫の知らせだったのかもしれない。



 ◇



「坊ちゃん、来ました」

「ああ」


 かがり火やキャンプファイヤーに照らされたオレンジの空間。常備兵の兵長であるアヒムがオレに声をかける。


 やっと来たか。


「お兄さま?」


 オレの膝の上で眠そうにしていたコルネリアがオレに振り向いた。


「やっとお客さんのお着きのようだ。せいぜいもてなしてやろう」

「うん!」


 見上げれば、もうとっくに星々が輝く夜だ。月が雲に隠れて辺りが一層暗くなったことが、オレたちの未来を暗示しているようだった。


 オレは不安を振り払うように頭を振り、口を開く。


「ゴブリンたちは夜目が利くらしいから、明かりのある場所で戦うんだ。絶対に敵を追いかけて暗がりに、特に森の中に行ってはいけないよ?」

「うん、わかってる」


 武者震いなのか、腕の中でコルネリアの体がブルリッと震えた。


 怯えていると思われたくないのか、コルネリアは誤魔化すようにオレの膝の上から立ち上がると、オレに手を伸ばす。


「早く行きましょ、お兄さま!」

「ああ!」


 オレはコルネリアの手を掴んで立ち上がった。



 ◇



「坊ちゃん、あれです」

「ああ」


 アヒムと場所を代わるようにして家の角からかがり火の向こうへと視線を投げた。


 まるで墨汁をぶちまけたような真っ暗な暗闇の中に、小さく金色に光るものが見えた。あれがゴブリンの目らしい。


 だが、数が多くないか? オレが怯えているからそう見えるだけか?


「数は?」

「およそ二十くらいかと……」


 自信がなさそうにアヒムが答える。アヒムはもともと冒険者でもなければ猟師でもない。数を間違えても仕方がないのかもしれないが、判断材料にはなる。


「二十か……」


 想定通りの数だと安心しそうになるが、オレの目にはどんどんと金色の光が増えているような気がした。


 ゴブリンどもの狙いはわかっている。この村のヤギだ。だから森とヤギ小屋の間にかがり火を置き、ゴブリンどもがヤギに夢中になっている間に倒す計画を立てた。


 だが、勢いよくヤギ小屋に向かうだろうと予想していたゴブリンたちは、動かない。かがり火を警戒しているのか?


 その時、雲が流れて月明かりが草原を舐めるように辺りを照らしていく。


「ッ!?」


 闇から姿を見せたゴブリンの数はとても二十ではきかない。五十を超えて百にも近いほどだ。


 しかもだ――――。


「あれはッ!?」


 アヒムの指さした先、そこにはゴブリンには似ても似つかない大男が居た。


 大きく尖った耳、まるでヤギのような横長の瞳孔を持つ金色の瞳、額に生えた一本のツノ。特徴を挙げれば正にゴブリンだが、ゴブリンにはありえない巨躯を誇っている。


 ホブゴブリン!?


 ゴブリンの上位種だ。それが見えるだけで七体も居る、だと!?

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