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136 投資

「ごちそうさまでした」

「ありがとう」

「ごちそうさまッス!」

「あり、がと……」

「いやいや気にするな。お前たちの栄達を期待している」


 ローデリヒ、ドロテア、アーベル、ザビーネたちに礼を言われてオレたちは別れた。のだが、リーンハルトはまだ座ったままだ。それに付いてビアンカも残っている。


「ビアンカ、すまないが先に帰っててくれ。俺はちょっとディーに話がある」

「私が聞いちゃダメな話?」

「ああ、男同士の話だ」


 ビアンカは残りたそうにしていたが、リーンハルトに促されて帰っていった。


 というか、リーンハルトの男同士の話って何だよ?


 なんだか嫌な予感がしない。


「なぁ、ディー……。頼みがあるんだ」


 うわぁ、本当に嫌な予感しかしない……。


「なんだ?」

「金を貸してくれないか?」


 リーンハルトが見たことないくらい殊勝な態度で言い出した。


「金を? べつにかまわないが……」


 まぁもともとテコ入れしようと思っていたし、そこまで難しいことじゃない。


「本当か!? いや、マジで助かる!」


 話し出すタイミングが無かったから言い出せなかったが、もともと金は貸すつもりだったからな。


「オレがリーンハルトたちに投資するよ」

「とうし?」

「ああ。オレがリーンハルトのパーティを資金面で支援する」

「それはありがたいけどよ、ディーになんのメリットがあるんだ?」

「べつに金をタダあげるわけじゃないぞ? 余裕がある時に返してもらうし、たまにでいいからオレに冒険の話を聞かせてくれ」

「冒険の話を?」

「ああ。冒険の話は楽しいからな」

「そうか?」


 リーンハルトは不思議そうな顔をしていた。まぁ、オレがリーンハルトの冒険話を聞きたいのは、リーンハルトたちの冒険が上手くいっているかを確認するためだ。そして、その時々で有用なアドバイスをするつもりだ。


 アドバイスといえば……。


「たしか『氷雪林』に行くんだったよな? 松明の準備はしたか?」

「松明? 洞窟に行くんじゃないんだぜ? 松明なんてなにに使うんだよ?」


 あぁ、この様子だと知らないみたいだな。


「いいか? 『氷雪林』のモンスターは、すべて雪の集合体だ。剣で斬ってもまたくっ付いて襲ってくる。そこで松明だ。火の魔法が使えれば一番いいが、剣で斬ったら松明で傷口を燃やすといいぞ」

「へぇー……。でも、松明程度の炎で役に立つのか?」

「立つ。サブウェポンに松明は必須だ。メインウェポンでもいいくらいだよ」

「なるほどな……。松明を用意しとくわ」

「それから、スノードラゴンの討伐はまだ止めた方がいいな。もっとギフトを成長させてから挑むべきだ」

「わかってる。師匠にもキツク言われてるんだ」


 師匠というのは、ベテラン冒険者であるライナーのことだろう。


「その師匠とやらは、今回の冒険に付いてきてくれるのか?」

「ああ。一応コーチとして付いてきてくれる」


 ライナーが付いていくなら問題は無いか。オレよりも長年冒険者として活躍してきたライナーの方が冒険者のイロハに詳しいだろう。


「それにしても、なんで『氷雪林』に行くんだ? あそこはドロップアイテムもまずいし、稼げないだろ?」

「ああ……。それがさ、息子を『氷雪林』のダンジョンで亡くした人に頼まれちまってよ。せめて形見くらいは見つけてやりたい」

「そうか……」


 オレは沈痛な面持ちを作るが、内心は喝采していた。リーンハルトは王都でのイベントをちゃんとこなしているらしい。一安心だな。


 学園でのリーンハルトはハッキリ言っていいところがまるでなかったが、冒険者としてのリーンハルトはちゃんとやれているようだ。ゲームの主人公のように、困っている人を放っておけない性格でもあるみたいだしな。


 やっぱりビアンカと上手くいっているのがいいのかな?


 今思えば、学園でのリーンハルトは、どこか余裕がなかったように思う。


「オレには応援することしかできないが、がんばれよ、リーンハルト」

「おう!」

「それで金だったな……」


 オレは懐から財布を取り出すと、リーンハルトに投げて渡した。


「本当にいいのか?」

「ああ。足りなかったか?」

「いや、十分すぎるくらいだ。こんな大金、持ってるのが怖いくらいだぜ……」


 リーンハルトが慎重な手つきで財布を仕舞うと立ち上がった。もう行くのだろう。


 リーンハルトは覚悟を決めたような顔つきをすると、オレに向かって拳を差し出してきた。


「正直、今の俺じゃあディーに敵わない。だが、いつかお前に追いついて、そして追い越してみせる。覚悟しろよ」


 オレは嬉しくなってリーンハルトの拳に拳をぶつけた。


「お前ならできるさ。期待している」


 お前には邪神を倒してもらわなくちゃならないからな。期待しているのは嘘じゃない。


「…………笑われるかと思ってた……」

「男の覚悟を笑うかよ」

「ディー、お前いい奴だな」


 リーンハルトからの好感度が上がるのを確かに感じた。オレは攻略できないよ?


 そのまま店を出ようとすると、ちょっと問題が起きた。


「…………リーンハルト、すまないが会計を頼む」

「え?」

「手持ちの金をすべてお前に預けたんだ。今のオレは金を持ってない」

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