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134 竜の血の成長

「ふあー……」


 大きな馬車の中、オレは久しぶりに一人の時間を堪能していた。体を伸ばすとコキコキと音が鳴った。


 カサンドラ、コルネリア、リリーの三人は、エレオノーレやクラウディアの大きな王族専用馬車でお着換え中だ。たぶん体を拭いたりもしているだろう。


 女性の身支度は時間がかかると聞く。気長に待とう。


 今はどのへんだろうな?


 オレは頭の中に地図を広げる。


 この国には国防上の理由で詳細な地図が無いから勘になるが、王都への道の半分を過ぎたあたりかな?


 やはり東の辺境から国の中央にある王都へは時間がかかるな。


 ゲームでは、終盤で主人公たちは船を手に入れる。それで大幅な移動時間の短縮ができるのだが、海に面している王国の西側ならともかく、東側でも陸の孤島であるバウムガルテン領では船の恩恵にあずかれない。


「海が欲しいな……」


 交易で富を得ることもできるし、船を使えば馬車とは比較にならないほど多くの荷物を運べるし、速く移動できる。そして海産物も見逃せない。海の魚が無性に食べたくなった。


「王都に着いたら魚でも食べるか」


 王都から海までデカい川が通っていて、船で交易もしている。他国からの貿易品や、氷の属性が使える魔法使いによって海産物が氷漬けになって運ばれてくるのだ。少々お値段が張るが、王都でも海の海産物が食べられる。


「邪神の復活までまだ時間があるはずだ。海に観光に行くのもいいかもしれないな。邪神といえば、リーンハルトは元気かな? できれば少しは成長していたらいいのだが……」


 もしかしたら、またテコ入れが必要かもしれない。装備や金を融通することはできるから、裏方としてサポートしてやろう。


 ゲームでは経験値稼ぎもたいへんだったが、金策もたいへんだった。地道にモンスターを狩って稼ぐってのはたいへんなのだ。


 そういえば、ゲームではミニゲームとしてスロットがあったな。スロットの景品には、そこでしか手に入らない武器や防具、腕輪などの装備があった。それ以外にも、単純に金を増やすこともできる。


 もちろんオレはゲームですべてのアイテムを手に入れたことがあるが、スロットに勝つのは面倒だったな。だが、名声と大金を手にした今ならば、わざわざスロットをしなくても景品を買い取ることができるかもしれない。ダメもとで交渉してみよう。


 そんなことをのんびり考えていたら、馬車が止まった。


 しかし、窓から見える風景はのどかな森の小道だ。街に着いたわけではないらしい。なにかトラブルでもあったのだろうか?


 ドンドンドン!


「伯爵様! 野盗です! 囲まれてしまいました!」


 非常事態を告げる御者の声。


 野盗? バカな。こっちはバウムガルテン紋章の入った馬車を使ってるんだぞ? 貴族の馬車ってわかるだろ? しかも王族専用馬車が二台も連なっているんだ。王族に手を上げるバカは居ないと思ったのだが……。相手はオレの予想以上のバカらしい。


 たぶん豪華な馬車だから高価なものでも運んでいると思ったのだろう。


 バカの相手は面倒だ。


 今回はバウムガルテン領から冒険者が出るのを嫌って『深紅の誓い』しか護衛を付けていない。ひょっとしたら護衛が少なかったからナメられているのか?


 まぁ、バカの考えなんてたどるだけ無駄だ。さっさと片付けよう。


「はぁ……」


 オレは溜息を吐きながら馬車の外に出た。馬車の前には木が倒れていて通行ができないようだ。そして、十人ばかりの男たちがへらへら笑いながらオレを見ている。


「なんだぁ? ガキかよ」

「人質にとるか?」

「そうするか」

「なんか肌の色が変じゃないか?」

「他国の人間の血でもはいってるんだろうぜ。お貴族様の道楽だろ」

「動くなよ、ガキ。それから護衛の女どもには降伏するように命令を出せ」

「女どもはどうする?」

「そりゃ決まってるだろ!」


 ゲスだなぁ……。生かす価値無し。悪・即・斬だ。


「お前たちは馬車の護衛を!」


 『深紅の誓い』に指示を出すと、すらりと腰の双聖剣を抜くと同時に走り出す。


「あ?」

「やるきかよ!」


 野盗の男たちも剣を抜くが、圧倒的に遅い。


「シュヴァルツ・ランツェ!」


 野盗の男たちの足元が急に暗くなり、突然足元から槍が生えて男たちを串刺しにする。断末魔をあげる暇も与えず即死させた。これで六人片付けたな。残り四人。


「魔法使い!?」

「剣は見掛け倒しかよ!?」

「殺せ!」

「しゃべる暇があるなら手足を動かせばいいのに……」

「速い!?」


 オレは地面を蹴って一気に加速すると、両の闇の聖剣で二人の野盗の首を刎ねる。首を失くした体は、鼓動に合わせて血を噴水のように噴き出すとバタリと倒れた。


「そんな!?」

「ば、ばけもの!?」

「ばけものはひどいな……」


 残り二人もサクッと狩り取ると、オレは双聖剣の血を拭うと腰に差した。なんとも……。準備運動にもならなかった。しかし、双聖剣の試し斬りにはなったか。さすが聖剣。すさまじい切れ味だ。


「ん?」


 馬車に戻ろうとしたところでふと気が付いた。なんだろう? 体が熱い。まるで呪われたアイテムを解呪した時に感じる経験値を得るような感覚。


 だが、オレはモンスターを倒したわけじゃないぞ?


 野盗の死体を眺めても、モンスターが擬態していたわけではないことがわかる。


 ではなぜ……?


 人間を殺したことで経験値など得られないはずだが……。


「あ……!」


 まさか、ドラゴンの力か!?


 オレの体はドラゴンの血を浴びて変質している。オレの体の中のドラゴンの部分が成長しているとしたら?


「そうか。オレたち人間はモンスターを倒して経験値を得る。じゃあ、モンスターは? 人間を倒すことで経験値を得られるとしたら……?」


 試しに魔眼を発動してみると、五つ目の魔眼が使えるようになっていた。


「やはり……!」


 喜びは束の間。だって、ドラゴンの力を成長させようと思えば、人間を殺さないといけない。いくら無礼打ちが許されている貴族といっても、大量の人間を殺す手段なんてない。


 戦争とかあれば違うのだが……。


 オレの知っている限り、人間同士の戦争は起きない。


 ではどうするか……。


 ギフトも成長限界を迎えた今、成長できる部分があるのならば貪欲に成長を求めていきたい。


 邪神が復活するような危険な世界で停滞などは許されないのだ。


「ん?」


 その時、オレの頭に電流が走ったようにある集団が思い出された。


 あいつらなら自由に狩ってもいいか?

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