013 色違い
「さて……」
今日やって来たのは、バウムガルテン領の南にある通称南村だ。他にも東村や西村もある。本当はちゃんとした村の名前があるのだが、誰もその名を呼ばない。たぶん南村の方が分かりやすかったのだろう。
「まずは村長に話を聞くとするか。おいで、リア。退屈だろうけど、これも立派なお仕事なんだ」
「はい、お兄さま!」
「アヒムも来い。残りの者は村人や教会に話を聞いてくるんだ」
「「「「はっ!」」」」
意外だが、こんな陸の孤島みたいなバウムガルテン領にも教会が存在する。しかもバウムガルテン邸のある本村とここ南村の二か所もある。
オレには理解できないが、教会の連中は、苦難を神からの試練、または邪神からの挑戦として嬉々として修行に挑むドM集団だ。
そんなドM集団にとって、普通に暮らすのにも苦労するこのバウムガルテン領は人気の修行スポットなのだ。
これ、教会にバカにされてると感じるのはオレだけだろうか?
しかもこいつらときたら、寺子屋のように領民の教育もしてくれないんだ。なんでも修行中の身で人にものを教えることはできないということらしい。本当にいい加減にしてほしい。屋敷で教師になってくれるように頼んでも断られたしな。
まぁ、教会の連中がこんな感じだからオレのように教育した領民を売るという商売が通用するのだが。
かやぶき屋根にむき出しの土壁がさらされている家々の間を歩いていく。どう好意的に見てもみすぼらしい家だが、ここバウムガルテン領では一般的な家だ。
日干し煉瓦を積んで作るのだが、雨が降ると少しずつ溶けていくのだ。夏はジメジメとするが涼しい反面、冬はかなり寒いらしい。
「風邪をひいている奴が居るかもしれんか……」
あとで治療してやるか。
「それにしても……」
「どうかしたの、お兄さま?」
「いや……」
わかっていたことだが、子どもの姿が見えない。そのせいで村全体が少し暗い気がした。
「ここか……」
村の中央にある広場に面した一番大きな家。それが村長の家だった。その見た目は他の家と変わらない。ちょっと大きいかな? ってくらいだ。
「入るぞ。村長は居るか?」
オレはドア代わりに垂らされた布を暖簾のように撥ね退けた。
◇
「ありがとうごぜえます、ディーの坊ちゃん!」
「これで明日から仕事ができやす!」
「明日じゃなくて今日からやれや!」
「ちげえねえや!」
「げはははは!」
「ぷふふふふふふ!」
怪我人や風邪を治してやった連中が大声ではしゃぎながら遠ざかっていく。皆、働き盛りの男たちだ。これで少しはこの村でも収益が出ればいいんだが……。
治療した怪我人は、ゴブリンとの戦闘で怪我を負ったらしい。村人たちも手をこまねいていただけではなく、ヤギを護ろうと戦ったのだ。
「それで? 村長からはゴブリンの仕業だと言っていたが、どうだった?」
「はっ! ゴブリンで間違いないようです。今までにヤギが八頭も被害に遭っています」
「八頭か……。人間が攫われてないだけマシと考えるか……」
ヤギの肉なんてオレもあまり食べられないのに豪勢な奴らだ。ヤギはコルネリアの好物だというのに……。クソ野郎どもが!
「どうするの、お兄さま?」
「そうだね、リア。リアならどうする?」
「探して倒す!」
オレは軽く苦笑を浮かべながらコルネリアの頭を撫でた。
「相手は深い森の中だよ。探すのは大変じゃないかな? オレたちは猟師じゃないしね」
「えっと、でも……。早く倒さないとまた襲われちゃうよ?」
「そうだね。ゴブリンたちはヤギの味を知ったはずだ。また襲いに来るだろう。だから待ち伏せする」
「ゴブリン相手でも?」
「そう。ゴブリン相手でも」
ゴブリンは弱い。弱いモンスターの中でも代表ともいえる存在だ。
ゴブリンは人間の半分ほどしか身長が無く、本当に大人が子どもと戦うように容易く勝てる。
だが、それはゴブリンが一体の時に限る。
ゴブリンは群れで行動するモンスターだ。一体で行動するゴブリンなど、群れからはぐれたマヌケくらいだろう。そのぐらいゴブリンは群れで行動する。個の弱さを数で補おうとしているのだ。
そして、群れたゴブリンは厄介だ。ゴブリンの群れの規模が膨らむにつれて、その討伐難易度も加速度的に上がっていく。時には英雄すら殺すこともあるのだ。
ゴブリンの恐ろしさは、その数による暴力と突然変異にある。
ゴブリンは弱者。故に子だくさんなのだが、その中には稀に魔法を操るゴブリンや、ゴブリンとは思えないほど体のでかいホブゴブリンなどが生まれる可能性がある。
今回の村人の話ではそういったゴブリンの目撃情報は無いが、十分注意する必要がある。
相手がゴブリンだからと言ってナメてはいけないのだ。
ちなみに、ゲームでも強者のゴブリンというのは存在した。
というよりも、序盤のザコ敵役から終盤の強敵までゴブリンは充実していた。グラフィックは同じで色を変えるだけで登場させられるから楽だったんだろう。
ちなみに、スライムやウルフも似たような感じだ。色違いで使い回されていて、ザコから強敵まで存在していた。
まぁどこまでゲームと同じかはわからないけど、注意はするべきだな。
「ドラゴンはゴブリンを狩るにも全力で戦うと云う。油断していいことなんてなにもないんだよ、リア。たとえ相手がどんなに弱者でもね」
「はい、お兄さま!」
「うん、うん。いい娘だね」
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