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127 注文

「失礼いたします」

「アルノー、よく来てくれた」


 屋敷の執務室。オレは時間を作ってアルノーに会っていた。アルノーはバウムガルテン領における商人たちのまとめ役なのだ。


 急速に鍛えられているのか、純朴そうな少年だったアルノーも商人らしいふてぶてしい笑みを浮かべるようになっていた。


「本日は……」

「長い挨拶は無用だ。さっそく本題に入ろう。商人たちからなにか不満は出ているか?」

「かしこまりました。不満という不満は出ておりません。ただ、店を建てるのに時間がかかるのが不満といえば不満でしょうか」

「ふむ。他領から大工連中を引っ張ってきているが、それでも建築の順番待ちは解消されていないからな」

「はい。ただ、商人もそのあたりは理解していますので、それほど不満はありません。皆、どんな店を建てるかで盛り上がっていますよ」

「そうか」


 商人たちには物も人も足りないバウムガルテン領への補給をお願いしているからな。そっぽ向かれたらまずい。商人たちの動向は常に気にかける必要がある。


「そうだ、アルノーには頼むことがあったんだった」

「お伺いいたします」

「やはり食料が圧倒的に足りないな。まだ余裕はあるが、このままではいずれ尽きる。商人たちには食料をじゃんじゃん運ぶように言っておいてくれ」

「かしこまりました。食品を扱う商会に依頼します」

「あとは彫金師だな。我が領で金が出たのは知っているか?」

「はい、存じております。商人たちの間ではその噂で持ち切りですよ」

「そうか。それでなんだが、金鉱石をそのまま売るよりも金に加工して細工物にした方が値段が上がるだろ? できれば領内で細工物に加工したいと思っているんだが」

「それでしたら、このアルノーにお任せください。既に何人かの彫金師に話をしております」


 アルノー……。立派になったなぁ。


「そうか。頼もしいぞ、アルノー」

「ありがとうございます。ただ、なかなか交渉の方が難航しておりまして……。やはり現役の職人を引き抜くのは反発が大きく……」

「だったら見習いでもいいぞ?」

「よろしいのですか?」

「ああ、教師役に引退した職人を付けてやれば伸びるだろう。採掘というのは時間がかかるらしいからな。その間に育てればいい」

「かしこまりました。引退した職人と見習いなら、さほど苦労はしないでしょう。吉報をお待ちください」

「頼んだぞ」


 これで食料と彫金師の件はアルノーに任せればいいな。商人たちの代表がアルノーと聞いた時は大丈夫かと思ったが、優秀に育っているようだ。


 以前にも必要な人材を集めるようにアルノーに頼んだこともあるし、今回も大丈夫だろう。



 ◇



「お姉さま、アーブラハム王の時代に西方諸国との戦争がありました。この戦争の名前と最終的な勝者はどの国ですか?」

「え? えーっと……。どうだったかしら?」


 アルノーとの話し合いを終えてリビングに戻ると、エレオノーレとクラウディアが居た。どうやらクラウディアのお勉強中のようだ。


「わかりませんわ。エル、そろそろ休憩にしましょう」

「お姉さま、休憩は先ほどしたばかりでしょう?」

「だって難しいんですもの……」


 歴史って暗記科目だから知ってるか知っていないか、勉強しているかしていないかがモロに出るよね。


 意外と怠け者であるクラウディアには不得意な教科なのかもしれない。クラウディアは追い込まれればすごいんだけどね。地頭がいいのだろう。学園で見せた綱渡りのような学習方法はすごかった。


「あら、ディー! いらしていたのですね」


 クラウディアがぱあっと花咲くような天使の笑顔を浮かべた。オレに会えたのが嬉しいのか、勉強を中断できる方法を見つけたのが嬉しいのか、どっちなんだろうな。


 そんな様子のクラウディアの姿を見て、エレオノーレは溜息を漏らしていた。


「二人ともおつかれさま。歴史の勉強かな?」

「ええ。でも、もう終わりました」

「終わってませんよ、お姉さま」

「もう今日はいいではないですか。それよりも、わたくしはまた村の視察に行きたいです」


 村の視察というのは、姫様二人が村の中を歩いて見て回ってバウムガルテン領の発展状況を視察するものだ。一応、二人は領の発展を勉強しに来た身だからね。


 まぁ、散歩みたいなものだ。


「お姉さま、それよりもお勉強しませんと」

「これもお勉強よ、エル。それに、歴史のお勉強は王宮に帰ってからでもできるけど、村の視察は今しかできない勉強だわ。どちらを優先するかはわかりきっているでしょう?」

「もう、お姉さまは……」


 そんなことを言いつつ、エレオノーレの顔は笑っている。実は、お姫様二人は村の視察が大好きなのだ。どんどん発展していく領の様子や、自由に出歩ける今の環境がとても楽しいらしい。


 まぁ、お姫様って立場じゃ気軽に街にショッピングとか行けないよね。


「では、行きますか?」

「はい!」

「はぁ、わたくしも行きます」


 オレは苦笑を浮かべながら、数少ない領兵に招集を命じた。


 しかし、オレたちだけで出かけてはコルネリアたちがまた怒ってしまうな。コルネリアとリリー、あとはカサンドラにも声をかけよう。

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