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125 ゆうべはお楽しみでしたね

 翌朝。オレはコルネリアに誘われて模擬戦をしていた。


「えいっ!」


 コルネリアの持つ聖剣が、真上から振り下ろされる。なんだかいつもよりも切れがいい気がする。コルネリアの目も座っているし、怒っているのかもしれない。


 まぁ、昨日コルネリアの反対を押し切って『深紅の誓い』のメンバーを抱いてしまったからな。コルネリア的には不本意なはずだ。怒っていたとしても不思議はない。


 そんなことを思いながら、オレは余裕を持ってコルネリアの斬撃を右に回避する。


「ッ!」


 コルネリアの持つ聖剣が、まるで回避するオレに吸い付くように跳ね上がった。


 キンッ!


 オレはコルネリアの跳ね上がった斬撃を剣で受け止めると、澄んだ金属音が響く。


 攻撃を防がれたコルネリアはバックステップを踏んで一度オレから離れると、聖剣を正眼に構える。


 もしかしたらオレの攻撃を待っているのか?


 たまにはオレから打ち込んでみるか。


 オレは剣を構え直すと、コルネリアに向かって踏み込んだ。


 一気に離れた間合いを潰し、右手で持った剣を横薙ぎにする。


 コルネリアは……避けない。右から迫る剣をまるで掬い上げるように聖剣を振るった。


 シャインッ!


 先ほどとは違う涼やかな金属音。


 コルネリアはまるで踊っているようにくるりと一回転すると、オレの剣はコルネリアの聖剣の腹を滑るように軌道を上へと変えられてしまう。


 思わず目が奪われてしまうほどの高い技術力。これがコルネリアの実力だ。ギフトの導きがあるとはいえ、コルネリアがひたむきに剣に打ち込んだ証。オレには到底できないような美しい剣筋。


「えいやっ!」


 コルネリアはがら空きになったオレの懐に飛び込んでくる。


 このままでは、コルネリアの攻撃を剣で受けることもできず、回避も間に合わない。負けだろう。《《あの日》》までの俺ならば。


「ッ!?」


 オレは更に一歩コルネリアに踏み込んだ。


 剣を持った相手に更に踏み込むなんて自殺行為?


 違う。もう剣を振る間合いは無い。今にもコルネリアとぶつかってしまいそうなほどのこの距離こそオレの間合い。拳、そして短剣の間合いだ。


 オレは《《左手に持っていた》》スティレットをコルネリアの喉に突き付けた。


「…………負けました……」


 コルネリアが悔しそうに自身の敗北を絞り出す。


 オレはスティレットと剣を仕舞うと、コルネリアの頭を撫でる。


「剣の受け流しは素晴らしかったよ。オレにはあんな綺麗に相手の剣の軌道を変えることはできないよ」

「でも、負けたわ……。今日こそお兄さまに勝とうと思ったのに……」

「オレが短剣を持ってることをもっと重視すれば結果は違ったかもね」

「まさかお兄さまがあそこで踏み込んでくるなんて……。お兄さま、最近すごく強くなったわよね? ズルい」

「ズルいって言われてもな……」


 実を言うと、ドラゴンの血を浴びたあの日から、オレはコルネリア相手の模擬戦にも負け無しだった。


 まるで細胞の一つ一つがすべて進化したような圧倒的な能力向上。目もよくなったし、思考速度まで上昇したような気がする。難しいと言われる二刀流をそれなり以上に使いこなせているのも能力が向上したおかげだろう。


 今では、【アン・リミテッド】を使わずにコルネリアに勝利できるほどだ。


 コルネリアにズルいと言われても仕方ないのかもしれない。


「今日なら勝てるかもって思ったのに……」

「うん?」

「その、お兄さまは明け方まであの女たちを抱いてたんでしょ? なんでそんなに元気なのよ……」


 どうやらコルネリアは、寝不足のオレを狙い撃ちしたみたいだ。


 普通なら寝不足になってもおかしくはない。しかし、今のオレは元気満々である。まるで『深紅の誓い』のメンバーを抱いて英気を養ったみたいだ。


 ドラゴンの血を浴びてからの異常な身体能力の向上。そしてこちらも異常なほどの精力の向上。もしかしたら関係があるのかもしれない。


「お兄さまに勝って、ボコボコにして目を覚まそうと思ったのに……」

「リアさん……?」


 こ、怖い……。


 やっぱり、コルネリアはオレが他の女性と関係を持つことが不満なのだろう。そりゃそうだ。オレだってコルネリアが他の男となんて……。考えるだけで頭が破裂しそうだ。


「リア、すまない……」

「今回は……本当は嫌だけど、もう仕方がないから許してあげる。でも、結婚してない人と一緒に寝るなんてダメよ。不潔だわ」

「ぐぬぅ……」


 面と向かってコルネリアに否定されると心にくるなぁ……。オレの自業自得なんだけど。


「けど、『深紅の誓い』とは一夜限りの約束だから」

「もうしない?」

「それは……」


 オレの脳裏に昨日抱いた『深紅の誓い』のメンバーのあられもない姿が浮かび上がる。鍛えられていながら、しなやかで柔らかな肢体。ゆうべの彼女たちは本当に美しかった。もし、もう一度彼女たちに誘われるとしたら、オレはきっぱりと断ることができるだろうか?


 難しいかもしれない。


 そんなオレの心を読んだのだろう。コルネリアの眉がどんどんと傾斜を高くしていく。


「もう! お兄さまは不潔よ! エッチ! バカ! へんたい! おたんこなす!」

「あ、リア? ちょ、叩くなって。ごめん。ごめんなさい!」

お読みいただき、ありがとうございます!

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