012 出発
「リア、もし嫌だったらしなくてもいいんだ。オレはそれを責めないし、リアを愛していることに変わりはない。でも、少しでもやる気があるなら、オレはそれを全力でサポートする。もしかしたら怖い思いをするかもしれないし、痛い思いもするかもしれない。でも、その傷はオレが必ず治すから……」
「うん! 私がんばる!」
今日はコルネリアを連れて領内のモンスターを退治するつもりだ。オレはコルネリアが嫌がらないか、怪我をしないか、とても気が気じゃない。
だが、コルネリアはなぜか嬉しそうに顔を赤らめていた。透き通るような白い肌と髪をしているコルネリアは、少しでも顔を赤らめるとすぐにわかる。
ちょっとかわいそうにも思えるけど、爺に言わせれば、肌が白く、顔の赤みが分かるのはオレも同じらしい。ちょっと恥ずかしい。
「お兄さま、顔赤いよ?」
それはコルネリアがかわいすぎるのが悪い。
コルネリアがニヤニヤとした笑みを浮かべていた。コルネリアは、オレが顔を赤らめるのを楽しんでいるフシがあった。男が顔を赤らめていることの何が楽しいのかわけがわからない。
「お兄さまってウブでかわいいところがあるわよね?」
どこでそんな言葉を覚えたんだ?
ともあれ、やられっぱなしというわけにもいくまい。オレは反撃に出た。
「かわいいのはリアだよ?」
コルネリアの耳に唇を寄せて囁くと、コルネリアは耳まで真っ赤になった。
「な、あ、お、お兄さま!?」
「兄をからかうからそうなるんだ」
「もー!」
コルネリアが不服そうに頬を膨らませてオレを上目遣いで睨む。
とはいえ、コルネリアも本気で怒っているわけじゃない。その目には笑みがあった。
あぁ! 本当にコルネリアはかわいいな!
「ひゃ!? お、お兄さま!?」
オレはコルネリアを抱きしめる。コルネリアが生きている奇跡を噛み締めて。
コルネリアが助かって本当に良かった。
「温かいね?」
「もー、お兄さまったら……」
コルネリアもおずおずとオレの体に手を回した。
季節は冬。寒さが厳しい季節だ。子ども特有の高い体温が温かい。
「ゴホンッ! 準備はお済ですか? これからモンスターの討伐なのですが……?」
「爺や!?」
コルネリアが爺の存在に今気が付いたように大袈裟に驚き、オレとの抱擁を解いて、軽くオレを遠ざけるように押した。
オレとの抱擁を爺に見られるのは恥ずかしいらしい。コルネリアの顔は耳まで真っ赤だ。
まだまだだね、コルネリア君。
「爺、そっちの準備は整ったのかい?」
「はい。バウムガルテン兵団、準備完了です」
爺の言うバウムガルテン兵団は、預かっている子どもたちの中から卒業した特に武術に優れている者を雇い入れたバウムガルテン初の常備兵だ。ちなみにお風呂の湯沸かし係のバッハ君もここに配属されている。
「そのバウムガルテン兵団と言うのはよせ。人員が四人しかいないんだ。兵団もクソもない」
爺の息子で兵たちをまとめるアヒム、槍と弓にそれぞれ秀でた卒業生の二人。そして、常備兵兼飯炊き係でもあるバッハ君。この四人だけだ。
ちなみにバッハ君はコック見習いでもある。他の三人もそれぞれなにか仕事を掛け持ちしている状態だ。使用人の数が少ないから仕方ないね。
「じゃあ、出発するか。リア、大丈夫かい?」
「はい!」
「お二方とも、十二分に気を付けてください。兵団の四人が付いているとはいえ、モンスターはどいつもこいつも獰猛です。特にコルネリア様は本日が初陣です。他の四人にも言い含めておきましたが、重々ご警戒ください」
「はい……!」
「そんなにリアを脅かすなよ、爺。絶対に大丈夫だ。オレがリアを護るからな!」
「お兄さま……!」
コルネリアが感動したように頬を染めて涙目でオレを上目遣いで見た。
あまりの可憐さに心臓が早鐘を打つ。頬が熱くなるのが分かった。きっと、オレの頬もコルネリア同様赤くなっているのだろう。
まぁ、オレなんかよりよっぽどコルネリアの方が強いんだけどな。でも、護り方ってのはなにもコルネリアよりも前に立って護ることだけじゃない。オレはオレのやり方でコルネリアを護るつもりだ。
「じゃあ行ってくる。後のことは任せたぞ、爺」
「かしこまりました。くれぐれもご注意ください」
「いってきます!」
こうしてオレとコルネリアは常備兵の四人と合流し、一路南を目指した。
本来なら馬車で行きたいところだが、貴族が乗るような馬車なんてバウムガルテン領には無い。それどころか馬すらいない。馬は維持費がバカにならないからな。そんなものを養う余裕なんてない。
ではどうするかといえば、ロバの引く荷馬車に乗った。当然サスペンションなんかは付いてないからひどく揺れるし、屋敷からクッションを持ってきているとはいえ座り心地も最悪だ。
オレ一人なら我慢もできるが、今日からはコルネリアも使うことになる。この荷馬車を改造して乗り心地をあげるか、それとも新たに馬車を買うか、悩みどころだな。
「ふんふふふーん♪」
だが、オレの心配をよそに、コルネリアはご機嫌だった。おそらく、ずっと邪神の呪いで臥せっていたから、屋敷の外に出るというのが楽しいのだろう。
このままコルネリアがご機嫌なままこの旅も終わればいいな。
そう願わずにはいられなかった。
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