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116 宝珠とトレント

 コーンッ! コーンッ! コーンッ! コーンッ! コーンッ!


 森の中を進むオレたちを後押しするように木こりが木に斧を振り下ろす快音が響き渡っている。冒険者たちが森に入っているので、モンスターを気にせずに、安全に木こりができるのだ。


 倒した木は乾燥させて、そのまま建設資材に回させてもらうつもりだ。ちゃんと有効活用しないとね。


 一定リズムに響く快音に背中を押されるように、オレたちは森の奥深くへと進んでいく。もう三度の戦闘を経て、不安は無し。パーティはちゃんと機能している。


 木々の切れ間から見えた遠くの山々。いつかはあそこまで森を開けるといいな。


 王様の出した領地の切り取り次第自分のものにしていい約束だが、それがいつまで続くかはわからない。今のうちに広げれるだけ広げてしまおう。


「池、ですわね」


 がんばろうと思ったところで、さっそく池にぶつかってしまったようだ。濁った水を湛えたけっこう大きな池だ。飲み水としては利用できないな。


「こっちに行きましょう」

「了解」


 エレオノーレは池を右回りに進むことにしたようだ。隊列を乱さずに付いて行く。


「ッ!? モンスター!」


 五分ほど歩いたところで、エレオノーレの鋭い声が響く。


 だが、一見モンスターの姿は見えない。どこに居る?


「目の前の木ですわ! トレントです!」


 ギギギギギギギギギギギギッ!


 エレオノーレの声と同時に目の前の大木が不愉快な音を響かせて動き出す。木に化けたトレントだ。


「せや!」

「えいや!」


 クラウディアとコルネリアがトレントに斬りかかるが、トレントの表面を砕くだけに終わってしまう。


 これがトレントの物理攻撃耐性か。


「硬い!」

「リリー!」

「ん」


 リリーが頷くと同時に、リリーの頭上に光の魔法陣が生まれた。ゲームで見たことがある。フォトンレーザーの魔法陣だ。


「はっしゃ」


 いつもよりもいくぶんキリッとしたリリーの声。同時に魔法陣からスイカほどの太さのレーザーがトレントを穿つ。


 ジュウウウゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!


「Ahoaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」


 トレントを貫く光のレーザー。トレントの顔のように見える三つの木の割れ目。その眉間にはスイカ大の穴が開き、プスプスと燻っている。


 しかし――――ッ!


「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」


 バッサバッサと枝を振って暴れまわるトレント。体に穴が開いているというのに、死んでいないらしい。


「これは……」

「どうしますか!?」


 枝を鞭のようにしならせて暴れまわるトレントは手が付けられないな。仕方ない。実験も兼ねて手札を一つ切ろう。


 オレは懐から拳大の丸い宝玉を取り出した。ゲーム内でも一つしか入手できないレアアイテム。炎滅の宝珠だ。その効果は――――!


「燃えろ……!」


 自分の中の聖力と呼ばれるMPを消費し、オレは現実を塗り潰し、選ばれた者のみに許された奇跡を起こす。


「ファイアランス!」


 オレの頭上に現れたのは、炎の槍だ。


 炎の槍は出現と同時にトレントに高速で飛翔する。


 ドゴンッ!!!


「PIGYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAQAAAAAAAAAAAAAAAA!?」


 炎の槍は着弾と同時に大爆発し、トレントの半身を引き裂き消し飛ばした。


 さすがに体を半分以上奪われては思うように動けないのか、トレントの動きが止まった。


「火の魔法ですって!?」

「なぜディーが火の魔法を!?」

「まずはトレント倒しちゃおっか」

「もう! ちゃんと話を聞かせてもらいますよ!」


 そう言ってトレントに飛びかかる前衛三人娘。


「いいの?」

「ん?」

「それ」


 リリーがオレの手に持つ炎滅の宝珠を指さす。


 エレオノーレとクラウディアに宝珠の力を見せてよかったのかと言っているのだろう。


 オレは頷くとリリーの頭を撫でた。


「あいつらは敵じゃないからな」

「そう」

「リリーもすべての魔法を使ってもいいぞ? あの二人はお前が邪神の呪いだったことも知っている」

「ん」


 リリーは石と光の魔法だけではなく、七つの属性魔法のすべてを使うことができる。必要な時に必要な属性の魔法を使うことができるリリーはかなり強い。積極的にギフトを育てたい対象だ。


「リリー、聖力が半分になるまで好きに魔法を使っていいぞ。その代わり、なにかあった時のために半分は聖力を残しておいてくれ」

「ん。わかった」

「いい子だ」


 リリーの頭を優しく撫でると、リリーが目を細めて気持ちよさそうにする。


「ここも触っていい」

「ん?」


 リリーがオレの手を取ると、なんと自分の胸へとペタンとくっつけた。なにを考えているんだ?


「リリー? リリーはたまに淑女らしからぬことをするね」

「ん? でも、お兄はおっぱい好き。ドーラお姉が言ってた」

「あいつ……」


 リリーになにを吹き込んでいるんだよ……。


「そろそろ終わりかな?」


 前を向けば、立派な大木のようなトレントがゆっくりと倒れていくところだった。

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