114 執務
翌日。
昨夜の宴も乗り越えて、朝日が昇る。朝日に照らされたのは、まさに屍累々とした広場だった。
オレたちは途中で切り上げたが、領民のほとんどがあのまま宴を続けたらしい。多くの領民が、酔い潰れて寝入っている。
そういえば、オレを除いてカサンドラたちも二日酔いで辛そうだったな。あの甘い酒はそれなりにアルコール度数が高かったらしい。
その中にあってオレの意識は明瞭だ。二日酔いの症状もみられない。もしかしたら、この体は酒に強いのかもしれないな。
「爺、フライパンとお玉を持ってきてくれ」
「かしこまりました。そんなものでいかがなさるおつもりですか?」
「連中を起こしてやろうと思ってな」
「それは……」
爺が憐れな者を見る目で寝っ転がっている領民たちを見ていた。
◇
ガーン!!! ガーン!!! ガーン!!! ガーン!!! ガーン!!!
フライパンをお玉で乱打すると、けたたましい金属音が響き渡る。
「おーら、起きろー!」
「ぐあぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「くおぉぉぉおおおおおおぉぉぉおおおおおおおぉぉぉおおおおお!?」
「あああああああああああああぁあぁぁぁぁっぁぁあああぁぁぁぁっぁぁぁあ!?」
「じぬ!? 死んじまうぅぅぅううううううううううううううう!?」
二日酔いに効果は抜群みたいだな。寝入っていた領民たちが、まるでゾンビのようにゆっくりと体を起こす。
「さあ、片付けるぞ。宴はお片付けまでがセットだからな」
「もっと後からでいいんじゃないですかい?」
「そうそう、お天道様が真上を回ってからでも……」
「んだんだ」
オレは無言でフライパンとお玉を構える。
「そんな殺生な……」
「姫様方も見ているんだ。いつまでも情けない姿をさらすんじゃない」
まぁ、そのお姫様たちも二日酔いで自分のベッドでダウンしているがな。
そんなこんなで、オレはゾンビの群れを指揮して宴会場を片付けていった。
◇
「爺、冒険者ギルドはどうなっている?」
「先に職員だけ送ってきました。建物は後から作るそうです」
「職員が居るということは、業務に支障はないのか?」
「彼らの持つ資金にも限界はありましょう。本格始動は建物が建ってからでは?」
「ふむ。そのあたりを確認しておいてくれ。とくに業務の開始日が知りたい。そして、金が必要ならバウムガルテンで立て替えることも可能だと伝えておいてくれ」
「かしこまりました。冒険者の方々はどうなさいますか?」
「彼らにも仕事を与えなくてはならないな。そのあたりも冒険者ギルドと調整が必要か。一度冒険者ギルドの責任者を呼びつけるか」
「かしこまりました。予定の調整をいたします」
「頼んだ」
広く真新しい執務室。その中でオレは溜まっていた仕事を片付けていく。まだ慣れない部分も多いが、オレの仕事は決定し、責任を持つことだ。実務は他の者に任せている。
「新しく領民になる者たちの家は完成しているのだったか?」
「はい。しかし、新しい家を見た者たちからは羨望の声があがっています」
「そうか……」
まあ、新しく領民になった者たちに与えたのは、学園の寮みたいな木でできた簡素な集合住宅だ。泥レンガで作られた家に住んでいる昔からの領民たちが羨ましがるのもわかる。
モンスターが蔓延るバウムガルテン領の領民たちにとって、森に入るという危険を冒さねば手に入らない木材は貴重品だ。つまり、木造りの家というのは、それだけで羨望の的なのである。
「オレは森を切り開くつもりだ。冒険者も来たからな。これからは冒険者を護衛に付けて木を切り倒すこともできる。木材が安定供給されるだろう。木材への羨望など無くしてやるわ」
「そうなってほしいものですな。それから、旦那様が連れ帰った職人たちによる技術供与ですが……」
「なにか問題でもあったか?」
「本日は多くの者たちが二日酔いですので、本格的なスタートは明日からとなりそうです」
「まぁ……、仕方ないか……」
酒など普段から飲めない連中だ。自分の限界などわからず、酒に飲まれても仕方がない。
「あとはそうですな。一部の冒険者たちが森へと入っているようです」
「モンスターの傾向でも調べているのだろう。やらせておけ」
「かしこまりました。それから教会の動きですが……」
「教会か……」
教会と聞いて、ちょっと嫌な気分になる。オレは教会の連中が嫌いだからな。
「そんな顔をしないでください。旦那様が不機嫌そうにすれば、報告者が報告を見送るということがありえますぞ。領主たる者、常に余裕な態度を崩してはなりません」
「わかった……」
嫌な顔一つできないとは、領主ってずいぶんと窮屈だな。だが、爺の言っていることももっともだ。これからは顔芸も身に付けなければならんな。
「それで、教会の連中がどうした?」
「それが、大幅な人員の増強がありまして、新たに教会を建てる許可を求めております」
「大幅な人員増強……。爺はどう見る?」
「おそらくですが、旦那様の異常なギフトの成長スピードにあやかりたいのでしょう」
「あやかりたい? 秘密を探るのではなく?」
「無論、秘密を探りたいのが本音でしょうが、教会の中にはバウムガルテンというなにもかも足りぬ辺境での修行がいいのではないかという考えの者が多いらしく……」
そこまで言って爺が苦笑する。
そうだね。またずいぶんな言われようだ。
「教会の連中がバウムガルテンは修行に適さないと思うまで発展させないとな」
「その意気です」
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