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110 最後の挨拶

 麗らかな朝日の中、オレたちは優雅に朝食を取っていた。


「お兄さま、パンのおかわりはいかがですか?」

「ありがとう、リア」

「リアさん、わたくしにもいただけるかしら?」

「はい、お義姉さま」


 カサンドラが来た日には爆発してしまったコルネリアだが、今は笑顔でカサンドラと会話している。


 不安に思っていたが、カサンドラとコルネリアの関係も良好だ。今ではカサンドラのことを「お義姉さま」と呼んでいるくらいである。


 リリーとカサンドラの関係には不透明なところがあるけど、リリーもカサンドラのことを「お義姉さま」と呼んでいるし、一応はカサンドラのことを認めてくれているのかな?


 もちろんオレとカサンドラの関係も良好である。ちょっと夜の生活でトラブルはあったものの、カサンドラは常にオレを立ててくれるし、気を使ってくれる。オレもなにかの形でカサンドラに返していきたいな。


 しかし、カサンドラが来たことでいろいろわかったことがある。王都のバウムガルテン邸が伯爵としてふさわしくないほど小さくボロいこと。オレたちが伯爵にふさわしい礼儀作法や教養を身に着けていないことなどなど。


 中でも一番大きいのは、コルネリアの気持ちを知れたことだろう。


 コルネリアは、幼い頃交わしたオレと結婚するという約束を覚えていた。そのこと自体嬉しいし、正直に言えばホッとした。


 オレはコルネリアが結婚して家を出ることを恐れていたのだ。


 オレは、コルネリアに特別な絆を感じている。コルネリアと離れたくなかった。


 だが、コルネリアと結婚すれば、ずっと傍に居ることができる。


 これは、コルネリアを一人の女性として愛しているということなのだろうか? それともただの醜い独占欲なのか? 今のオレにはまだわからない。


「そういえばディー?」

「なんだい、ドーラ?」

「わたくし、そろそろ王宮のお仕事に復帰したいのですけど、許していただけますか?」

「王宮の?」


 カサンドラはクラウディア付きのメイドをしていたな。それも、メイド長のように他のメイドさんたちの上に立つようなメイドさんだ。


 カサンドラはバウムガルテン家に来てから王宮に行っていない。


 貴族の女性は結婚すると仕事を辞めると聞いていたのだけど、カサンドラは辞めたくないのかな?


「続けたいの?」

「はい。できればお許しいただきたいです」

「わかった。いいよ、クラウディア殿下によろしくね」

「ありがとうございます、ディー」


 カサンドラが本当に嬉しそうに微笑んだ。クラウディアに会えるのが嬉しいのだろう。カサンドラとクラウディアの間には二人だけの確かな信頼関係がある。


 そうだ。あのことをカサンドラに訊いてみよう。


「ドーラ、リアとリリーの礼儀作法なんだけど、王宮に入れた方がいいと思うか?」

「王宮ですか? 王宮は既に一通りの礼儀作法を身に着けた者を対象にしておりますので……」

「そうか……」


 カサンドラが困ったように首を横に振る。


「それでしたら、わたくしがリアさんとリリーさんの礼儀作法を見ましょうか?」

「しかし、そうするとドーラがたいへんじゃないかい?」

「大丈夫ですわ。それに、もうすぐバウムガルテン領に向かうのでしょう? その時にでも」

「そうか。わかった。頼むよ」

「はい」


 コルネリアとリリーの礼儀作法はカサンドラに見てもらうとして、オレはどうしようか? オレも伯爵に相応しい立ち居振る舞いなんてわからない。


「できればオレの立ち居振る舞いも見てもらえないか? オレも不安なんだ」

「はい、かまいませんよ」


 眩しいものを見るように目を細めるカサンドラ。その綺麗な笑顔だけで、オレはなんでもがんばれる気がした。


 改めて思うけど、カサンドラは美人なんだよなぁ。十三歳がなにを言ってるんだと思われるかもしれないが、カサンドラには大人の余裕とか色気を感じる。カサンドラを見ていると、ふとした時にベッドの上で乱れるカサンドラを思い出してしまい赤面してしまう難点はあるが、可能ならばずっと見ていたい。そんなことを思ってしまうくらいだ。



 ◇



 その日、オレはいつものようにクラウディアに呼ばれていた。


 いよいよバウムガルテン領に行く準備も整ってきたし、おそらくこれが最後の別れになるだろう。


「そういえばディー?」

「はい、なんでしょう、クラウディア殿下?」


 クラウディアが、常とは違う笑いをこらえるような表情でオレを見ていた。


 なんだ?


「ドーラから聞きましたよ。あなた、なかなかの絶倫だそうですね?」

「ぜつ、りん……?」


 お姫様の口から出るとは思えない言葉に思わず聞き返してしまった。


「平たく言えば、色を好むになるでしょうか? 日に何度もドーラを求めているようですね?」

「ッ!?」


 は!? おいおいカサンドラさん!? お姫様になに言ってくれちゃってるの!?


 思わずカサンドラの方を向けば、カサンドラは恥ずかしそうにお盆で顔を半分隠していた。その顔は真っ赤だ。


 恥ずかしいなら言うなよ!?


 なんで夫婦の秘密を暴露しちゃうんだよ……。


「いや、その、それは……。いやー、あはは……」

「英雄色を好むなんて言葉もありますし、照れなくてもよろしいのではなくて?」


 くそー。絶対クラウディアは面白がってる! あんなにニコニコと満面の笑みを浮かべたクラウディアなんて見たことがないぞ!


 しかも、近くに居たメイドさんたちも聞いていたのか、少し顔を赤くしてオレを見ていた。その中にはクラスメイトだって居る。なにが悲しくてクラスメイトの女子に夫婦生活を暴露されなくてはいかんのだ!


「あの、クラウディア殿下? そろそろこの話題は……」

「あらどうして? 伯爵家も安泰でよかったではありませんか?」

「ぐぬぅ……」


 こいつぅ……!


「でもそうですね。このままではディーもいたたまれないでしょうし、話題を変えましょう」

「ありがとうございます……」


 わかってるなら最初から話を振らないでくれよ……。


「ドーラから聞いたのですが……」

「ッ!?」


 その話の入り方だけで体がビクッとしてしまう。クラウディアは人が悪そうな笑みを浮かべて、そんなオレを見ていた。


「ふふっ。ディーは領地の開発のために、一度領地へと帰るようですね?」

「はい、クラウディア殿下。しばらく王都を留守にいたしますので、殿下へのご機嫌窺いに参上することが叶いません」

「ああ、それならば大丈夫ですよ」

「え?」

「そうですね。まだディーには内緒にしておきます」


 そう言ってクラウディアは面白そうにオレの顔を見て笑っていた。

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