109 カサンドラと
コルネリアの怒りは、カサンドラとリリーの活躍によって沈静化した。
まさかコルネリアがこの歳になるまでオレと結婚するという約束を覚えていたとは……。知らなかったとはいえ、オレはこれまでずいぶんとコルネリアの気持ちを逆撫でしていたんだな……。
オレはコルネリアを幸せにしたかっただけなのに、こんなにもお互いの気持ちがズレていたなんてな……。
しかし、雨降って地固まるではないが、コルネリアの気持ちが知れてよかった。
コルネリアの説得には、カサンドラが大きな働きをしてくれたらしい。この家に来たばかりなのに、いきなりこんなことになってしまって、なんだか申し訳ないよ。
コルネリアを説得してくれた恩もある。ますますカサンドラを大事にしなくては。
そんなオレとカサンドラは……。
「…………」
「…………」
静まり返るオレの自室。そこにはオレだけではなく夜着に着替えたカサンドラも居る。夫婦で過ごす最初の夜。つまり、そういうことだ。
オレは前世も合わせてこういった経験がない。貴族の令嬢であるカサンドラも経験が無いだろう。不安だ。上手くいくだろうか?
キス一つだって満足にできなかったんだぞ? 不安しかない。
かなり緊張する。喉がカラカラだ。
「ディートフリート様はご経験がありますか?」
「……ない」
「十三歳ですものね。これからなにをするか、知っていらっしゃいますか?」
「ああ」
「おませさんですのね」
クスクスと笑うカサンドラ。オレは十三歳。そしてカサンドラは十八歳。もしかしたら、年上としてオレをリードしようとしているのだろうか?
だが、オレは転生者だ。前世を合わせれば自分の半分も生きていないような少女にリードされるのはなんとなく恥ずかしかった。
だからオレは不安を乗り越えて口を開く。
「できる限り優しくするから。それと、オレのことはディーと呼んでくれ」
「はい。優しくお願いします。わたくしのこともドーラと呼んでください」
「ああ。じゃあ……ドーラ」
「はい、ディー」
オレはカサンドラに手を伸ばして彼女をベッドの上にリードする。
カサンドラは嫌がらずにオレの手を取ってくれた。
◇
「ふぁー……」
すごかった。とにかくもうすごかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
月明かりだけが照らすベッドの上。その上で荒い息を吐くカサンドラ。その目の端には大粒の涙が浮かんでいた。
自分なりに優しくしたつもりだったが……。やっぱり不足だったのかな?
激しく上下する白いカサンドラの豊かな胸。誘われるようにオレはカサンドラの胸に手を伸ばしていた。
「ディー……?」
「ドーラ、すまない……」
「え?」
「すまない。もう一度いいか?」
「え? え!? ちょっと、ディー? 少し休憩を、ん……っ!」
「もう収まりそうにないんだ」
◇
「けだもの……」
「…………」
「ディーはけだものです……」
「…………」
翌朝。オレはカサンドラの責めるような涙目に土下座してしていた。
あれからカサンドラと何回もしてしまった……。初めての少女相手にかなり無茶をしてしまったと思う。
最後の方なんて、泣いて「もう止めて」と懇願しているカサンドラに己の欲望をぶつけただけだったからな……。カサンドラがオレをけだものとなじるのも無理はない。
「すまなかった……。その初めてのことで、自分を制御できなかったんだ……」
ボサボサの黒い髪の毛。涙目でオレを見つめる黒い瞳。微かに震える白く細い肩。キュッと強く布団を掴む手。カサンドラのすべてが魅力的に見えて、また抱きたくなってしまう。
「それでも、ものには限度というものがあると思いますの……」
「その通りだ……」
その通り過ぎてなにも言えない。
「痛かったです……」
「本当に申し訳ない……」
オレもこれまでこんなにも自分の自制心が薄っぺらだとは思わなかった。これじゃあリーンハルトのことを笑えないな。
「今更信じてくれないかもしれないが、我を忘れてしまうくらいドーラが魅力的だったんだ。今もそうだ。オレの中で理性と欲望が争っている」
「…………」
「本当なんだ。こんなことになるなんて自分でも驚いているくらいだよ」
「もう一度言ってくださいませんか?」
「なにを?」
「わたくしはそんなに魅力的でしたの?」
「ああ。ドーラは魅力的だよ。オレの中の価値観が変わってしまうくらいには」
「そう……」
「…………」
少しだけカサンドラの放つトゲトゲしたオーラが優しくなった気がする。
「今回は許してさしあげますわ」
「本当に? ありがとう。すまなかった」
「でも、今度からわたくしの体のことも気遣っていただけると嬉しいです……」
今度ということは、カサンドラはオレと肌を重ねることを拒否するようなことはないようだ。
「それは……善処するよ……?」
「確約ではないのですね?」
「次はどうなるか、自分でも自信がないんだ……」
約束したいけど、自分でもどうなるかわからない。まさかオレが自分の内にこんなけだものを飼っているとは思わなかったな……。
カサンドラには悪いと思っているけど、こればかりは約束できない。
「そんな泣きそうな顔をしないください。わかりました。夫の欲望を鎮めるのも妻の役目ですものね」
カサンドラが敢えて明るい声で言った。気を使わせてしまったな。
「ありがとう、カサンドラ。愛しているよ」
「まあ調子がいい」
それから二人して笑ってしまった。
次からは本当に気を付けよう。
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