104 奇襲
その日は突然やってきた。
「バウムガルテン卿! バウムガルテン卿は居るか!」
朝食もまだだという早朝。使用人たちも大忙しだろう時間帯に大声が響き渡った。よく通る男の声だ。
否が応でもヒューブナーの使者を思い出してしまうな。こういう場合、あまりいいことがあった試しがない。今回はいったいどんな輩が来たんだ?
「困ります」
「ええい、どかんか!」
使用人の制止の声を振り切って、ドスドスと足音が近づいてきた。
「おお! バウムガルテン卿、ここに居ったか! 返事くらいせんか!」
いったいどんな無礼者が来たのかと思っていたが、食堂のドアをバーンと開けて入ってきたのはアルトマイヤー将軍だった。相変わらず筋肉モリモリマッチョマンだな。見ているだけで暑苦しい。
「アルトマイヤー将軍、こんな朝早くからいかがいたしました? よろしければ一緒に朝食でもどうです?」
まだコルネリアとリリーも起きていない時間だぞ? 二人は昨夜一緒に寝たようで、夜遅くまで起きていたようだからな。今日は起きるのは遅いようだ。
「心遣いに感謝する! しかし、今日は急ぐぞ? 兵は神速を貴ぶと言うだろ?」
オレは貴方の兵ではないんだがなぁ……。
「では、行こうか」
「え?」
行く? 行くってどこへ?
そして、オレは誘拐されるように身一つでアルトマイヤー将軍に連れ去られたのだった。
◇
「それで、どこに行くのですか? せめて服くらいは着替えたいのですが……」
アルトマイヤー将軍に連れて来られた馬車の中。狭苦しさを感じつつアルトマイヤー将軍に問うと、彼はニカッと清々しく笑ってみせた。
「なに心配するな。服は既に用意してある!」
なんかすげー手際がいいな。計画された犯行か?
「それより、バウムガルテン卿は覚えているか? 汝には報酬を渡すと約束したはずだが?」
「もちろん覚えています」
オレは遠慮せずに貰えるものは貰う主義なのだ。
「なら心配ないな。陛下の許可が下りずなかなか時間がかかってしまったが、バウムガルテン卿には我が家のとっておきの秘宝を納めてもらいたい!」
「おぉ!」
思わず喜色が漏れてしまう。なにせ、アルトマイヤー侯爵家は古くからあるこの国の重鎮だ。そんな侯爵家の前当主であるアルトマイヤー将軍が、王家に掛け合ってまで出してくる秘宝。これはもしかすると、国宝とかそういうレベルのお宝なのでは?
期待が高まっていくのを感じる。まさかとは思うが、ゲームでも行方不明だった聖剣とか出てきたりしないか?
「着いたな。行くぞ!」
「はい!」
アルトマイヤー将軍に続いて馬車を降りる。
「教会……?」
馬車は王都にある一番大きな大聖堂で止まっていた。
なぜ教会に? もしかして、教会に国宝が安置されているのか? もしくは、聖剣ではなく魔剣の状態なのかもしれない。魔剣は瘴気がすごいからね。教会で安置しようというのもわかる気がする。
「行くぞ、バウムガルテン卿! 男を見せろ!」
「はい!」
やっぱりそうだ。男を見せろということは、なにか試練でもあるのだろう。魔剣を解呪して手に入れてみせろと言外に言われた気がした。
◇
「ふむ?」
オレは大聖堂の一室に通され、そこで着替えさせられた。真っ白な、なんとも装飾華美な衣装だな。
教会だから白色というのはわかるが、こんなにゴテゴテしてなくてもいいだろうに。それとも、やはり国宝を貰うのだからそれなりの格好をしないとダメなのだろうか?
「おお! いい男ぶりだな、バウムガルテン卿よ!」
振り向けば、こちらも正装をしたアルトマイヤー将軍が居た。
「汝の両親は亡くなっているらしいな。普通は寄り親がするべきなのだが、汝とヒューブナーの関係は険悪だ。今回は儂が父親役を果たしてみせよう」
アルトマイヤー将軍が保護者役をしてくれるということだろうか?
保護者というよりも監督役と見るべきか?
「はい、おねがいします」
「うむ。では、行くか」
オレはアルトマイヤー将軍に連れられて、大聖堂の中へと入る。
大きな扉が開けられた瞬間、大きな歓声が耳に響いた。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう、バウムガルテン卿!」
「おめでとうございます!」
大聖堂の中には、朝も早い時間だと言うのにたくさんの人が居た。そして、口々にオレへと祝福の言葉をかけてくる。
かなりビックリした。なに? なんなの、この人たち?
あれか? 国宝を一目見ようと集まった人たちだろうか?
赤い絨毯の敷かれた道の先には、いつかみた教皇が柔和な笑みを浮かべていた。
「主役が揃いましたな。それでは、これより結婚式を執り行いましょう」
「え……?」
今、なんて……?
結婚? 誰と誰が?
「新郎新婦入場!」
「どうした? 行くぞ、バウムガルテン卿?」
「え? え?」
「驚いているな?」
アルトマイヤー将軍が、まるでいたずらが成功した子どものような表情を浮かべていた。
そりゃもちろん驚いている。というか、なにがなんだかわからない。どういうことなの?
「汝には黙っていたが、儂の孫娘をどうしても娶ってほしくてな。ちと策を弄させてもらったのよ」
「はい?」
孫娘を娶る? オレが? というか、この結婚式ってオレの結婚式なの!?
「えぇえ!?」
オレの困惑した声は、盛大な拍手によってかき消されていた。
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