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102 エレオノーレとお茶会

 人生十二度目の王宮。なんか最近王宮に呼ばれる回数が飛躍してるんだよなぁ。


 それというのも、クラウディアとエレオノーレが事あるごとにオレを王宮に呼ぶのだ。


「こちらになります」

「ああ」


 そして通されるのは王宮の中でも奥に位置する王族の私的なスペースだ。最初は緊張していたが、なんだか慣れてきちゃったよ。


「よく来てくれましたね、ディー」

「エレオノーレ殿下、ディートフリート・バウムガルテン、お呼びと伺い参上いたしました」


 澄ました顔にちょっぴり嬉しそうにしてエレオノーレが迎えてくれる。


 今日エレオノーレに呼ばれたのは、オレ一人だ。クラウディアはコルネリアやリリーとも会いたがり、エレオノーレはオレと一対一で会いたがる。


「どうぞ、おかけになって」

「失礼します」


 さすがに学園とは違ってたくさんのメイドたちの視線があるからね。気安い態度は取らない。そのメイドさんたちの中には、学園で見たことある子も何人か居た。


 たぶん彼女たちは行儀見習いで王宮のメイドをしているのだろう。もしくは、お金に困った貧乏貴族の娘とかかな? 貴族って体裁を整えるのにかなりお金がかかるからね。


 オレもコルネリアやリリーを王宮に行儀見習いに出してみようか。


 ちゃんとした教師に教わったわけじゃないから、オレたちの礼儀作法ってあんまり自信ないんだよね……。


「失礼いたします」


 そんなことを思いながら椅子に座った途端に中年のメイドさんがお茶とお菓子を用意してくれる。この中年のメイドさんが、エレオノーレ付きのメイドさんの中で一番偉いのだろう。優しそうな笑顔を浮かべているが、なんだか貫録を感じる。


 今日のお菓子はクッキーのようだ。小麦とバターの香りがふわりと香る。


 王宮のお菓子はおいしいから期待だな。


 初めにエレオノーレがクッキーを一つ摘まんで食べ、お茶を飲む。今では形骸化しているが、これは毒見をしているのだ。自分の用意させたお茶やお菓子を最初に食べ、毒が入っていないことを証明しているのである。


 まぁ、今では礼儀作法の一環みたいな認識だけどね。お菓子を用意した人物より先にお菓子に手を付けるのはマナー違反となるので気を付けましょうくらいの意味合いしかない。


「どうぞ、ディーもお召し上がりになって」

「ありがとうございます」


 エレオノーレが食べ終わるのを見届けると、オレはさっそクッキーに手を伸ばす。一口で食べられるような小さめのクッキーだ。おそらく、クッキーの食べカスで服が汚れないようにという気遣いだろう。


 割らずに口の中にクッキーを放り込んで噛むと、クッキーはほろほろと崩れ、途端に小麦の香ばしさとバターの濃厚な甘みを感じる。うまい。やはり宮廷料理人の腕は卓越しているな。


「ふふふ」


 二つ三つとクッキーを食べていたら、小さく笑い声が聞こえる。エレオノーレだ。エレオノーレが笑っているのだが、その表情は普段のエレオノーレを知っている者なら見間違いかと思うほど柔らかい表情をしていた。まるで我が子に笑いかける理想の母親のようでもあり、恋人だけに見せるような特別な表情のようにも思えるほどだ。


 そんな笑みを見せられて、オレは顔が熱くなり、鼓動が跳ね上がったのを感じた。


 なんだ? この恥ずかしいような嬉しいような気持ちは?


「なにか……?」

「ディーはいつもたくさん食べますね。ですので、今日は多めに用意してもらいました」


 たしかに皿の上にまるで模様を描くように置かれたクッキー群はいつもよりも量が多い気がする。


 というか、エレオノーレはそんなことまで覚えていたのか。


「余ってしまったらどうしようかと思いましたが、気に入っていただけたようで嬉しいです」

「ありがとうございます……」


 なんだかちょっと恥ずかしい……。


「これも妻……。いえ、わたくしの役目ですもの」


 そう言って朗らかに笑うエレオノーレ。人を呼んだホストとして人をもてなすのはあたりまえのことみたいな話かな? さすが王族。しっかりしてる。


 それにしても、エレオノーレがこんなに優しい顔を浮かべるなんてなぁ。学園での気難しそうなエレオノーレを知っている者ならば、ギャップで風邪ひくに違いない。ゲームでもいつもキリッとしていたのに。


 でも、オレはそんなエレオノーレが愛おしく感じてしまう。たしかにエレオノーレは、オレが幼い恋をしたゲームのキャラクターの通りではないのかもしれない。しかし、オレには今の現実のエレオノーレの方がよっぽど魅力的に見えた。


 今のエレオノーレは、あたりまえだが人間味というか温かみがある。ゲームのクールでカッコいいエレオノーレももちろん憧れるけど、オレはエレオノーレの笑顔が好きなのだ。


「ディーは意外と甘いものが好きですね。かわいいです」

「エレオノーレ殿下の方がかわいいですよ」


 気が付けば勝手に口が動きそんなことをのたまっていた。


 エレオノーレの顔が一気に赤くなる。オレの頭も一気に熱くなった。


「いや、あの、なんだ……」

「うれしいです……」


 慌てるオレの耳に、ポツリとエレオノーレの呟きが届いた。


 ちょっと俯いて、顔を真っ赤にして上目遣いでオレを見てほほ笑んだエレオノーレ。


 なんだよこのかわいい生物!

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