100 王都冒険者ギルド③
「バウムガルテン領か。どんな所なんだろうな?」
「腕が鳴るぜ」
「姐さんも行くんですかい?」
「乗るしかないでしょ、このビッグウェーブに!」
冒険者ギルドの中は、冒険者の熱気に包まれていた。
「俺たちはどうするよ?」
「伯爵の言葉がすべて本当とは限らねえ。まずは様子見だな」
予想以上の大成功を収めたオレの演説だが、もちろん全員が全員に響いたわけじゃない。中には慎重な者も居るし、懐疑的な者も居る。
まぁ、これまでまったく見向きもされなかったんだ。少しでも冒険者が来てくれたら御の字だな。
あとは帰る街々で同じような演説をすればもっと冒険者を集められるだろう。
「さて、次はギルド長の説得だな。冒険者ギルドが無ければ冒険者たちが困ってしまう。行くぞ、クラウス」
「はい、旦那様」
バウムガルテン領に冒険者ギルドを誘致する。失敗は許されない。
◇
「案外簡単に終わったな。もう少し渋るかと思ったんだが……」
王都の冒険者ギルド、そのギルド長はよぼよぼの爺さんだったのだが、ビックリするほど簡単にバウムガルテン領への誘致に賛成してくれた。しかも、至急冒険者ギルドを作り、職員の派遣も約束してくれたくらいだ。
裏を疑いたくなるほどスムーズな会談。まだ裏金も渡していないのだがなぁ……。
「旦那様は近年陞爵なされた唯一の貴族ですよ? それも二回も。更にはギフトを進化させた聖人ですし、ドラゴンを討伐し、王都を守った英雄です。冒険者ギルドとしても旦那様と関係を持ちたかったのではないでしょうか?」
「そうやって聞くと、まるでオレがすごい偉人のようだな……」
「間違いなく偉人ですよ」
そう言ってクラウスが苦笑する。そんなクラウスの姿にオレも苦笑をしてしまう。
オレは全然偉人なんかじゃないことをオレは知っている。オレはただゲームの情報を知ってるだけのモブだ。リーンハルトのように世界の運命を背負った勇者なんかじゃない。
オレは世界を救うために自身の身を、そして周囲の者を危険にさらすようなマネはしたくないのだ。なお、リーンハルトは除く。君には世界を救ってもらわなくてはいけないからね。
「私は旦那様のような主を持てて幸せですよ」
「そうか。じゃあ、クラウスの期待を裏切らないようにがんばるよ」
「お願いします」
そんな軽口を叩きながらも馬車は王都の大通りを進んでいく。相変わらず王都は盛況だな。この賑やかさの十分の一でもバウムガルテン領にあればいいのだが……。
「クラウス、ケーキ屋に寄ってくれ。今日はリアにもリリーにもあまりかまえなかったからな。二人にケーキでも買っていこう」
「かしこまりました」
「頼んだ」
「旦那様?」
「ん?」
クラウスが改まったようにこちらを向いた。なにか問題でもあったのだろうか?
「旦那様はリリーお嬢様をどうなさるおつもりですか?」
リリーをどうするか?
「どういう意味だ?」
「旦那様はリリーお嬢様をコルネリアお嬢様と分け隔てなく接しておられます。つまり、そういうことですか?」
なんでちょっと濁したような言い方をするんだよ。オレはべつに探られて痛い腹はないぞ?
「たしかにオレはコルネリアとリリーを同じように扱うように注意している。リリーのことは本人も望んだこととはいえ半ば無理やりに妹にしてしまったからな。それでコルネリアと差を作ったらかわいそうだろ?」
たしかにリリーは元平民だし、オレとの血の繋がりもない。赤の他人と言える。しかし、リリーに対して特別な思いがあるのは事実だ。
「いや、どちらかといえば母親のユリアの方か……」
「旦那様……?」
クラウスが正気を疑うような顔でオレの顔を見ていた。失礼過ぎない?
「リリーに対してもそうだが、オレはどちらかというと母親のユリアに同情してしまうのだ。もし、オレが治癒のギフトを貰わなかったら……とな。妹と娘という違いはある。しかし、ユリアとは同じ絶望を味わった仲だと言えるだろ?」
「旦那様……」
「奇妙な縁だが、オレはリリーとユリアを他人とは思えなくてな。それにせっかく助かったんだ。母娘が離れ離れになるなんてかわいそうだろ? だから他の貴族が目を付ける前に、強引にでもリリーを妹にしたし、ユリアをメイドとして雇った」
もっと別の、もっと二人が幸せになれる選択肢があったんじゃないか。そう考えることもある。だが、リリーのギフトの強さを貴族たちが知ってしまった以上、もう後戻りはできない。
「このクラウス、得心がいきました。旦那様の選択に間違いはありません」
「ありがとう、クラウス」
オレがあまりに暗い顔をしていたからか、クラウスが少しおどけたような調子で言った。オレは人に恵まれているな。
しかし、リリーか……。
オレにまっすぐな好意をぶつけてくる一歳年下の少女。静かで落ち着いた雰囲気とは裏腹に破天荒なほど激しい愛情の持ち主だ。
「どうしたものかな……」
「旦那様……?」
リリーからあれだけ全面的に好意を受けて、なにも思わないほどオレは鈍感ではないのだ。
ついに100話!!!
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