010 諦めない
絶命してしまった。その死を自身で確認してしまったコルネリアの姿は、それでも美しかった。
思えば、オレはコルネリアに対して何かしてやれただろうか?
買ってやれたのはぬいぐるみ一つだけ。
いつも質素なワンピース姿で、おしゃれなんてさせてやることができなかった。
それどころか、一緒に遊んでやることさえ……。
コルネリアは病だから仕方がない。そう言ってどこか軽んじてはいなかったか?
コルネリアを必ず助けるからと、彼女の前に姿も現さず、オレは呪われたアイテムの解呪ばかりしていた。
そんなオレをコルネリアはどう思っただろう?
もっと話したかっただろう、もっと遊びたかっただろう。
コルネリアが死んでしまってから、オレは過去の自分を悔いる。
こんなことなら、もっとコルネリアの傍に居てやればよかった。もっとコルネリアをよく見ているべきだったんだ!
コルネリアは幸せだっただろうか?
「リア……」
オレはまだコルネリアの死を信じたくなくてその手を取った。
まだ温かく、骨が浮いた皮と骨ばかりの細い手だ。無性に悲しくなる。
「ッ!?」
その時だ。オレはコルネリアにまだ治癒のギフトを施せることが分かった。
治癒のギフトに死者蘇生の力はない。だとしたら――――ッ!
「とどけッ!」
オレは治癒のギフトを全力で回す!
爺は言っていた。コルネリアはたった今息を引き取ったと。もし、コルネリアが心肺停止、または呼吸困難に陥っただけで、まだ生きているとしたら?
だが、邪神の呪いのせいでコルネリアの体力の最大値はもう0だ。回復だけしても意味がない!
「リアの体から出ていけッ!」
オレはコルネリアの体を解呪するために聖力を流す。これまで通り抵抗があった。しかし、押し切れる!
本当に時間との勝負だ。
すぐにでもコルネリアを縛る邪神の呪いを解呪し、コルネリアを治癒しなくてはいけない。
呪いのアイテムには無かった解呪に逆らおうとする謎の力。
気持ちだけが逸っていく。
「ああぁぁああアアああぁアあああああぁぁぁぁぁぁあああアアッ!」
そして――――ッ!
オレは成し遂げた。コルネリアの体に巣食っていた邪神の呪いを滅ぼした!
「ゴホッ、ゴホッ……!」
急いでコルネリアに治癒を施すと、コルネリアが咳をする。普段なら心配するところだが、オレは涙が出るほど嬉しかった。
「ぁれ、ぁたし……」
「リア!」
「お、おにいさま……?」
「リア、リア、よかった……!」
オレは居ても立っても居られなくて、この喜びを表現する方法をそれ以外知らないかのようにリアを抱きしめた。
「まさか、コルネリア様……奇跡だ……!」
「お嬢様……!」
「リア、ほんとうによがった。うぐ、リア、りあ~」
爺やデリアの存在も忘れ、オレは大声で泣いた。
諦めなくて本当に良かった。コルネリアを信じてきて本当に良かった。
コルネリアが息を引き取った時、本当にダメだと思ったんだ。
本当に、本当に助かってよかった……!
「お兄さまの泣いてるとこ初めて見た……。それに、爺もデリアも……。みんな、どうしたの?」
自分が死にかけていたことなんて知らないのだろう。コルネリアは暢気にきょとんとしていた。コルネリアからすれば、寝て起きたら皆がそろって泣いているというなんとも不思議な空間が広がっていたのかもしれない。
それでもいい。コルネリアが怖い思いをするよりずっと。
「そうだ! お兄さま、私ね、夢を見たの」
「夢? どんな夢かな?」
オレは涙を拭ってコルネリアの顔を見た。コルネリアは嬉しくてたまらないという笑顔を浮かべていた。
「最初は真っ暗な夜だったんだけど、途中で光が差してきて、まるでお母さまみたいな優しい声が聞こえたの! そしたらね、夜が晴れてね。その声は女神さまの声だったの!」
「女神……?」
俺自身は神など信仰していないが、この世界の住人は女神を信仰している。そして、邪神と呼ばれる神は、実は女神の夫神でもあるのだ。この世界は、神の夫婦喧嘩というなんとも無責任な戦いに振り回されている。そんな神なんて信仰したくないだろ?
だが、コルネリアが女神に会えて嬉しいのなら、オレも嬉しい。オレの中で唯一無二のコルネリアは正義なのだ。
「女神さまがね、よく聞こえなかったんだけど、力をくれるって! それでね、私、ギフトが貰えたの!」
「ッ!?」
通常、ギフトは七歳になったら貰うことができる。だが、邪神の呪いに罹った者は、ギフトを貰うことができない。
今まで邪神の呪いによって阻まれてギフトを貰うことができなかったが、それがなくなったからギフトを貰えたのか?
コルネリアの命を救えたとしても、ギフトが無いことは大きな課題だった。
ギフトを貰えるのがあたりまえの世界でギフトを貰えない。それだけで迫害の対象になる。ひどい場合は魔女狩りのように処刑されるかもしれない。人として扱ってもらえないのだ。
コルネリアがギフトを貰えた。その言葉にオレは喜びのあまり高揚する。
「本当か!? 何のギフトを賜ったんだ!?」
「えーっと……。わかんない!」
「え……?」
オレがそうだったように、ギフトを貰た時、ギフトの名前とその使い方を頭に叩き込まれる。それがわからない?
「……使い方はわかるかい?」
「うん! でも、ここだと危ないから……」
「そうか……」
使い方はわかる。それなら問題ないか?
もしかしたら、コルネリアの思い違いなのかもしれない。その可能性も視野に入れるべきだな。
オレはコルネリアがたとえギフトが貰えなかったとしても、彼女を護り通すという誓いは永遠だ。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。
下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。
☆1つでも構いません。
どうかあなたの評価を教えてください。