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田園調布が戸越銀座の軍門に下る日

 翌日、すぐに犯人は捕まった。合計3人の男たちだったが、みな、初対面どうしで、シグナルというアプリで指令を受けていたと判明。そのうちの一人は、先日五反田有楽街の北の端にあるラブホ『ベル・エポック』(夜になると外壁を這うトカゲのオブジェが一匹ずつ点滅する)のNTR部屋で、即席に参加した赤坂の芸能プロ社員兼半グレ男兼他〇棒役男優だった。

「なんだコイツ、こないだ見たぞ」

 テレビニュースで逮捕されたと一報が出て、それなら、とネットに切り替え検索を開始。すると、案の上、平日の真っ昼間にもかかわらず、たいそう熱心なネット民たちがいいネタが来た、とばかりに、血眼になって犯人のSNS上の痕跡を探し求めた挙句にその成果をアップしているではないか。その一人がなんと、個人撮影動画、略して、コサツ動画で有名なFC3の最新作に出演しているというから、早速、映画鑑賞してみることに。

 すると、なんてことはない。すでに、毎日が日曜日の夜行性動物、戸越銀座の独身オケラ弁護士久保田祐貴はすでに見たことがある内容だった。

「なんだ、コイツか。こないだ見た時は、目出し帽かぶってたから、なにがなんだかわからなかったんだ。だいたい男は卑怯者が多いから、女の子の顔は出しても、自分は出さないケースがほとんどなんだよなあ、まったく」

 久保田が呆れるのも、もっともだ。それまでのアダルトビデオは、男優の顔かたちもしっかり映像に記録されていたものだ。だから、男優たちだって、親子の縁を切ったり、友達との関係を絶ったりして、背水の陣でこの業界で生き残ってきたのだ。それなのに、いまのコサツと来たら・・

 どいつも、こいつも、みんなおしなべて、まるで銀行強盗でもすんじゃねえかってくらい、目出し帽をかぶって、己の正体を明かさないように明かさないように小狡く立ち回っている。そういうやつらは、闇バイトなどで掴まった場合は、思いっきりネット上でリンチされたって構わないのだ。

芸能界にも、闇バイトに首を突っ込んだり、ホストのバイトをしていてナンパした女性を風俗に売り飛ばすという鬼畜行為に手を染めたことがあるにもかかわらず、髪を紫色に染めて、のうのうとテレビに出続けている奴がいるが、こういうやつこそ、過去の悪行を暴いて暴いて、立ち直れないくらいに叩きのめしてやらなければいけないのだ。自分の犯罪を生い立ちの所為にして、なんとも感じないのだから、おそらく遺伝子レベルで取り換え不能な極悪特質な染色体を持って世の中に生まれてきたのだろう。そういう意味では、まことにお気の毒な人種とも言える。が、同情なんてしていられない。早々に、こういう奴らは芸能界から永久追放してやらねばならない。

 夕方、例のごとく、運動不足解消のために散歩に出かけようと外に出た久保田は、文庫の森や戸越公園ではなく、五反田へと足を伸ばした。10分ほど歩いて、JR五反田駅前に着くと、ロータリーを越え、有楽街へと繋がる中央通りを右へカーブしつつ、古本屋の扉を開けた。

「あっ、先生」

 店主の荒井結弦は、店の奥でつまらなそうに店番をしていた。せっかくの話し相手がきたとうれしかったのかもしれない。屈託のない笑顔を久保田に向けた。

「どうも、この度は」

「いや、どうも、この度は」

 なんで、どうもこの度は、なのかは当人たちでないとわからない。しかし、当の当人たちは、これで十分に話が通じ合っていた。戸越銀座の闇バイトの犯人が、エロ動画の即席男優、他〇棒であったことを互いに知っていたのだ。

「あれって、ご主人関係あったの?」

 久保田も、この古書店主のあるじが、エロビデオ業界に対して、緊急の場合に、人材を供給していることくらい掴んでいた。管轄の大崎警察署には、おおっぴらには言えないことなのだが・・

「あったよ、十分に。てゆうか、なかったよ、すんでのところで」

「話が読めない」

「じつはね・・」

 赤坂に居を持つ、得体のしれない芸能事務所がいきなりやってきて、紹介してくれと言ってきた時から、おやじは、裏稼業の勘で、いやな予感がしたのだ。だから、何度も催促されたところで、第三の男を連中には紹介しなかったというわけだ。

「なるほど、ね。さすがは、ご主人」

「こっちだって、伊達に、口利き業をやっているわけじゃないからね。これぞっていう人じゃないと、紹介しませんよ」

「ということは、オレは見込まれているっていうこと?」

「もちろんですよ。前にも言ったけど、ただヤリたいだけの男とか、風俗崩れ、とか、不良学生とかは、一切ウチには登録させませんから。先生のような、身持ちの堅い弁護士、医師、大学講師、公務員、ワイドショー出演の中堅社員、とか、ある程度、社会的地位と収入と人品の卑しくない人でないと」

「な~るほどねえ」

 

 警察ももちろん黙ってはいなかった。ネット情報で男がFC3のコサツに出演していたことが判明してからというもの、大崎署の刑事のなかでもとりわけネット動画のパトロールに熱心な若手により、赤坂の芸能事務所の家宅捜索まで発展した。久保田が以前、佐藤真奈のストーカー被害について、地元の荏原警察に情報を提供していたから、その流れで、一気に、ご用となったのだ。 


「先生、有難うございました。人間、悪いことはできませんね。あの社長も、塀のなかで、相当にお灸すえられるでしょうね」

 九段女子大学3年生、佐藤真奈がわざわざ久保田の自宅までお礼に訪れたのだ。


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