田園調布が戸越銀座の軍門に下る日
「肝心のエステ嬢、どうすんの? 当てはあるの?」
久保田だって、こんな商売を始めようとする幼馴染のことが心配ではあったが、同じように、どうやってエステ嬢を募集かけるのかも、やっぱり男だから気になった。いけないいけない、ほんと、こういうのって。
「SNSで募集かけようかと思って。ホワイト案件ってことで」
「いま、それまずいよ、ひでちゃん。ここ数日間の首都圏の凶悪事件知ってるでしょ。警察に目、つけられるよ。目を付けられるどころじゃなくて、ほんと、下手すりゃ、逮捕されるよ」
「ホワイト案件は、ちょっと、あれだけど・・・わかってるよ。だけど、一回、どんなもんか、やってみたくてさ。やってみたいんだよ。お願いだから、やらしてくれよ~」
こんな感じだったんだろうか。今の奥さんと高校出てすぐの20歳で結婚する時も。どうにもこうにも、駄々っ子ぶりには呆れるしかない。
「それじゃあ、聞くけど、エステにも2タイプあるのは、知ってるよね」
「もちろん」
「どっち?」
「そりゃあ、ねえ」
ヤニを下げる中年男。やっぱりそうか。
「性的サービスありのほうなら、ちゃんと風営法の届け出が必要だからね。注意してね」
久保田は最低限、弁護士としてのアドバイスを忘れない。
「そんな固いこと言わないでよ。バレなきゃいいでしょ」
「よくないよ。風営法で逮捕されるよ、間違いなく。テレビニュースで麻布署から護送されるときの全身姿が全国区で流されて、人生詰むよ」
「そんな、脅さないでよ」
「ほんとだよ。風営法の届け出するなら、一緒に行くよ。麻布警察署」
がらんどうのワンルームマンションのなかで、椅子もなにもないから、ただ立ち話をしていた二人。久保田はベランダに出てみた。すると、左手に首都高速が見えた。この辺はよく10代の頃、部活でランニングしたからよく知っていた。それにしても、ひでちゃんは治らねえなあ。猪突猛進の気が。
♪お茶の香りの東海道 清水一家の名物男 遠州森の石松は 素面のときはよいけれど お酒飲んだら乱暴者よ 喧嘩早いが玉にきず バカは死ななきゃなおら~ない~
ひであきってやつは、ホントに、バカだからねえ~
最近寝しなにスマホで繰り返し聴いた広沢寅造「 石松と三十石船」をだみ声でうなってみた。すぐ目の前は桜田通りだったから車やバスの音がうるさくて、だれも聴いちゃいない。中の人も聴いちゃいない。ああ、気持ちよかった。部屋へ戻ると、なにやら仏頂面が仁王立ちしていた。あれっ、なにかあった? もしかして、サッシが一枚だから・・まずかった?
「なんだよ、おれにあてつけかよ。ちきしょう! がっかりさせやがって、この野郎」




