田園調布が戸越銀座の軍門に下る日
「なんかこう、世間に、いい寸止めパブ、ないかなあ」
三月中旬にしてはさほど寒くない月曜の朝っぱらから、とくにすることもない久保田祐貴は、下はパジャマのズボン、上は着古して首回りや袖のあたりがみすぼらしくも捨てるのに忍びなく、せっかくだから、家着として使っている青白ストライプのワイシャツ姿で、まるで大会社の重役のつもりなのか、車輪のついた肘付き椅子にふんぞり返りながら、白昼夢をみていた。
「むかし、山本監督に教えてもらった寸止めパブ、今じゃ名前も変わって、『セクキャバ』だの『エロパブ』だのいうようだけど、ないかなあ。いい店、良心的な営業してる店は」
弁護士事務所を開業したはいいけれど、客が来たことが一度もない。そもそも看板をあげていないから、自宅を兼ねたごく普通の一軒家がお店を開いているなんてことはわかりっこない。だいたい、ネット上の宣伝すらしていない。だから客なんて来るわけない。よって、客が来ないからついつい緊張感もなくなる。そうすると、人間、うとうとしはじめて、つい夢をみる。夢をみると出てくるのは必ず女のことばかり、とまた、独身男あるある、の悲しいさがだった。
「一回、カントクの番組で紹介してた新宿歌舞伎町の店、行ったんだよなあ。四十分で一万円だったんだよなあ。女の子が三人だったっけなあ。上半身あらわになって、跨ってきたと思ったら、一二分もしないうちにチンピラらしき若い従業員が女の子の肩たたきにきて、サービス終わらせたんだよなあ。ほんと、あいつら、阿漕なんだよなあ、ヤリ方が。汚ねえんだよなあ。二万円も払ってんだからさ、もう少し遊ばせてくれたってよさそうなもんじゃないか。まったく・・」
世間は週の始まりで、必死になって週末モードから仕事モードへと切り換えて頑張っているというのに、このていたらく。
ひとしきり 妄想とも愚痴も言えない 繰り言に飽きると 、今度はパソコン画面をチェックし始めた。
「何も変わってないなあ。ほんと、大丈夫なのかな、アメリカ国債は。先日、ネット記事で見つけた著名経済アナリストがいいっていうから、虎の子はたいて購入したはいいけれど、アメリカFRBも利下げを先送りしそうだしなあ」
ーーいま買うなら、株よりも、20年から30年の長期アメリカ国債がいいですよ、そろそろアメリカも金利を下げる。となれば、国債の価格は上がる。ただ、上がろうが下がろうが、償還まで保有し続ければ、年利が税引き後で3%以上だから、日本人のマインド、元本保証という面では絶対にお勧めですーー
そういうから久保田は買ったのだ。アメリカが金利を下げる前に駆け込みで。しかし、FRBは方針を変更したらしく、まだだ、と決断を先送りにしてしまったというわけ。お客が来ないから、なんとかして喰いぶちを見つけなければ飢え死にしてしまうと、年が明ける前から近所の図書館で投資に関する本を借りまくっては、六法全書なんぞは隅に置いて、金儲けの勉強ばかりしていた。