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最終話「その二人が、恋に落ちるまで。」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


『塔』の攻略情報。

 まず、それぞれの階層に主であるボスが存在する。それを倒さないと、次の階層に進むことができない。階層の主は五体。それを全て倒せば、元の世界に戻ることができる。


 その内容に、新たな事実が書き加えられることになる。


 まず、階層の主に殺された人物は、その主を倒せば生き返る。その戦闘で負った怪我も治る。つまり、相打ち覚悟の攻撃が有効となるが、そのリスクは大きいことはいうまでもない。今回は生き返ったが、何度も無事でいられるかは分からないのだから。


 そんなことを頭の中に書き込みながら、朔太郎はノンアルコールの炭酸ビールを飲み干す。ぷぱーっ、という独特の苦みに、炭酸の爽快感が心地よい。いや、もっともの大きな要因は、目標としていた第一階層を攻略したことにあるだろう。達成感こそ人の生きる意味だ。


「おい、五郎! お前も、今日くらいは料理をやめて一緒に食おうぜ!」


「うまい! この肉料理、めちゃくちゃ美味いなっ!」


「はーはっはは! だったら、この僕が調合した怪しい香辛料をかけるといい。まさに天国に昇る気持ちになるだろう」


「おい、薬師寺! このアホ錬金術師を縄で縛ってくれ!」


「あははー、楽しいなー。師父おじいちゃんと一緒に居酒屋にいったときのことを思い出すよー」


「影谷君も食べてる? あーん、する?」


「い、いいよ!? 自分で食べられるから!」


 いつもの寂れた小さな酒場。

 今夜は貸し切りだ。夜になって仲間たちが集まり、そのまま宴会のような空気が出来つつあった。その場にいた全員が、笑い、騒ぎ、メシを食って、炭酸飲料で飲み干す。その中心には、なぜか男子のクラス委員長の葛山宗正が笑っていた。


拳法使いクンフー』のマオは、取り皿に料理をよそって。

錬金術師アルケミスト』の東野学は、縄で縛りつけられて。

薬師メディク』の薬師寺良子は、その隣で上品に食事を食べている。

大盾剣士ディフェンダー』の楯守理子は、普段にはない母性溢れる表情で。

罠師トラッパー』の影谷暗雄の口へと、料理を運ぼうとする。

治癒術師ヒーラー』の白麻いのりは、厨房に入っていき。

料理人コック』の満腹五郎を、仲間たちの輪の中へと引っ張り出す。


 そんな光景を、少し離れたカウンター席から。冒険者である、……いや『欺瞞師(ジョーカー)』である雁朔太郎が眺めている。その思考の半分はこれからのことに向けられているが、残りの半分は今の幸せを嚙みしめていた。


「サクちゃん。食べてる?」


「ん? あぁ」


 マオは料理がのった取り皿を、朔太郎の前に並べていく。

 クラスで一番背の低いチャイナドレスの女の子。彼女を見ていると、なぜか思考が揺らぐ。あの戦いで、ようやく知ることができた、自分の大切な人。そんな彼女が隣にいることが、何よりも嬉しい。幸せに思う。


 そんなことは顔には出さずに、朔太郎はマオにきく。


「あれ? そういえば、優斗たちは?」


「うん? そうだねー」


 朔太郎の問いに、猫が意味深な笑みを浮かべる。

 そして、優しい目で酒場を外へと視線を向ける。その目に誘われて、視線を辿っていくと。……酒場の外のテラスに寄りかかって、並んでいる二人の姿があった。こちらに背中を向けているので表情はわからない。それでも、今までにはない親密さを感じた。ようやく本音を打ち明けられた二人に。それを隔てるものは何もない。優斗と舞穂には、穏やかな時間が流れていた。


「じゃあ仕方ねぇ。おい、マオ。行くぞ」


「行くって、どこにー」


「決まっているだろう」


 そう言って、にやりと朔太郎は笑う。


「あいつらの邪魔をしに行くんだよ。こんな場でしんみりとしやがって。まったくけしからん奴らだ」


 朔太郎はマオが持ってきてくれた料理の皿を手に、酒場の外のテラスへと向かう。背中から優斗のことを蹴り飛ばして、無理やりにでも酒場の中に引きずり込んでいく。マオも舞穂の背中を押して、仲間たちがいる場所へとつれていく。


 彼らの夜は、まだまだこれからだった。




 ―――了―――














 

 ……

 ……、……


「ちくしょーっ、やってやれるかーっ!?」


 それが最初の言葉だった。

 この異世界で目を覚まして、元の世界に帰るために『塔』の攻略をしている攻略組。放課後の騎士団。そのリーダーである雁朔太郎が。


 半狂乱になりながら頭をかきむしっている。

 彼の仲間たちも、死んだような目つきで『塔』を見上げていた。


 あれから、月日は流れて。

 この異世界で目を覚まして、すでに六か月が経過していた。その間も『塔』に挑み続けて、攻略を進めようとするが。


 未だに、第一階層から攻略が進んでいなかった……



 ↪︎ to be continued…








…ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。

自分なりに全力を尽くした作品になったか思います。本気で何かに取り組むこと。それは自身も傷つくことと同じ。誰も見てくれないかもしれない。誰にも共感してもらえないかもしれない。そんな不安に押し潰されながら、コツコツと作品を綴ってきました。

 この物語の先を描くのか、今の自分にはわかりません。すぐに取り掛かるか、違う物語を書き進めるか。また、お目にかかれたら幸いです。ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一旦完結おめでとうございます 最後のほうが俺達の戦いはこれからだみたいな終わり方だったのが・・・
[一言] 一旦の完結お疲れ様でした。 今回も楽しく読ませて頂きました。 二人で語らう舞穂さんと優斗を邪魔しに行く朔太郎&猫さん。 このペースだと塔の完全攻略に何年もかかりそうですね。
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