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第40話「第一階層の攻略準備」


 あの『塔』は、この異世界でも特殊な造りとなっている。


 まず、クラスメイトの仲間たち以外は入ることができない。以前、王都から派遣された騎兵隊が内部を調査しようとしたが、扉は開かず。案内しようにも見えない壁に阻まれてしまうらしい。この世界の人間に応援を頼むのは難しいとのことだ。


 次に、内部の構造だ。

 これは不明な点が多い。おそらく五つの階層から構成されていると思われるが、上の階に通じる階段があるのか。それすら不明だとか。仮にあったとしても、あの巨人の攻撃を掻い潜って、上の階を目指すのは無謀だと、朔太郎は言う。


 そして、最後に。

 これは優斗が一番、驚かされたことだったが。朔太郎はこれまでに、何度も『塔』に入っては、あの巨人と対峙していたらしい。単独で潜入して、戦闘はなるべく避けることで、可能な限りの情報を収集してきたというのだ。その事実に、この男は本気で『塔』を攻略する気なのだと、優斗は思った。


 問題の『塔』のボスであるが。

 いくつか法則性があるらしい。


 ひとつ、傷が回復するタイミングだ。何度目かの単独潜入で、朔太郎は巨人にダメージを与えることに成功した。それは、とても小さい傷だったが。そこに朔太郎は大きな可能性を見た。しばらく距離を取るように回避に専念して、その傷の具合を見てから『塔』から脱出。そして、すぐさま再び『塔』に入ると、そこには傷のない巨人がいたという。


「ここから考えらることは。『塔』の内部の人間がいなくなると、階層に主へのダメージがリセットされちまう、ってとこだな」


 複数回に分けて、攻略はできない。

 一度の攻略で巨人を狩らないと、メンバーの全員が脱出した時に、全ての傷が治ってしまう。その情報だけでも、この男はいったい幾度の命を懸けてきたというのか。


「……『塔』の出入りは自由なんだな」


「あぁ。最初の失敗の時と同じで、『塔』から出るのは難しいことじゃない。扉を開ければいいだけだ」


 今のところは、だけどな。

 と、朔太郎は続ける。


「あの巨人が『塔』の外に出てくる危険はないんだろうか。もし、あそこから出てきたら、それこそ終わりだぞ」


「それは、もうやった。色々と試してみたが、あれが『塔』から出てくることはない。正面入り口の扉を潜った瞬間に、こちらの気配も見失っちまうし。そこに扉があるのか認識していないのかもしれん」


 え、と優斗は言葉を失う。

 もう、やった? あの巨人が『塔』から出てくのか確認しただと。もし、あれが外に出てきたら、この街は一瞬にして滅んでしまうんじゃないのか。この街だけじゃない。この世界にとっても危険な存在になるだろう。そのことを朔太郎に問うも「だから?」と真顔で返されてしまう。感情を感じさせない、仮面のような表情だった。


「今のところはこんなもんだな。ここからは、実践的な攻略に臨んでいこうと思っている。そのための攻略組、『放課後のエンドスクール騎士団・ナイツ』だ」


 にやり、と朔太郎がいつもの笑みを浮かべる。


「とりあえず、前衛、後衛、サポート要員、で組もうと思っている。異論はあるか?」


「……本当に戦闘になるんだな」


「あぁ。だが、間違っても無理をするなよ。もう俺は仲間を失いたくない」


 その目は、真剣そのものだった。


「まずは前衛だ。ここには攻略組の初期メンバーを当てる。巨人の攻撃を受け止める『大盾剣士ディフェンダー』の楯守。隙を見て攻撃を仕掛ける『拳法使いクンフー』のマオ。この二人に頼む」


 朔太郎が、マオと楯守のことを見る。

 猫はいつものようにヒマワリのような笑みを浮かべて。

 楯守が不安そうに頷く。


「朔太郎。お前は戦わないのかよ」


「俺が戦闘に加わったら、誰が全体の指揮を執るんだ?」


 優秀な指揮官は戦場を見渡せるところにいるもんなんだよ。そう言って、朔太郎は肩をすくめる。


「次にサポート要員。『見習い騎士』の優斗と、『罠師トラッパー』の影谷。お前らには撤退時に前衛をサポートしてもらう」


 つまり、逃げる時に巨人の足止め。遅滞戦闘の担当か。それくらいならできそうだな、と優斗は思った。


「最後に後衛。『魔法使い』の雨宮には遠距離攻撃を、『治癒術師ヒーラー』の白麻には仲間の支援を頼む」


 正直、今回の攻略。俺は後衛が鍵を握っていると思っている。

 朔太郎が付け加えるが、彼女たちの反応は思わしくはない。心配性の白麻はすでにガタガタと震えているし、舞穂に至っては聞こえていないのか窓の外をじっと見ていた。


 雨宮? と朔太郎が声をかけるが返事はない。

 仕方なく、優斗が舞穂の小さな肩を叩く。


「ん? なに、岸野君?」


「雨宮。お前は後衛だって」


「あ、そう」


 まるで興味がないようだった。

 それよりも優斗のことのほうが気になるようで「岸野君はどこにいるの?」と無表情のままきいてくる。


「俺はサポート要員だそうだ。皆を守るのが仕事」


「じゃあ、私のことも守ってくれる?」


「当然だ」


「……そう」


 舞穂の瞬きすらしない視線に。

 優斗も同じくらい強い意思で返す。

 優斗と舞穂が話していると、部屋の隅のほうから声があがる。『錬金術師アルケミスト』の東野と、『薬師メディク』の薬師寺だ。


「はーっはは、僕たちのことを忘れてはいないかい?」


「忘れてねぇよ。だけど、お前らは非戦闘員だ。戦闘の観察をして、何かわかったら教えてくれ。……何があっても戦闘に参加するなよ」


 朔太郎が念を押すように言った。


「以上、これにて解散! 攻略開始は、明日の昼からだからな。寝坊して遅刻した、なんて言い訳は通用しないからな!」


 がははっ、と朔太郎が笑い飛ばす。

 それが皆の不安を無理にでも吹き飛ばそうとしていることは、誰が見てもわかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こいつらいつまでイチャイチャする気だ?
[一言] 朔太郎、何をするつもりだ
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