第39話「……この異世界には、ルールがある。」
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この異世界には、ルールがある。
まず、異世界で目を覚ましたのは30人のクラスメイトである。
次にクラスメイトたちには、それぞれ職業スキルが与えられる。
クラスメイトたちは『塔』を踏破すれば、元の世界に帰ることができる。
その『塔』には階層の主がおり、それを倒さなくては先には進めない。その数は五体である。
それだけだ。
それだけの条件だというのに。すでに3ヶ月経った今でも、まだ第一階層すら踏破できていない。これが攻略組であるクラスメイトたちの現状であった。
「……嘆かわしいな。まだ、そんなところで足踏みをしているのか」
ため息と共に、誰かが呟く。
その言葉は、夏の夜風とともに消えていった。肌にへばりつく生ぬるい風だった
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雁朔太郎。
俺は、自分の名前が嫌いだ。
贋作という言葉がどこまでもついてくる。誰かの絵や美術品を真似て作り、それをさぞかし本人が作ったように装った偽物。そこに信念はなく、ただ汚い欲望だけが集積している。
俺は自分の名前が嫌いだ。
だけど、それは言葉の響きだけじゃない。
俺自身の生き方、それこそが。
偽物で。
紛い物で。
嘘にまみれた虚像であるからだ。
元の世界でも、この異世界でも。それは変わらない。その場の雰囲気で話を合わせて、絶対に自分の本心を明かすことなく、自分だけは傷つかないように細心の注意を払っている。一番の卑怯者だ。
そして、今日も仲間たちに嘘をつく。
攻略組のリーダーとして。『放課後の騎士団』なんていう大層な名前をつけておいて。冒険者などという嘘の職業を伝えて。絶対に素顔を見せないように嘘の仮面をつけながら―
今日も仲間たちに嘘をつく―
「よーし、全員そろったな!」
集合住宅の一室で、威勢の良い声が響く。
ここは攻略組『放課後の騎士団』の拠点としているアパートだ。平凡なワンルーム。簡素な家具だけが置いてある部屋には、現在の攻略組のメンバーが集まっていた。
初期メンバーである、冒険者の雁朔太郎。
『拳法使い』の李・猫々。
『大盾剣士』の楯守。
『治癒術師』の白麻。
そして、最近になって加入したメンバー。
『錬金術師』の東野。
『薬師』の薬師寺。
『罠師』の影谷。
そこに、『見習い騎士』の岸野優斗と。
『魔法使い』の雨宮舞穂を合わせた、合計九人が集まっていた。
本当は、もう一人いるのだが。『貿易商』である陣ノ内は、今日も馬車で他の街へ買い出しに行っている。
「今日、諸君に集まってもらったのは他でもない。本日より、我ら攻略組は『塔』の攻略を再開することを、ここに宣言する。お前ら、覚悟はできているかぁ!」
にやにやと挑戦的な笑みを浮かべて、朔太郎はメンバーたちを見渡していく。
攻略組で一番最後に加入した『罠師』の影谷は、このノリの付いていけず。そわそわと落ち着かない様子だった。まぁ、押し切られる形でメンバーになったのだから仕方のないことだが。少し意外だったのが、楯守理子の反応だ。いつもなら、そんな強要するようなことには絶対に反対するのに、なぜか黙って見逃がしていた。そして、彼が攻略組に参加することを承諾すると、わずかに頬を赤らめて顔を背ける。「……これで影谷君といつも一緒にいられる。……ふふふ」そんな彼女の声は、誰にも聞こえなかった。
「なぁ、朔太郎。ちょっと確認してもいいか?」
それまで黙っていた優斗が手を挙げて問う。
「今日だけは団長と呼べ。もしくは、ギルドマスター様だ。……で、確認したいこととは?」
「いや、単純なことなんだが。マジで『塔』を攻略するつもりなのか?」
優斗の問いに、誰もが真剣な表情になる。
それまで、どこか楽しんでいるような表情だった東野までも、顔を引き締めて攻略組のリーダーを見た。
朔太郎は自信満々に言い放つ。
「当たり前だろうが! 俺たちがどれだけコケにされたのか、忘れたわけじゃないだろうな! あの第一階層の巨人だけは、何としてもボコらないと気が済まないぜ!」
「本気なんだな? 相手は、あの化け物だぞ。こっちだって遊びじゃ済まないんだ」
ちゃんと勝算はあるんだろうな。
そう問いかける優斗に、朔太郎は不敵に微笑む。その自信がどこから湧いてくるのか、教えてもらいたいくらいだった。
「あぁ、わかっているさ。今の俺たちじゃあ、何があっても絶対に勝てない」
「へ?」
ぽかん、と優斗が口を開く。
それは他の仲間たちも同じだった。朔太郎はそんなメンバーを一人ずつ見ていってから、口を開く。
「大丈夫だ。今回は、あの時とは違う。ノリや気合いで勝てるほど、あの巨人は甘くない。それは嫌というほどわかっている。……でも、奴に勝つためには何が必要なのか。まだ俺たちは、それすら把握していないんだぜ」
一度、言葉を区切って。
仲間たちが理解するのを待ってから、続きを話す。
「いいか、お前ら。絶対に勝とうとするなよ。『塔』への攻略は再開するが、あくまで情報収集だ。無理はするな。少しでも危険だと判断したら、すぐに退却するぞ」
「偵察ということか?」
「さすが、優斗。話が早いな」
朔太郎は続ける。
「今回ばかりは安全策で行くぞ。もちろん、ちゃんと作戦も立てる。全員が無事に退却できて、あの巨人を倒す方法を模索する。……計画的に攻略するんだ」
本当に、俺たちの攻撃は通用しないのか。
弱点はないのか。
今の俺たちで、どれだけ巨人の攻撃に持ちこたえることができるのか。
何も知らなければ、攻略する手立てはない。
「それじゃ、説明していくぜ。第一回、巨人攻略調査団の詳細をっ!」
にやり、と朔太郎が笑みを浮かべる。
根拠のない自信ではあったが、それは確かに仲間たちを勇気づけていたー




