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第22話「俺たちは『塔』を攻略する」と、攻略組のリーダーは信念を語る。


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「さぁ、ようこそ! ここが攻略組の拠点だ!」


 朔太郎が自信満々に案内したのは、とある集合住宅の一室だった。

 街の繁華街から近くて喧騒も聞こえてくる。家賃もさぞかし高いだろうと、優斗はひそかに思った。その表札には、何やら凝った看板がつけられていて、現在のメンバーの名前が書かれている。


「この表札、なんて書いてあるんだ?」


「……『生きるということは、格好悪いことの連続だ。映画のヒーローのように上手くはいかない。どんなに情けなくても、どんなに惨めでも。前を向いて走り続けなくてはいけない』だよ」


「あぁ。担任教師の名言か。そういえば『サド先生』、元気かな?」


 サド先生とは優斗たちのクラスの担任教諭の愛称だ。なんとなくサディスティックというか、ドSの雰囲気のある美人教師だったから、みんなからそう呼ばれていた。それも今や、懐かしい記憶になりつつある。


 優斗は元の世界のことを思い出しながら、朔太郎が調子よく説明するのを聞いていく。


 元の世界に帰るために『塔』に挑む集団。

 そもそも、あの『塔』は優斗たちクラスメイトしか入ることができない。優斗たちが異世界で目を覚ましたのと同時に出現した『塔』は、この異世界の住人たちからも摩訶不思議な存在だった。当然、彼らによる調査が行われたが、誰一人として扉から入ることができなかった。見えない何かに遮られるように『塔』のほうから入ることを拒まれているようであった。


 それから、しばらくして。『塔』の危険性は低いものとされて、王都から派遣された監視員だけが見張るだけになっている。彼らも問題を起こした左遷組ばかりなので、監視団たちは酒とトランプに溺れているというありさまだ。


 よって、『塔』の攻略の障害となるのは。

 優斗たちクラスメイトの攻略に対する、モチベーションの低さだけだった。


 現在、その攻略組は五人しかいないと聞く。

 三十人いたはずのクラスメイトたち。その中でも、それしか残らなかったのか。薄情とは思わない。誰だって、あの第一階層の主である『巨人』。あいつに殺されそうになったのだから、二度と『塔』になんて入りたくはないはずだ。


 朔太郎が玄関の扉の前の立つ。

 そして意味深に笑うと、優斗たちを招き入れた。


「さぁ、歓迎するぜ! ここが攻略組の拠点。俺たちの最後の砦。その名も、……ギルド『放課後のエンドスクール騎士団・ナイト』だ!」


 ばんっ、と朔太郎が勢いよく扉を開く。

 そこは広々としてワンルームマンションであった。部屋の広さは、学校の教室くらいだろうか。年代を感じる木製の壁や天井、古臭いがそれなりに手入れが行き届いている。据え置きのテーブルの他には、木製の長椅子。他のメンバーたちが持ち込んだのか、クッションなど様々な私物が鎮座している。


 そして、その部屋にいた二人の人間が。

 驚いたような表情で、朔太郎と。その後ろにいる優斗と舞穂のことを見ていた。


「さぁ、攻略組の初期メンバーを紹介するぜ。楯守と白麻だ。まぁ、最初から顔見知りだけどな」


 朔太郎は演技がかった動作で、そのメンバーたちを紹介する。

 一人目は『大盾剣士ディフェンダー』。名前は楯守たてもり理子りこ。鋭い目つきに、長い黒髪をポニーテール。女子にしては背が高く、表情もどこか厳しい。元の世界では女子の委員長をやっていた。

 二人目は『治癒術師ヒーラー』。名前が白麻しろまいのり。白いローブを身につけた小さな女の子。自分のことよりも他人のことを優先してしまう性格で、どこか自信のない表情をしている。とても愛らしい外見なのだが、何かに怯えている小動物ようにビクビクと震えている。


「……久しぶりだな。委員長、白麻」


 優斗の挨拶に、二人は短い言葉で返す。


 ほとんど三か月ぶりだ。

 無理もない。会話する内容すらないのだから。朔太郎の話だと、あと一人。『貿易商トレーダー』という職業ジョブの陣ノ内拓真という男は、仕事で外出中らしい。どうやら攻略組の財布事情は、その彼が一人で支えているらしい。


「……」

「……っ」


 挨拶をしたっきり室内は無言となる。

 雨宮舞穂も、優斗の後ろに隠れたまま出てこない。そんな暗い雰囲気でもお構いなしに、朔太郎は上機嫌に笑う。


「がははっ! これで我が『放課後のエンドスクール騎士団・ナイト』のメンバーも七人になったというわけだ。めでたいぜ!」


「その、エンドスクールなんとか、って何だ?」


「俺たち攻略組に新しい名前さ。なんか、それっぽいだろう。冒険者ギルド感があって」


 カラッ、と朔太郎が返す。

 攻略組という名前だと、嫌な記憶を思い出しちまうからな。心機一転の意味も込めて、新しい名前を考えたんだ。と、彼はそう語る。


「とりあえずの目標は、仲間の勧誘からだな。あの『塔』には、俺たちしか入れないみたいだから、クラスメイトを片っ端から集めるしかねぇ」


「どれくらいの人数だ?」


「片っ端から。最終的には全員で攻略する」


 そうしないと意味がないだろうが。そう言わんばかりに、朔太郎の目には迷いがない。

 いったい、この男のどこからそんな自信が湧いてくるのか。辺りを見てみれば、今のメンバーである二人だって言葉少なく表情も固い。


「あと数人だ。もう少しメンバーが増えたら威力偵察に行くぜ。あの『塔』の第一階層のボスに挨拶回りだ」


「正気か? 三か月前はクラスメイト全員だった。それでも完全敗北している。それなのに、こんな少数で再び挑むってのか?」


「ただの偵察だよ。大げさな。それに実際に戦っていたのは、たった数人だけだろう。俺とマオ。それと『あいつ』のおかげで―」


 朔太郎が説明していく。

 その時だった。


 がたんっ、と大きな物音がした。

 そちらを振り返ると、一人の少女が立ち上がっているところだった。『治癒術師ヒーラー』の白麻いのりだった。床にイスが倒れている。立ち上がった時に、勢いで倒してしまったのか。彼女の顔は、不安に色濃く彩られていた。その小さな両手を小刻みに震えている。


 思い出したくないことを、聞かされている。

 彼女の顔には、そう書かれていた。


「……まぁ、何もしないよりは良いだろう。あの巨人を倒すのに、どれくらいの戦力が必要なのか。攻略組らしく攻略していこうぜ。少しずつでもな」


 朔太郎は、何事もなかったように続ける。

 優斗から言わせれば、異常なのは朔太郎のほうだ。不安そうにしているメンバーのほうが、人としてまともな感性を持っている。あんなものを見ているんだから、偵察といえど。簡単に『塔』のボスに向き合うことなどできない。


「朔太郎。本気で、あの巨人に立ち向かう気なのか?」


「そりゃ、こっちのセリフだ。優斗。お前たちこそ、何を躊躇している。……いや、いつまで目を背けているつもりだ。こっちは、もう仲間を一人・・・・・やられている・・・・・・|んだ。それを見て見ぬフリをするなんて、俺にはできねぇな!」


 朔太郎が今までにないほど真剣な目をしていた。

 攻略組という集まりがある。それは過去には、クラスメイト全員を指す言葉だった。ひとりのリーダーが先陣を切って、戦い、そして仲間が逃げ出す時間を稼ぐために、最後まで戦った。そして―


「……もう一度、言うぜ。俺たちは『塔』を攻略する。そして、元の世界に帰る。そうでもしないと、『あいつ』に顔向けできないだろうが」


 自分たちの実力を奢って、調子にのって。

 その結果どうなったのか。


 死にたくない、と必死に逃げていたクラスメイト達。

 その場で機転を利かせて、あの巨人の注意を引いた数人がいなければ。あの場で何人の死者を出していたのかわからない。朔太郎もその一人だ。巨人のいる恐怖を前にして、彼は戦うことを選択できた人間だった。彼らのおかげで、クラスメイトのほぼ・・全員が逃げることができた。


 だが、全員ではなかった。


 最後まで巨人の注意を引いて、クラスメイトたちの逃げる時間を稼いでいた男。このクラスの男子の委員長であった男は、最後の瞬間まで、仲間たちのために戦い続けてー


 クラスメイト全員の目の前で、殺された。


 優斗たちは。

 すでに仲間を一人、失っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかそんな過去が
[一言] 攻略組は現在七人、最初に1人殿となって委員長が犠牲になっていたのですね。
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