表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/56

第17話「…雨宮舞穂はな。百年に一度の、千年に一度の美少女だぞ。この瞬間も世界一可愛い女の子だ。貴族が土下座しようが、王様が国を売ろうが、そんな奴らは俺が絶対に認めねぇ!」


「……このクソデブ野郎が。今、雨宮のことをなんて言った? しょんべん臭いだ? 俺の嫁にしてやるだと? なぁ、寝言は死んでから言えよ。てめぇみたいに口の臭いクソデブ野郎に、雨宮をやるわけないだろうが? あん?」


「ぐぎっ!? ぐぎゃぁぁああ!?」


 ミシミシッ、と頭領の顔に優斗の右手が食い込んでいく。

 突然のことに盗賊の下っ端たちは反応できなかった。盗賊の頭領も、その手を必死に振りほどこうとするが、その反抗もむなしく、ずぶずぶと壁にめり込んでいく。


 ひ、ひぃーっと盗賊たちの悲鳴が上がった。


 だが、優斗は止まらない。

 狂気に血走った目で、盗賊の頭領を壁に埋め込ませていく。


「ぐぬぬぬっ! なんだ、このガキは!? ほ、本当に人間かっ!?」


「おい、喋んなよ。口が臭ぇだろうが。デブで口が臭いうえに、その目は節穴かよ。お前、雨宮のことを何て言った?」


 感情のない声が、盗賊の頭領を問い詰める。


「……あと数年もすれば絶世の美女になるだと? そんなこと、てめぇに言われなくてもわかっているんだよ! 雨宮舞穂はな。百年に一度の、千年に一度の美少女だぞ。この瞬間も世界一可愛い女の子だ。貴族が土下座しようが、王様が国を売ろうが、そんな奴らは俺が絶対に認めねぇ!」


「そ、そこまでは言ってな、……ぎゃあぁぁ! 潰れる! 頭が、潰れちまうっ!?」


 悶絶する大男。

 その顔を掴んでいるのは、線の細い男だというのに。掴んだ腕を振りほどくこともできず、ずぶずぶと壁に埋め込まれていく。


 しかし、それでも優斗は止まらない。

 感情が完全に抜け落ちた表情で、盗賊の頭領の顔面を締め上げる。


「雨宮には、幸せになる義務があるんだよ。これは法律だ。鉄則だ。てめぇみたいな薄汚いコソ泥が触れていい女じゃあない。その眼球をくり抜いて、タコヤキでも焼いてやろうか? あぁん?」


「ぎゃば、あが、が、が―、……」


 だらん、と頭領の腕から力が抜ける。

 優斗のアイアンクローで締め上げられて、その巨漢の身体の半分以上が、洞窟の壁に埋め込まれていた。盗賊の頭領は、自分に何が起きたのか理解できないまま、その意識を手放した。


 泡を吹いて、白目をむいて。

 ぴくぴくと指先が痙攣している。


 優斗が、その男をおもむろに地面に投げ捨てた。

 どさっと地響きを立てながら、盗賊の頭領は地面に崩れ落ちる。その姿を見た下っ端たちは、ぱくぱくと口を開いて。


 泣き叫びながら、その名前を叫んだ。


「「頭領――――っ!?」」


 盗賊の下っ端たちは自分たちのリーダーの、無惨な姿に涙を流して、慟哭して、感情を爆発させる。


「ちくちょう、やりやがった!」


「頭領! しっかりしてください、頭領!?」


「くそっ! 頭領が何をしたっていうんだ!?」


 下っ端たちの想いは、驚愕から嘆きに変わり。嘆きから怒りに変わって、そして彼らは哀しみの涙を流しながら。


 その怒りを、岸野優斗へと向けるのだった。



――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 



「……はっ、しまった。怒りに我を忘れてたか!?」


 優斗は改めて冷静を取り戻す。

 泡を吹いて倒れている盗賊の頭領に、何か変なことを言ってしまったような気がするが。怒りに我を忘れていた優斗にとっては、まるで憶えのないことだった。きっと、これは自分ではない誰かがやったことだ。


 この非人道的な行いは、恐らく朔太郎に違いない。

 おのれ、朔太郎め。ここまでする必要があったのか。


 優斗が額に手を当てて嘆いていると、泡を吹いたままの頭領がうわ言を呟く。


「……お、おでの、ゆめは、……あの子みたいな女を、嫁にすること、……ぐへぇ!?」


 どすっ、とロングロードを鞘ごと、その太った腹に突き落とす。……ちっ、まだ意識があったか。優斗は汚い言葉を吐き捨てながら、冷たい目で男を見下ろす。今度こそ盗賊の頭領は、完全に気絶してしまった。


「くそっ、どうする。朔太郎のせいで、最悪な状況になってしまったぞ。どうやって、このピンチを切り抜けるつもりなんだ!?」


「おい、聞いたかよ。こいつ悪ぶれることもなく、全ての罪を俺に擦り付けたぜ?」


 信じられるか、という顔で朔太郎がマオを見る。

 彼女もチャイナドレスの裾を揺らしながら、乾いた笑みで応えた。『拳法使いクンフー』である彼女は、いつものように緊張感のない顔で笑っていた―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 暴走状態こええなあ
[一言] 頭領、暴走した優斗に何もできずに気絶。 朔太郎&猫、優斗の暴走にひく。舞穗さんはどうなったかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ