表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/56

第16話「「へへっ。その小娘は俺たちが貰うから、お前らはさっさとお家に帰って、……ぎゃあぁぁ!?」


「あ、あははー。……おい、どうするだよ! 盗賊たちにバレているじゃないか!?」


「そりゃ、あれだけ大騒ぎをしていたら、嫌でも気づかれるだろうが」


 問い詰める優斗に、朔太郎が呆れたような表情になる。

 この余裕はどこから来るのか。優斗はじわりと危機感を募らせながら、舞穂のことを庇うように立つ。何があっても、雨宮舞穂だけは逃がす。そう自分に言い聞かせて。


 優斗たちを取り囲んでいる盗賊たち。

 その数は、およそ20人。


 ほぼ全員が絵にもかいたような極悪人面で、手にした刃物と下劣な笑みが妙にサマになっている。間違っても、会話なんてものは通じないだろう。


 朔太郎は悠然とショートソードの鞘に手を当てている。その表情には余裕すら垣間見えた。緊張感のない笑みの『拳法使いクンフー』のマオ。じわっと嫌な汗をにじませている『見習い騎士』の優斗に、無表情のまま首を傾げている『魔法使い』の舞穂。


 そんな四人を前にして、一人の大柄な男が歩み出る。

 盗賊たちの首領だろうか。樽のように肥えた腹に、不潔な無精ヒゲが、まさに盗賊頭というのにぴったりだった。


「なんでぇ。騒がしいと思って一味総出で来てみたら、ガキばっかりじゃねーか。こんなところに何をしにきたんでぇ?」


 へへへっ、と大振りの曲刀を肩にのせて、巨漢の盗賊頭が問う。

 なんて答えたら正解だろうか。

 そんなことを必死に考えている優斗を尻目に、朔太郎が腕を組んだまま堂々と向かい合う。


「おうおうっ、盗賊ども! 耳をかっほじって、よーく聞け。俺たちは、てめぇら悪党を退治に来た冒険者様よ! お前らには恨みはねぇが、たっぷりと賞金が掛けられているんでね。大人しく、ここから出ていってもらおうか!」


 朔太郎が威勢よく言い放つ。

 お前らを追い払いにきた。そう言われて、盗賊たちが互いに顔を見合わせる。そして、次々と笑い声が上がった。


「はっはっは! 何考えているんだ、こいつらは!?」

「馬鹿じゃねーのか!? ママのおっぱいでも吸ってろ」

「おい、こいつらの身ぐるみを剥がせ。ちっとは金になるものを持っているだろうぜ」


 そんな下劣な声が、優斗たちを取り囲む。

 好き放題に言われて、悔しさに奥歯を嚙みしめる。だが、どうすることもできない。これだけの大人数の盗賊を相手に、いったい何ができるというのか。せめて、残り少ない手持ちのお金で、なんとか許してもらえないだろうか。優斗はだらだらと冷や汗をかきながら、必死に愛想笑いをする。


 あ、あはは。本当にすみません。

 なんか騒がしてしまって。ぼくたち、もう帰るんで。見逃してもらえませんかね? 少しでも好印象を与えようと誘い笑いを浮かべて、盗賊たちの頭領へと声をかける。


 そんな優斗に、盗賊の頭領は見下すような顔になる。


「へへっ、お生憎だが。俺たちは盗賊なんでね。タダで帰すってわけにはいかねぇな。生きて帰りたければ、有り金を全部置いていきな」


「あはは、それはもちろん」


 優斗は薄っぺらい財布を取り出すと、そのまま盗賊たちに向けて差し出す。下っ端の盗賊が奪うように受け取ると、改めて中身を確認する。そして、額に青筋を立てた。中に入っているのは小銭だけだった。それでも全財産だ。


 優斗は愛想笑いで返す。

 だって、それしかないもの。おかしいなー。ちょっと前までは、もっと余裕があるはずだったのに。


「……なぁ、ガキども。俺たちを舐めているんじゃねーだろうな?」


 優斗の財布を投げ捨てて、盗賊の頭領も頭に血を昇らせる。大振りの曲刀を、左手の手のひらでトントンさせながら、威圧するように優斗の前に立つ。


 極悪面が臭い吐息がかかる距離でメンチを切ってくる。


 めちゃくちゃ怖ぇ! 

 そして、口が臭ぇ!


「俺様は寛容だからよ。もう一度だけ聞いてやるぜ。……他に金になるものはねぇのか?」


「……ないっす」


「宝石でも指輪でもいい。冒険者なら魔物除けの装具くらい持っているだろう?」


「……ないっす」


「その腰に下げている剣は? 値打ちものじゃないのか?」


「……値打ち、ないっす。刃こぼれしている売れ残り品なんで」


 盗賊の頭領の問いに。

 優斗は全身から冷や汗を滝のようにかきながら、ありのままを答える。その様子を、舞穂が隣で見上げていた。何が起きているのかよくわからない、というような緊張感のない顔だった。


 やばいよ、やばいよ。

 絶対にぶっ飛ばされるよ。優斗はガタガタと震えながら、どうすれば無事に帰れるのか必死になって考える。


 だが、そんな時だった。

 盗賊の頭領が、ビビっている男の隣にいる『舞穂』のことを見て。


 その目を輝かせたー


「あ? お前たちのツレ。チビの男だと思ったが、もしかして女か?」


 え、と優斗が戸惑いの声を上げる。

 髭面で強面、ぶっどりと太った巨漢の頭領は。先ほどまで魔法使いのローブの顔を隠していた雨宮舞穂のことを、ねっとりと興味深そうに見つめる。


「……いいねぇ。悪くない。この小娘。今はしょんべん臭いガキだが、将来はエライ別嬪さんになると見た」


「は?」


「よし、決めた。お前らの命を見逃してやる代わりに、その小娘を渡してもらおうか。これだけの器量なら、あと数年もすれば高く売れるぜ。変態の貴族にだったら、豪邸が立つくらいの売れ値がつくだろうな。なんだったら、この俺様の嫁にしてやっても―」


 にやにやとブサイクな顔で思案する盗賊の頭領。彼の頭の中には、手にした大金をどうやって使うか、それくらいしか考えていないのだろう。


 故に、頭領は気がつかない。

 目の前に立っている優斗の瞳から、感情が消えていることに。


「へへへっ、そういうこった。その小娘は俺たちが貰うから、お前らはさっさとお家に帰って、……ぎゃあぁぁ!?」


 舞穂のことを舐めるように見ていた盗賊の頭領。

 その男の後頭部が。

 一瞬にして。

 ずごんっ、と洞窟の壁に叩きつけられていた。


「……いま、なんていった?」


 穏やかながらも気迫の迫る声。

 それを発しているのは、盗賊の頭領の顔面を掴み、後頭部を洞窟の壁に叩きつけながら、そのままアイアンクローで締め上げている。


 ……岸野優斗の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 頭、地雷を踏む
[一言] 渡す気ないっす
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ