第12話「まぁ、だいたいは。この異世界で生きていくことを前提にしている奴らだよ」
「なぁ、優斗。俺たちを含めたクラスメイト30人。そいつらが、今どんな生活をしているかを知っているか?」
「いや。自分たちのことで精一杯だったからな」
そういえば、他の仲間たちがどんな生活をしているのか、あまりよく知らない。
この酒場の厨房で働いている『料理人』の満腹五郎や、たまに顔を合わせる連中ならともかく。ほとんどのクラスメイトたちとの交流が途絶えてしまっていた。
そんな優斗の顔を見て、朔太郎は説明していく。
「まぁ、だいたいは。この異世界で生きていくことを前提にしている奴らだよ。商売を手伝っている奴もいるし、店を開いたけど街の商会から夜の営業しか許されなかった奴。依頼を受注して、その日暮らしをする冒険者崩れもいれば。DIY系の職業連中は、そのスキルで生計を立てている。この異世界でも、それなりに順応している連中だな」
いわゆる、エンジョイ勢ってやつだ。
と、朔太郎は卑下する様子もなく語る。
「そんな連中が7~8割。残りの1割が引きこもり勢。まだ異世界で生活することを拒んで、誰かの家で引きこもっている奴。この異世界は待っていても食べ物にありつけられないから、誰かが世話をしているんだろう。……で、最後に残った一握り。正確に言えば、五人だけか」
朔太郎がお代わりのクリームパスタにフォークを突きさす。
それを見て、優斗も断りの言葉もなくパスタへとフォークをつつく。ぐるぐると麺を絡めて口に運ぶ。そんな優斗を見ても、朔太郎は怒る様子はない。その程度のことで怒るほど器の小さな男ではない。
「もぐもぐ。……で、最後に残った五人。それが現在の『攻略組』の現状ってことさ。どうだ、笑えるだろう?」
「もぐもぐ。……笑っていいのか? 結構、絶望的な人数じゃないか?」
「笑えよ。今が人生のどん底だ。だったら、これから這い上がるしかねぇ。だろ?」
「そういうもんか?」
ひとつのパスタの皿を、男二人で突いている。
おい、そのベーコンは俺のだぞ。うるせぇ、お前はマッシュルームでも食ってろ。などと言い合いをしながら、優斗は最後の一口をフォークに絡ませて。
すぐ隣で口を開いて待っている、……舞穂と視線が合った。
優斗はパスタをからめたフォークを左右にチラつかせる。
少女の視線もそれにあわせて動く。待て、と命令された子犬のようだ。そのままパスタを彼女の口元へと運んでいくと。
ぱくんっ、と優斗の使っていたフォークにかぶりつき、もぐもぐと美味しそうな顔で食べる。そして雨宮舞穂は、ここが自分の場所といわんばかりに、優斗のすぐ隣に座った。
ほらっ、口が汚れているぞ。と自然な仕草で、優斗が彼女の口元を拭く。舞穂も身を任せるように、無防備に口を上にあげている。
そんな二人のことを。
朔太郎は横目でこっそりと見ていた。何かを探るような目つきだった。
「ぷはー、ごちそうさん。五郎、今日も美味かったぜ」
朔太郎が厨房に向けて親指を立てると、キッチンにいた小太りの少年がにっこりと笑う。
「つまり、だ。攻略組としては人手も、物資も、何もかもが足りてないんだ。仲間になってくれるなら、これ以上に嬉しいことはない」
「待てよ。誰も攻略組に参加するなんて言ってないぞ」
「毎月の家賃くらい、俺らが出してもいいんだぜ?」
「……」
優斗は黙り込んでしまう。
悩んでいる友人を見て、朔太郎が吹き出しながら笑う。
「おい、それくらいで悩むなよ」
「う、うるせぇな。こちらはマジで金欠なんだ。貧乏人を舐めんな!」
優斗が威勢よく言い放つと。
なぜか、隣にいる舞穂までも「なめんなー」と連呼する。そんな彼らの姿を見て、いよいよ朔太郎も諦めたような表情になる。
「はー、わかったよ。とりあえず、攻略組のことは考えておいてくれ。お前らにとっても、悪い話じゃないだろうしな」
そう言って、朔太郎は続ける。
「どちらにせよ、元の世界に帰るためには『塔』を攻略する必要がある。だが、攻略を再開するにしてもメンバーが足りない状況だ。当分はメンバー集めってわけさ。で、とりあえず今日は、……俺たちと一緒に依頼に行かないか?」
「俺たち?」
「あぁ。もうすぐ合流するはずだ。お前もよく知っている奴だぜ」
ニヤッと朔太郎が意味ありげに笑っていると。
酒場の扉が勢いよく開いた。
「おまたせ! サクちゃん、今日はなにを狩る!? ドラゴン? ドラゴンでも狩りにいっちゃう!? ひと狩り行くネーッ!」
そこに立っていたのは、チャイナドレスを身にまとった小さな女の子だった。
李・猫々。
クラスで一番背の低い女子が、ヒマワリのような笑みを浮かべて両手を振っている。まさに絵にかいたような陽の人間のオーラ。いつも教室でクラスメイトたちの輪の中心にいる彼女が屈託のない笑みを向ける。それだけで陰の人間の代表ともいえる優斗と舞穂は。
無言のまま視線をそらして。「あっ、もう帰ってもいいかな?」と二人して同時に考えていた。




