第11話「禁足事項(タブー)に踏み込んでいく」
「(……まさか、ここまでマジになるなんて)」
朔太郎は別の意味で心配になりながら、視線をそっと『魔法使い』の少女へと向ける。
ごちそうさま、と舞穂は綺麗に平らげた皿に手を合わせている。そして、穏やかな表情で優斗を見る。その視界には朔太郎のことも入っているはずなのに、まるで興味がないように、優斗のことだけを見つめていた。
朔太郎は、その光景に。
とても小さいものだが、何か異質なものを感じ取っていた。
違和感のような小さな棘。
優斗と舞穂。二人は仲が良い。それは間違いない。そのはずなのに、何か別の感情も隠れている。そんな気がしてならない。
「(……確か、この二人の距離が近づいたのって、こっちの異世界に来てからだよな? それまでは、友達でもなかったのに)」
過去に何かあったのかな。
朔太郎のような県外受験には、中学時代の二人を知らない。地元から進学してきたクラスメイトたちは、示し合わせたように過去を語ろうとしない。
……まるで、自分たちの過ちを隠すように。
そこまで考えて、朔太郎は首を振る。
今はそんなことを気にする状況ではない。過去に何があったかは知らないが、それは元の現実に戻ってからの問題だ。そう割り切って、彼は思考をそれ以上進めることを止める。
―それが、これからの出来事に大きく関係してくるなど、知るはずもなく。
「それで、優斗。お前ら、金がなくて困っているんだろう? だったら、ウチを手伝うってのはどうだ?」
「ウチ?」
優斗がわからないというように首を傾げる。
すると、舞穂も真似するように、同じ角度で首を傾ける。
「あぁ。ウチはいつだって人手不足だからな。手伝ってくれるなら大歓迎だぜ」
注文していたお代わりのクリームパスタを頬張りながら、朔太郎が得意げに言う。昨日から水しか飲んでいない優斗は、その皿に目を奪われつつ、カウンター越しに予備のフォークを取ってもらう。
「なんだ。店でも開くのか? こういっちゃなんだが、俺も雨宮も、超がつくほどの人見知りだ。接客業なんてできんぞ」
「なんで冒険者である俺が、客商売を始めるんだよ」
朔太郎は肩を落として、本日で何度目になるかわからないため息をつく。
「俺たちが、この異世界にいる理由はなんだ? ……そうだ。あの『塔』の攻略だ。あそこにいる五体の階層の主を倒せば、元の世界に戻れる。そんなことは、この異世界に来た時に全員がわかっていただろう。だったら、やるしかない」
「何を、だ?」
「塔の攻略を、だよ」
ニヤッと朔太郎が笑う。
……攻略組、という集まりがある。
この異世界で目を覚ました時、それはクラスメイト全員を指す言葉だった。元の世界に戻ることを最優先に行動する集団。優斗たちが目を覚ましたときにあった、あの『塔』。街の人の話では、以前はあんなものは存在していなかったらしい。優斗たちがこの異世界に来た時に、いつの間にか出現していたとか。そんな『塔』に挑み、元の世界に帰るため、五体の階層の主を倒す。それこそ攻略組の目標であった。
だが、それはすぐに挫かれることになる。
この異世界に来て、まだそれほど時間が経っていない頃。まだ職業スキルという万能感に酔いしれていて、たいした覚悟も実力なく、最初の塔の主へと挑み。クラスメイト全員の心はへし折られていた。あれから三か月。誰も塔のことには触れず、仲間たちも現実を見ないようにして生活しているというのに。
まだ、ここに。
堂々と、禁足事項に踏み込んでいく奴がいるとは―




