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竜女王テラレグルス   作者: 未来おじさん
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第1話Cパート~転校生、抱き締める~

「なっ……!?」

「――脱出します」

 そう言って氷室さんは僕の胴体を掴むと、前へ前転するように地面へ走った。

 地面を舐めるよう低空で走った彼女は、そのまま外へと飛び出す。それと同時にガシャンッ! とプレハブ小屋の天井が重力に押しつぶされていった。

「ひっ……」

 一瞬で瓦礫と化したプレハブの跡地。ついさっきまでそこにいた場所がなくなったことに呆然としながらも、突然物陰から飛び出した影に僕はまたも体を震わせた。

「へへっ、見つけたぜぇ、鋼姫さんよぉ」

 そこにいたのは、金属バットを持った男。細身で軽そうな見た目をしたその男は、 さんの方をただただ見つめていた。

「――あなたが反応のあったラスタ・レルラでしたか」

「あぁ、上手くおびき出せてよかったぜ。まだ王子様を見つけてないって聞いてたからよぉ、今しかチャンスがないと思ってなぁ」

 なんだ? 何を言ってるんだ? 全く聞きなれない単語の応酬に呆然としていると、彼女が構えを取った。

「――擬態型ラスタ・レルラを発見。これより殲滅を開始します」

 その言葉と同時に……氷室さんは、風になった。

 シュバアァァァンッ!

「う……っ!?」

 シュバババババババァッ!

 まるで風のような脚による一閃。その後に続く連撃に、風が悲鳴を上げる。

 なんだ? なんだこれは? 氷室さんが運動神経がいいのは知っていた。でも、この動きはもはや常人のそれではない。

 そう、それはまるで達人のような……それでいて、この一縷の綻びもない動きは……

「はっはぁっ! 甘い甘ぁいッ!」

 だが、それを相手も完全に捌き切っている。

 それも常人にはまずありえない手捌き。こんな動きが出来るなんて、この人も普通ではない……そう思った時、恐怖が体の奥から湧き上がった。

 なんだ? なんなんだこの状況は? もしかして僕は……とんでもないことに巻き込まれてるんじゃないのか?

 そう結論付けた僕は、反射的にその場を動こうとした。だが、その瞬間男はまるで蛇のように氷室さんの連撃の一瞬の隙をすり抜けてきた。

「え……」

「ひゃっはぁっ! も~らいっ!」

 瞬間、男の拳が僕の元へ飛んでいき……

「――ぐっ!」

 氷室さんが、それを受け止めた。

「――ぐぅ……っ!」

 ドゴォォォンッ!

 だが、姿勢が十分でなかったためか さんはダメージを受け止めきれず、吹き飛ばされてしまった。

 瓦礫の山の中に、氷室さんが埋もれる。

「氷室さんッ!」

「おぅガキ、ナイスアシストだぜぇ。君がどんくさいおかげで助かったぁ」

 その言葉に、僕は言葉を詰まらせる。

「ち、違……っ、僕は、そんなつもりじゃ……」

「いぃや、君のおかげだぁ。君は最初から雑魚だとわかっていた。でも彼女は正義の味方だからなぁ、絶対助けるってことはわかってたんだよぉ」

 そう言いながら、男は僕の顔を覗いていく。

「いやぁ、正義の味方は大変だなぁ。こんな男まで助けなきゃいけないとは」

 その言葉に、僕は胸を詰まらせる。

 肉体機能障害。そう診断された僕は、この男の言う通り足手まといだ。そんな僕のせいで彼女は傷を負ってしまった。その事実が、僕の胸を締めつける。

「さぁ、さっさと回収だぁ。鋼姫かぁ、こりゃあ高く売れるぞぉ、へへへっ」

 そう言いながら男は彼女の元へ近づいていく。その瞳には、明確な悪意に満ちていた。

「ッ!」

 このままだと、氷室さんに害が及ぶ……そう咄嗟に理解できた僕は……。

 ガシッ

「……あ?」

「……ひ、氷室さんに手を出すな……ッ!」

 男の足に、しがみついていた。

「……ウザ」

 ガンッ!

「うぐ……ッ!」

 そんな僕に、男は容赦なくバットを振り下ろした。軽くではあったが、それだけで僕の脳は揺らぎ、男を押さえる手が緩む。

「女の前だからってかっこつけんな。こんな玩具で遊んでた癖に、ダセェんだよ」

 そう言って散らばった玩具の破片を足で踏みつぶす。それと同時にプラスチックの破片が、辺り一面に飛び散っていく。

「……ッ」

 僕は絶句した。あれは、ずっと僕が遊んでいたロボットだった。アニメからハマって、親におねだりして買ってもらったDXの玩具……それが今、粉々になって飛び散っていった。

「こんなもんに縋ってキモいんだよ。テメェなんて殺したら犯罪だから潰さないだけだ。いい歳なんだから、アニメと現実の区別ぐらい付けようぜ」

 そう言って僕を足下にしてから過ぎ去ろうとする。けど僕は片手で、何とか男の足をもう一度掴んだ。

「……チッ、おい、いい加減にしねぇとマジで潰すぞ……」

「正義の味方ぶることの、何が悪い……」

「あぁ?」

 僕は、地面に落ちてた玩具の破片を砂と一緒に握り占める。

 あぁ、なんて儚いんだろう。こんな玩具一つ守れない僕に、何が出来る。

「たとえ肉体機能障害だって、筋肉がなくたって、役に立たなくたって……それでも、それでも僕は……」

 それでも、彼女が困ってるなら……

 僕は首を振り上げ、前を見る。

「目の前で困ってる人を、見逃せないんだ……ッ!!!」

 そして男を、強く睨みつけた。

「――ッ!!!」

「……へっ、そうかよ」

 そう言った男は、手に持ったバットを天に掲げる。

「なら死ね」

 そして何の感情もなく……その鉄塊を振り下ろした。

「ッ……!」

 僕は思わず目を瞑る。

 その時だった。

 ガキィイイインッ!!!

「……え?」

 鉄と鉄がぶつかりあう音がした。まるで、鋼が咆哮を上げるような甲高い音。

 その音が鳴った目の前へと再び視線を上げると……

「……大丈夫?」

 氷室さんが、金属バットを両腕で受け止めていた。

「ッ、氷室さん!?」

 僕は思わず叫びを上げる。だが、氷室さんの表情はいつもと変わらない。

 そして、氷室さんは十字に重ねた腕を振り上げバットを押し返すと、僕の方を振り向いた。

「……あなたになら、任せられるかもしれない」

「……え?」

 僕がその疑問の声を上げたと同時に、彼女の身体は光りだした。

「な……ッ! ま、まさか、ここでするのか!?」

 そんな男の声が響く。だが、 さんは気にしてないようだ。

「無茶なお願いなのはわかってる……でも、お願い。私と闘って」

 短いその言葉。けど、その言葉に彼女なりの気持ちがこもってるような気がして……僕は、覚悟を決めた。

「わかった。一緒に戦おう」

 そう言うと、彼女はほんの少しだけ微笑んだ表情をしてから僕を抱き締め……


 ……ロボットに、変わった。


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