第5話 春風の覚悟と、神との契約
前回のあらすじ
春風君、神に本格的な誓約書を書いて提出する。
神達の悲鳴から数秒後。春風が口を開く。
「これが、俺が支払える『対価』です」
「「「いやいやいや、2回も言わなくていいよ! なんで77歳!? 命と魂はわかったけど、なんで77歳!?」」」
「ラッキー7にちなみました!」
「「「何故にラッキー7!?」」」
「幸福を願いました!」
「「「それは、何に対してかな!?」」」
「勿論、これからも生まれてくる新しい命に対してです!」
「「「まぁ、なんて良い子!」」」
激しくショックを受ける神達を前にしても、春風は勢いを止めなかった。
「そして、それだけではありません!」
「「「えぇ!? まだあるの!?」」」
驚く神々に、春風は説明を続ける。
「先程誓約書に、『命又は魂を捧げます』と書きましたが、もう一つ捧げる物があります」
「「「え、それは何だい?」」」
そう問う神達に、春風は答える。
「俺が77歳を迎えるまでに、様々な知識や技術を身に付けますので、それも一緒に捧げようと考えています。というか、どちらかというとこちらがメインになっているのです」
春風の答えに神達は一瞬キョトンとしたが、アマテラスはすぐに真面目な表情に切り替えて質問した。
「なるほど、命そのものというより、身に付けた知識と技術をその命に刻み込んで、それを私達に捧げるというわけね?」
「その通りです。ちなみに捧げた知識と技術は、他の世界との取り引きに使っても、誰か異世界に転移、もしくは転生する際に、スキルみたいなものとして譲渡しても構いませんので」
春風が真面目な顔で答えると、納得した様子のオーディンが口を開いた。
「なるほど、君の覚悟はよく分かったよ」
そう言って、アマテラスの方に振り向いた。
アマテラスは少しため息を吐くと、
「わかった、君がそれ程までの決意と覚悟を示したなら、こちらも聞かないわけにはいかないね」
「! じゃあ!」
「うん。地球の神として、君のエルード行きを許可しよう」
「やったぁっ!」
と叫びたい気持ち抑えると、春風は深々と頭を下げて、
「有難うございます」
と、お礼の言葉を述べた。
するとそこへ、真面目な表情のゼウスが、
「よし、そうと決まれば早速改造手術だ!」
4秒の沈黙。
春風は一瞬ギョッとなったが、
「い、痛くしないでください」
と恥ずかしそうに顔を赤くするので、アマテラスは「わー違う違う!」と大慌てで訂正し、オーディンはどこからか取り出したハリセンでゼウスの頭をぶっ叩いた。
「あー、コホン。ごめんね春風君、その辺りについて今から説明するから、落ち着いて聞いてね」
「あ、ハイ。よろしくお願いします」
のびている状態のゼウスをよそに、アマテラスは説明を開始した。
「今回のルールを無視した異世界召喚からの、地球を巻き込んだ世界消滅の危機は、全く例の無い異常事態だ。加えてエルード側の神にも連絡を入れているんだけど全然応答が無い。そこで、君には向こうの世界に行ってもらって原因を調査して欲しいんだ」
「わかりました」
「でもね、向こうは地球の常識が通用しない世界だから、何が起こるかわからない。そこで私達神と契約して、向こうの世界に適応できるように体を作り変えるというわけさ」
「なるほど、そのための『改造手術』なんですね」
「あーうん、言い方は悪いけど、そうなるね。ちなみに、手術といっても痛いことするわけじゃないからね」
「……はい、わかりました」
「さて、ここまで説明したけど、何か質問はないかな?」
「その契約に関してですが、その時に俺は何を代償に支払えば良いのでしょうか?」
「あぁ、それならさっき君が書いて出した誓約書が対価として十分相応しくなっているから、安心して」
「わかりました。後はもう大丈夫です」
「よし、それじゃあ早速私と契約を……」
「「ちょっと待て」」
アマテラスが言い終わる前に、オーディンと復活したゼウスが肩を掴んだ。
「……なに、いきなり」
「お前、なに普通に契約しようとしているんだ?」
「だって、この子日本人だし、それなら日本の神である私が契約するのが当然でしょ?」
「貴方わかっているんですか? 事は世界の危機なんですよ?」
「そうだ。ならば俺らにも契約する権利があるよな?」
「はぁっ!? ここは日本の主神である私が出る所でしょ!?」
「俺だってギリシャの最高神だ!」
「それは僕も同じだ!」
まさかの口論を始める神達。だがそこへ、
『ちょっと待ったーっ!』
驚いた春風と神達が振り向くと、そこには色と着こなしは違えど、ワイシャツにジーンズ、そして素足の男女が大勢いた。よく見ると人間以外も混じっていたが、春風は何も言わないことにした。
春風はすぐにわかった。彼等はアマテラス達と同じ、地球の神だった。
口論するアマテラス達を止めに来たのかと思ったのだが、
『契約するのは俺(僕)だっ!』
『いいえ、契約するのは私よっ!』
まさかの参戦だった。
神達の口論は先程以上に激しさをましたが、全く決まる気配がない。困り果てたのか、それとも面倒くさくなったのか、イライラしていた春風はついにブチ切れて神達に、
「あーもうっ! だったら……」
それは、とんでもなくふざけた提案だった。
再び、4秒の沈黙。冷静になった春風は、
(あ、やばい。これ怒られるかも……)
と激しく後悔した。
だが、神達の答えは、
『いいね! それで決めよう!』
まさかの採用だった。
そして春風の提案はすぐに実行され、結果、選ばれたのは……オーディンだった。
「それじゃあ決まったということで、早速契約をしようか」
「はい、よろしくお願いします」
選ばれなかったショックで膝から崩れ落ちた残りの神達をよそに、契約に取り掛かる春風とオーディン。特にアマテラスが悔しそうにこちらを見ているのが見えたが、春風は見なかったことにした。
「今、君には召喚に使われた魔力が体にこびりついているから、そこから現在のエルードの情報を解析して、それを元に体を作り替えるから。あ、もちろん僕の加護というオマケつきでね」
「わかりました」
「さあ、目を閉じて。大丈夫、痛くないからね」
そう言われて、春風はゆっくりと目を閉じた。
次回、春風君、神と契約して「力」に目覚めます。