第4話 そして、少年は立ち上がった
前回のあらすじ
春風君、地球消滅の理由を知ってショックを受ける。
膝から崩れ落ちてがくりと項垂れる春風と、その様子を見てオロオロする神達。
(こんなの嘘だろ? そうだ、これは夢だ。全部夢に決まってる)
春風はギュッと自分の頬をつねった。痛みはあった。つまり現実だ。
(痛い。そっか、やっぱり夢じゃないんだ)
気がつくと、春風はポケットからスマホを取り出していた。電源を入れると、春風はあるデータを見始めた。それは、今は亡き両親、自分を引き取ってくれた養父、「師匠」と呼ぶ女性と彼女との「旅行」で出会った大切な人達との写真だった。
春風はスマホの電源をきると、両手でそれをグッと握りしめた。そして再びポケットにしまうと、スッと立ち上がった。
「あの、お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
落ち着いた様子の春風の質問に、神達はコクリと頷いた。
春風はさらに続けて質問する。
「先程おっしゃった異世界召喚のルールですが、それは、自らの意思で異世界に行くという事に対しても適用されるのですか?」
その質問に対し、アマテラスは答える。
「……うん。適用されるよ」
春風は真っ直ぐ神達を見て、口を開いた。
「俺、行きます。そのエルードって世界に行きます!」
春風の発言に、「あぁ、やはりか」とため息を吐きながら呟く神達。最初に口を開いたのは、アマテラスだった。
「正直に言うとね、私達は君を行かせたくないと思っているんだ」
「地球の危機なのにですか?」
「だからこそさ」
春風の問いに対し、答えたのはゼウスだった。
「俺達は長ーいこと地球を見守ってきたが、お前ら人間は、結構な間違いを犯してきた。それも、世界をぶっ壊しかねないほどのな」
神様本人からの言葉に、春風は思わず心臓を押さえた。
そんな春風に、オーディンが優しく話しかける。
「でもね、それに負けないくらいの、素晴らしい奇跡を起こしてきたのも、僕達は知っているんだ」
そこへ、最後にアマテラスも続いた。
「そう、君達人間は、間違いを認め、それを繰り返さないように努力する事が出来るんだ。私達神は、そんな君達が起こす奇跡をもっと見たいと思っているんだ」
そして、アマテラスは真剣な表情で春風を見て言う、
「だから、どんな理由があっても、そんな君達を勝手に攫っただけじゃなく、その故郷である世界までも危険に晒した存在を私達は絶対に許さないし、どうなろうと知った事じゃないし、そんな存在達がいる所なんて君に行って欲しくないんだ」
真っ直ぐな目で春風を見つめながら正直な気持ちを話す神達。ここまで言われたら、普通の人間なら折れてしまうだろう。諦めてしまうだろう。
だが、春風は折れなかった。諦めなかった。
「皆さんの話が本当なら、そのエルードって世界は『悪い世界』だ。そんな世界がどうなろうと知った事じゃないと言うのは、俺だって同じです。むしろ、俺がこの手でぶっ壊してやりたいです」
春風は負けるもんかと神達の顔を、目を見て言い放つ。
「だけど、地球には守りたい、二度と失いたくない大切な人達がいて、絶対に叶えると決めた『夢』がある。だから地球には無くなって欲しくない。その為に行く。動機なんて、理由なんて、それだけで十分だ!」
その言葉を聞いて、アマテラスは先程以上に真剣な表情で質問した。
「幸村春風……いや、光国春風君。君の意志と『願い』はわかった。ならば君は、その『願い』を叶える為に、神達にどんな『対価』を支払うつもりだい?」
アマテラスの質問に春風は一瞬考え込んだが、すぐに向き直ってこう言った。
「紙と書くもの、それとナイフを貸して下さい。」
そう言われると、オーディンはまたどこからか小さな机と椅子を取り出した。机の上には春風が頼んだ1枚の真っ白な紙とボールペン、それとナイフが置かれていた。
春風はすぐにボールペンを持って紙に何かを書き込むと、ナイフを手に取って自分の親指を切った。切った跡から血が出てきて、それを書き込んだ後の紙にグッと押し付けた。
春風は出来上がった「それ」を持つと、
「これが、俺が支払える『対価』です」
そう言って神達に差し出した。そこにはこう書かれていた。
『誓約書
私、幸村春風(本名・光国春風)は、願いを叶える対価として、自身が77歳を迎えた時、命又は魂を地球の神様達に捧げる事を誓います
幸村春風』
4秒の沈黙。
「77歳になったら命か魂を捧げます〜!?」
「「な、なにぃいいいい!?」」
その時、神達の悲鳴が、何も無い真っ白な空間に響き渡った。
次回、春風君、覚悟を示します。