第16話 そして、少年は名乗った
前回のあらすじ
春風君、騎士を相手に実験を開始。その後ピンチを迎えていたら、女の子が現れた。
「突然ですが、私、リエラといいます! 助太刀させてください!」
そう言って、目の前に現れた少女、リエラは、春風の前に立ち、騎士と神官達に向かって武器を構える。
春風は一瞬ボゥっとなったが、
「あ、これはどうもありがとうございます! スッゲェ助かります! あと俺、春風と申します!」
すぐに我に返ってお礼を言った。ついでに、さりげなく軽い自己紹介もした。
そんなやり取りを見た神官達は、全員顔を真っ赤にすると、再び呪文のようなものを唱え始めた。
「させないよ!」
リエラが神官達に向かって飛び出した。
しかし、剣を抜いた騎士達が、神官達の前に壁になるように並び、行く手を阻んできた。
そして、神官達が呪文を唱え終えたその時、
バキ!
ドカ!
ズゴン!
「「「ぐあああああああっ!」」」
突然の悲鳴に驚いた騎士達が後ろを振り向くと、
「ヤッホー」
そこには鉄扇を開いてパタパタと仰ぐ春風がいた。神官達はというと、全員彼の足元に倒れ伏していた。
「そ、そんなバカな」
神官達が倒されたことにショックを受ける騎士達だが、
「よそ見してんじゃないよ!」
と、リエラは騎士達の顔面に片刃剣のみねの部分を叩きつけた。
『ぐげぇえええええええ!』
リエラの攻撃をくらって倒れる騎士達。そして、最後の1人にリエラは少しずつ近づくが、
「く、来るなぁっ! 『流星撃』!」
怯えた騎士が、リエラに技のようなものを放ったのだ。
騎士の剣から放たれた、光を纏った鋭い突きがリエラに襲いかかる。だが、その攻撃が届くことはなかった。
何故なら、その鋭い突きはリエラより斜め上に大きく外れたからだ。ちなみに、外れたのか攻撃は後ろの壁を突き破った。
一体何が起きたのか? 何故、攻撃が外れたのか?
その原因は、春風だった。
実は、技が放たれる直前、
「させるかよっ!」
そう叫んだ春風が、素早く騎士の背後に駆け込み、
「えい、膝カックン!」
カクン!
「おっふ!」
膝カックンをしたのだ。
そしてバランスを崩した騎士の攻撃が、大きく外れることになってしまったのだ。
「き、貴様よくも……」
騎士は振り返って春風を攻撃しようとしたが、
「やかましいわ!」
ブンッ!
ズゴンッ!
「グホォッ!」
春風は閉じた状態の鉄扇を、騎士のみぞおちに叩きつけた。
強烈な一撃に、騎士は持っていた剣を落とすと、腹を押さえて両膝をついた。
その瞬間、春風は騎士の片膝の上に乗り、その勢いで騎士のこめかみに膝蹴りをくらわせた。
「ぐ、あ」
騎士は白目をむいて倒れ、そのまま気を失った。
こうして、騎士と神官達は全員倒された。
「ハァ、俺こういうの嫌いなのに」
「いやいや、結構かっこよかったよ」
うんざりした表情の春風と、そんな春風を笑って褒めるリエラ。
そんなやり取りをしていた時だった。
倒した騎士と神官達の体が光り出したのだ。
そしてその光が、彼らの体から離れると、春風とリエラの中に入った。
「うわ! 何だこれ!?」
「大丈夫、悪いものじゃないから」
驚く春風を落ち着かせるようにリエラがそう言うと、頭の中で声が聞こえた。
『レベルが上がりました』
「はい?」
ちょっと間抜けな声が出てしまったが、春風はその声をきいて、さっきの光の正体を理解した。
「そうか、あれ経験値だったんだ」
納得した春風は、すぐに自分のステータスを確認した。もちろんレベル以外は周りに見えないように隠した。
レベル1 → レベル20。
BP:20000。
「うわぁ、一気に20にまで上がっちゃったよ。おまけに20000もボーナス貰っちゃったよ」
ハハハと苦笑いしながら小声で呟く春風。そんな春風をよそに、頭の中の声は続けて告げる。
『魔力を用いた格闘戦を確認。スキル[魔闘術]を取得しました。』
『武器[鉄扇]を用いた戦闘を確認。スキル[鉄扇術]を取得しました。』
『スキル[気配遮断]を用いた戦闘を確認。スキル[暗殺術]を取得しました。』
(うわぁ、3つもスキルゲットしちゃったよ。しかも、最後のやつ俺が勇者だったら絶対アウトなやつ来たよ)
何てこったいと言わんばかりの表情で呆然とする春風。
と、そこへ、
「其方は……」
「?」
我に返った春風が振り向くと、そこには玉座に座ってまま表情を強張らせているウィルフリッドがいた。
「其方は何者なのだ? 本当に勇者ではないのか?」
「ええ、俺は勇者ではありません」
緊張しても王としての態度を崩さないウィルフリッドの質問に、春風は真面目な表情で即答する。
「それ程の強さを持っていて、勇者ではないとするならば、一体なんなのだ?」
その問いに春風は「うーん」と考える。
そして、「うん」と頷くと、
「俺の名前は幸村春風。幸村が名字で、春風が名前。でもって……」
そう言って、春風は持っていた鉄扇をポケットにしまい、ウィルフリッドを前に腰の両側に両拳を当てて、
「ちょっとユニークな、一般人だ!」
自信たっぷりにそう名乗った。
最後の名乗る場面は、豹変&ブチ切れシーンと同じ、書きたかった部分の1つです。ようやく文章に表すことが出来ました。
というわけで次回、春風君、いよいよファストリアを飛び出します。