第14話 質問終わって、ブチギレた
前回のあらすじ
春風君、ウィルフリッド王に質問をする。
ーーい、一体何が起こった!?
国王、王妃、王女2人、騎士、神官、そして召喚された勇者達。謁見の間にいる者達全員、何が起きたのか理解できなかった。
目の前にいる美少女のような顔立ちの少年にいきなり質問されて、終わったと思ったら態度がガラリと変わって暴言らしきものを吐かれて殴られたかのような衝撃を受けたのはなんとなくわかったのだが、それでも何がどうなっているのかがわからなかった。
「あ、すみません。言い方間違えました」
その少年ーー春風の謝罪にハッと正気に戻る周りの人達。優しく微笑む彼の態度に、全員が、
『あ、そうか。さっきのは気のせいだったんだ』
と、ホッと安心する……が、次の瞬間、
「きったねー仕事頑張ってこなす俺らの姿を見て、テメーらは横でオヤツをムシャムシャ食ってますってことなんだよなぁ!?」
『ゴフッ! ガハァッ!』
春風の暴言が、再び炸裂した! それを聞いて、全員、再び吐血した! 血は吐いていないが、吐血したと表現するにふさわしい状態になった! しかも、2回も! おまけに、左頬だけでなく右頬にも殴られたような衝撃を受けた!
しばらくすると、彼らは左右の頬をさすりながら、怯えた表情で春風を見た。そんな中、春風は心の中で呟いた。
(なんかさっきからうるさいなぁ)
すると、1人の少年が春風に掴みかかった。
「オイ、どういうつもりだ!」
「んん?」
春風が振り向くと、そこには涙目になりながらも睨みつける翔輝がいた。
「どうしたの前原君。お腹でも壊したのかい?」
「白々しいこと言うな! さっきから何のつもりだ!? 僕達だけじゃなく、国王陛下達まで苦しめるなんて!」
怒る翔輝の言葉に、春風は「?」を浮かべたが、すぐに真面目な顔をする。
「何を言ってるのかよくわからないんだけど。俺はただ、この気に食わなない連中に一言文句みたいなものを言ってやっただけなんだけど」
「文句だって!? 彼らはただ、世界を救うために神様の命に従って僕達を召喚しただけだ! それの何が気に食わないって言うんだ!?」
怒りのままに問い詰める翔輝。春風はそんな彼を見ると、優しく微笑む。
「『神様の命に従って』ねぇ。まあ確かに、今は世界の危機。世界を見守る神様としては、そんなの黙って見過ごせるわけないだろうし、そんな神様の命とあれば、自分達としては信じて従うってのも当たり前なのでしょうなぁ」
そんなことを言う春風に、ウィルフリッドを含む謁見の間にいるもの達全員、まるで天国にでもいるような気分になってホッと胸を撫で下ろした。
だが! 次の瞬間!
「だが俺が信じているのは、故郷である地球の神々だけだぁ!」
『ぶぉっふぁあああああああああっ!』
春風の暴言が、またしても炸裂した! それを聞いて、春風を除く全員、派手に吐血した! 実際、血は吐いていないのだが! さらに今度は、腹部に強烈な一撃を喰らったかのような衝撃を受けた! そして全員、腹を押さえて苦しみ出した!
そんな彼らの姿を見て、春風はうんざりしたように言う。
「あのぉ、さっきからすごくうるさいんですけど」
その言葉を聞いて、まともに喋れる者がいたら、こう叫ぶだろう。
「お前のせいだろうがぁああああっ!」
しかし、春風はそんな状態の彼らを無視して、ウィルフリッドに向き直った。
「さて国王様。俺があなたにお願いしたいことはただ1つだけです」
そう言って、笑顔で自分がいる場所を指さした。
「ここ、出ていく許可をください」
すると、さっきまで腹を押さえていたウィルフリッドが、驚いた表情で問い詰めた。
「な、ちょ、ちょっと待てくれ! 出ていくとはどう言うことだ!? 何故、そのようなことを申すのだ!?」
春風は笑顔で答えた。
「だって俺、『勇者』じゃないですから」
その言葉を聞いて、ウィルフリッドはさらに驚愕する。
「ゆ、勇者じゃない……だと!? それは、一体?」
ウィルフリッドの問いに、春風はステータスウインドウを展開して、その中からとある項目を見せた。
称号:巻き込まれた者。
「『巻き込まれた者』……だと?」
「そう、俺はあなた方の言う『勇者』じゃなくて、単に巻き込まれただけの一般人なんですよ。」
驚くウィルフリッドに、春風は淡々と説明をした。
もちろん、この称号は本物ではない。ここに来る前にあらかじめ「偽装」のスキルで作った偽物の称号だ。
しかし、ウィルフリッドはそうとは知らずに、春風にさらに説明を求めた。
「そ、そんな馬鹿な。一体、何故?」
「いやーお恥ずかしいことなんですけど、実は召喚が行われた時、俺必死になって教室のカーテンを掴んで抵抗していたんですよ。多分、そのせいで何か不具合みたいなことが起こったんじゃないかと思うんですよ」
ハハハと笑いながら説明する春風。それを見て、開いた口が塞がらない人達。
「そういうわけで、勇者じゃない俺がいつまでもこんな所にいるわけにはいきませんので、出ていく許可をくださいというわけなんです」
そう言って再び許可も求める春風。しかし、1人納得できない者がいた。
「ふ、ふざけるなっ!」
気絶から復活した翔輝だ。
「黙って聞いていれば言いたい放題言って、何様のつもりだ!? 僕達だけじゃなく、ここまで困っている彼らを放っていくなんて、どうかしているぞ!」
「……るせーよ」
「なに?」
春風は酷くうんざりした表情で翔輝に向き直った。
「うるせーよって言ったんだよ、前原君よぉ!」
「な、なん……だと?」
「俺はなぁ、『自分らのために戦って死ね』なんて言うこいつらが信用できねーだけなんだよ!」
「なっ!? ちょっと待て! いつ彼らがそんなことを言った!?」
「俺らを召喚した時点でそう言ってるって事だろーが!」
「そ、そんな。本気で言っているのか? じゃあ君は、本気で彼らを見捨てるって言うのか? この世界が、この世界の人々がどうなってもいいって言うのか!?」
翔輝の言葉に、春風は下を向いた。
だが、
「知らねーよ」
「?」
「あぁ知らねーよ! 他の世界にまで、迷惑をかけた連中なんて知った事じゃねぇよ!」
春風の怒声が、謁見の間全体に響き渡った。
その時、
『危険接近! 危険接近!』
春風の「警報」のスキルが、危険を知らせてきた。
次の瞬間、
「貴様ぁあああっ!」
1人の騎士が剣を抜いて、春風に向かって突進してきた。
前回から続いた春風君の豹変&ブチ切れシーンは、物語を書く前から書きたかったシーンの1つです。どう文章で表現すれば良いかわからず、ずっと書けなかったのですが、やっと形にすることが出来ました。
とは言え、初めてなので文章的におかしいところがないか少し不安です。変だったら申し訳ありません。
というわけで、次回、ブチ切れた春風君、異世界で初めての戦闘に入ります。そして、新たな運命の出会いをすることになります。