第12話 小夜子の怒りと、勇者のステータス
前回のあらすじ
ウィルフリッド王、勇者召喚を行った理由を話す。
「ちょっと待って下さい」
春風を除いて誰もが呆然とする中で、ただ1人かろうじて毅然とした態度を崩さなかった小夜子が口を開く。
「それってつまり、私達にそんな危険な存在と戦えと、そういうことなのですか?」
今にも倒れそうになりながらも、ウィルフリッドを睨みつけながら問う小夜子。そんな小夜子に、ウィルフリッドも国王としての態度で答える。
「うむ、その通りだ」
その答えに、小夜子の怒りが爆発した。
「ふざけないで下さいっ! いくら私達が神に選ばれたからって、今日までただの一般人の教師と学生として生きてきたんですよ! なのにいきなり訳もわからずに召喚されて、この世界のために戦えだなんて、そんなの無理に決まっているじゃないですかっ! それに、私達にあなた方を救うような力を持っているとはとても思えません!」
怒りのままに叫ぶ小夜子に、謁見の間にいる者達の視線が集まった。
もともと高坂小夜子という女性は、真面目で気が強く、厳しいところもあるが、生徒を思いやる優しさも兼ね備えた人物だ。だから今回、自分達のために怒ってくれた小夜子に、春風はもちろん、一部のクラスメイト達もジーンと感動していた。
すると、小夜子の言葉に触発されたのか、クラスメイト達の中から、
「怖い」
「嫌だ」
「帰りたい」
という声が出てきた。
そんな状況の中、ウィルフリッドはスッと玉座から立ち上がり、口を開いた。
「其方の名を聞かせて欲しい」
そう言われて、小夜子は若干戸惑いながら名乗った。
「高坂小夜子。高坂が名字で、小夜子が名前です。この子達の先生を務めています」
「なるほど。では小夜子殿と呼べば良いだろうか?」
「……えぇ、構いません」
そう言われると、ウィルフリッドは小夜子に深く頭を下げた。
その姿に驚く王妃と王女達、そして騎士や神官達。ウィルフリッドはそんな状態でもお構いなしに、
「其方の怒りはもっともだ。すまないことをしたというのは十分に承知の上だ。だがそれでも、この世界を救うためには他に方法がなかったのだ」
と、謝罪やら言い訳やらが混じったセリフを述べた。
納得の出来ない小夜子に、ウィルフリッドはさらに続けた。
「其方は先程、『力がない』と言っていたが、それは違う。この世界に召喚された時、其方達は神々より勇者としての力を授かっているのだ」
その言葉に驚く小夜子達に、ウィルフリッドは言う。
「意識を集中し、『ステータスオープン』と唱えるのだ。そうすれば自分達の今の状態を教えてくれる」
そう言われるがままに、小夜子達は意識を集中して、
『ステータスオープン』
と唱えた。
次の瞬間、彼らの目の前にウインドウが現れた。
小夜子がそのウインドウを見ると、そこにはこう記されていた。
高坂小夜子(人間/27歳/女) 職能:神聖騎士(+勇者)
レベル:1
生命力:1000
魔力:900
持久力:900
筋力:80
耐久:70
知力:100
精神:90
敏捷:80
運勢:最高
魔力属性:無、火、水、光
スキル:言語理解(レベル:1)、体術(レベル:1)、剣術(レベル:1)、炎魔術(レベル:1)、水魔術(レベル:1)、光魔術(レベル:1)、聖剣召喚(レベル:1)、聖闘技(レベル:1)、神聖術(レベル:1)
装備:スーツ
称号:異世界(地球)人、職能保持者、選ばれし勇者
「こ、これは一体?」
「それはステータスと言って、其方達が持つ力を表したものだ。称号を見るがよい。そこには『選ばれし勇者』と記されているだろう?」
そう言われて、小夜子達が称号をかくにんすると、そこにはウィルフリッドの言う通り、「選ばれし勇者」の称号が記されていた。
「わかったであろう? それこそが、其方達が強大な力を持つ『勇者』であるという証なのだ」
ウィルフリッドの言葉に、小夜子は愕然としながらもなんとか反論しようとするが、
「良いじゃないですか、先生」
突然のセリフに驚いた小夜子は、すぐに声の主の方へ振り向いた。振り向いた先には、いかにも優等生といった感じの整った茶髪が特徴的なイケメンな少年だった。
「前原!」
(前原君?)
春風もすぐに前原と呼ばれた少年の方へ視線を向けた。
少年の名は、前原翔輝。クラスメイトの1人にしてクラスの中心的存在で、優秀な成績を誇る優等生だ。
「良いって、どういうことだ前原?」
問い詰める小夜子に対して、翔輝はイケメンな笑顔を崩さずに答えた。
「見ての通り、世界がピンチを迎えて彼らはとても困っている。この状況を変えられるのは選ばれた勇者である僕達しかいない。なら助けるのは当然じゃないですか」
「確かにそうだ! だがわかっているのか? これは遊びじゃない! 下手をしたら死ぬかもしれないんだぞ!」
小夜子の正論に、春風は心の中で「その通り」だと呟く。しかし、
「わかってませんね先生、僕達は神に選ばれた勇者で、それに相応しい力を与えられている。これで僕らが死ぬ要素がどこにあると言うんですか?」
翔輝には届かなかった。それどころか、どこか馬鹿にしたような口調で反論してきた。そんな翔輝に、春風は内心イラッとした。
春風の様子に気づかない翔輝は、周囲のクラスメイト達に言う。
「みんな大丈夫だよ。勇者である僕達ならきっとこの世界を救えるさ。今はレベル1だけど、頑張って強くなって、一緒に困難を乗り越えて、そして僕達の名をこの世界の歴史に刻もうじゃないか!」
春風は何を言ってるんだかと呆れた表情で翔輝を見るが、さっきまで怯えてたり戸惑っていた様子のクラスメイト達が、
「そ、そうか。そうだよな」
「うん、私達なら出来るよね」
と、次第にやる気に満ち溢れだした。
その様子を見て焦る小夜子。しかし、ウィルフリッド達エルードの人々はそれを嬉しそうな顔で見た。中には「これで世界は救われる」なんて言う者もいた。
「おぉ、それでは力を貸してくれると言うのか?」
そう問うウィルフリッドに、翔輝は、
「はい、もちろ……」
と答えようとしたその時、
「あの〜、ちょっと良いですか?」
突然の発言に、謁見の間にいる者達全員が声がした方を見ると、そこには眼鏡を外し、髪を少しクシャクシャにした春風が、手を上げていた。
この物語に登場する「勇者」とは、職業=勇者という意味ではなく、その人が目覚めた「職能」に、「勇者」としての要素を加えたもののことをいいます。そのために、職能名の横に、「(+勇者)」と書きました。
まぁそれは置いといて、次回、春風君のターンが始まります。