第10話 降り立った、その場所は……
前回のあらすじ
全ての準備を終えた春風君、神々に見送られて、エルードに旅立った。
気がつくと、春風は見知らぬ場所に倒れていた。
起き上がって周りを見回すと、そこは、ファンタジー系の漫画に出てくるお城の中を思わせる石造りの広い部屋の中だった。
左右の壁には軽そうな鎧を纏った男女が数人ずつ立っていて、後ろをチラリと見ると大きな木製の扉が1つと、その両端に槍を持った兵士が1人ずついる。
(出入り口は1つだけか)
そして正面を向くと、そこには2つの豪勢な椅子に座った王冠らしき物をかぶった威厳のありそうな男女と、その背後に金の装飾が施された白い鎧を纏った男女が数人いた。
その瞬間、春風が今いる場所がどういう所なのか理解した。
そう、ここは間違いなくお城の中。そして、今自分がいるのは、「謁見の間」のようだった。
(なるほど。で、目の前にいる椅子……いや、玉座か。座っているのは王様と王妃様ってことになるのかな。でもってよく見たら、玉座のそばには王族専用の扉があるな)
するとその時、春風は大事なことを思い出した。
(そうだ! 先生とみんなは……)
再び周囲を見回すと、そこには自分と同じように倒れた状態からどうにか起き上がった担任教師とクラスメイト達がいた。全員、今の自分達の状況にとても戸惑っている様子だった。
(良かった。みんな無事みたいだな)
ホッとしたその後、春風は気づかれないようにキョロキョロと視線を動かすと、
(いた! 流水と水音! 2人共いる!)
春風の視線の先にいるのは、髪型は違えど同じ顔を持つ2人の少年少女だった。少女の名前は桜庭流水で、少年の名前は桜庭水音。春風と同じく「師匠」と呼ぶ女性の弟子である双子の姉弟だ。
(あとは……うん、ちゃんといる)
そして、もう一方の視線の先には、1人のクラスメイトの少女。彼女の存在に、春風はホッと胸を撫で下ろした。
全員の無事の確認し終えたその時、
「ようこそおいで下さいました、勇者様方」
そう呼ばれて玉座の方を見ると、王と王妃の前に、1人の少女と、杖を持った4人の白い装束を纏った人達が立っていた。
少女は美しい容姿に長い金髪と青い瞳を持ち、物語なんかに登場する「お姫様」を思わせる綺麗な青いドレスに身を包んでいた。
(誰だろう? まぁ、なんとなくわかるけど。年は俺達と同じくらいかな?)
春風が冷静にそんな事を考えていると、担任の高坂小夜子が恐る恐る少女に質問した。
「あ、あの……あなたは?」
普段は気の強い小夜子だったが、状況が状況なので口調がおかしくなっていた。
そんな小夜子に、少女は優しく微笑みながら答えた。
「私は、ユリアンナ・アウラ・ファストリア。ここファストリア王国の第一王女です」
自らを王女と名乗った少女に驚く小夜子とクラスメイト達。しかし、そんな中でも春風はやはり冷静だった。
(やっぱ王女様だったか)
困惑している様子の小夜子達を前にしても表情を変えずに、ユリアンナは続ける。
「あなた方はこの世界エルードを救うため、神に選ばれた勇者としてこちらにいる神官達によって召喚されたのです」
そう言って、小夜子達に4人の白装束ーー神官達を紹介するユリアンナ。
(なるほど、使われたのは「勇者召喚」の儀式というわけか)
そう考えて、周りに気づかれないように鼻で笑う春風。だが、
(何が『勇者様方』だ! お前らのせいで俺達の世界が、『地球』が大変なことになったんじゃねぇか!)
気づかれないように注意しながらも、春風はユリアンナ達を怒りを込めた目で睨みつけた。
しかし、その後すぐに、気持ちを落ち着かせようとした。
(おっと、いけないいけない。落ち着いて、落ち着いてっと)
深く呼吸しながら、睨みつけたことを誰かに見られてないか確認する春風。
(よし、誰にも気づかれてないな。ハァ、よかった)
そんな春風の様子に気付くこともなく、ユリアンナは話を続けた。
「それでは、皆様。これより詳しいお話を、ここファストリアの王にして私の父であるウィルフリッド陛下が、お話ししてくださいますので」
そう言って、ユリアンナは神官達と共に部屋の隅に移動した。
(さあて、いよいよ国王様のお話ってわけだな)
春風は国王の話をしっかり聞こうと、真っ直ぐに玉座の方を見た。
次回、国王様から召喚を行った理由を聞かされます。