第48話 発見
恭之介は、リリアサとララとともに、町にある一軒の酒場に来ていた。
ここ数日、武器屋や宿屋に加え、トゥンアンゴに関係する施設など、火煙の二人が利用しそうな場所へ足を運んだが、これといって有力な情報はなかった。
しかし、ギルド支部長のエフセイが、それらしい人物がある酒場に時折現れるという情報を手に入れてくれた。そのため、夜になるのを待って、件の酒場へ来たのだった。
お世辞にもきれいとは言えない店構えである。ここは、まだ恭之介たちが訪ねていなかった酒場で、後回しにするのも仕方がないような寂れた酒場だ。この酒場の唯一の利点は安価であることくらいだろう。
しかし、その利点に群がるのか、酒場はなかなか盛況で、七割ほど席が埋まっており、騒がしいくらいだった。
当初、顔が割れている可能性があるララたち三人は置いて、リリアサと二人で来る予定だったのだが、責任感からか、どうしてもララが一緒に行くと言ったので、結局彼女も一緒に来ることになった。
「あの席に座りましょう」
眼鏡をかけ、髪型を変えたララが言う。
探索を始めてから、ララは念のため変装をしていた。服装も商家の娘のような格好で、見慣れた恭之介が見ても、一目ではララとわからない。もっとも鈍感な恭之介のことだから当てにはならないのだが。
ララが指した席は、奥まった席で、全体を見渡すのにちょうど良さそうだった。
「あ、じゃあ私がエール買ってきますね」
「いいわいいわ、恭之介君たちは座ってて。私が買ってくるから」
そう言ってリリアサは、店奥にあるカウンターへ向かった。この店は、自分でカウンターまで行き、飲み物や食べ物を注文するようだ。
「とりあえずこの中にはいないようですね」
ララはきょろきょろと店内を見渡す。
「ララさん、もしあの二人、マロックとトドフでしたっけ?二人を見つけたらどうしますか?」
「そうですね……今は、捕まえてウルダンの領事館に引き渡すつもりでいます」
「それでララさんの気持ちは晴れますか?」
「わかりません」
彼女が悩ましげに少しうつむく。
「でも、怒りに任せて斬ってしまうということはないと思います。以前とは、心持ちが違うと言いますか。特に最近は、少しずつ気持ちが晴れてきたような気がします」
「良い傾向ですね。時間が経ったこともあるのでしょうが、フィリ村という安住の地が見つかったからじゃないでしょうか。やはり居場所がないというのは、つらいものなのだと思います」
「本当に私のような人間が住んで良いのか、まだ葛藤はありますが、みなさんに暖かく迎え入れていただけたおかげで、一息つけたと言いますか、地に足がついたと言いますか」
「それを聞けば、レンドリックさんもレイチェルさんも喜びますよ」
「はい。あと、それ以上に最近は、恭之介さんもいらっしゃいますし……」
「え?あぁ、そうですね、私もいますよ」
「はい!」
生返事をしてしまった。
だが、笑みを浮かべた彼女の反応を見る限り、間違った返答ではなかったのだろう。
「結局、家を失った私は、どこか拠り所を探していたのだと思います。それが復讐というのは情けない話ですが」
「いえ、それがララさんの生きる活力となったのならば、そう悪いことではないと思います。そのおかげで、前に進んで、結果フィリ村へたどり着いたのですから」
「そう、でしょうか。でもそういう考え方もできますね。ありがとうございます」
「私もあの村に救われましたから」
彼女とは境遇が違うが、恭之介もあの村があったから、この世界に馴染むことができた。胡散臭いよそ者の恭之介を、暖かく迎え入れてくれた村人たちのおかげで今がある。
彼らのように上手にはできないが、恭之介も困って村を訪ねて来た人たちの力になれればと思っている。
「はーい、ごめんなさい。お待たせ~」
リリアサがエールを三つ持って帰ってきた。
「遅かったですね」
「うん、ごめんね。少し話を聞いてて」
「どうでしたか?」
「うん、やっぱそれっぽい二人が出入りしてるみたい」
リリアサがそう言うと、ララの表情が少し険しくなる。
「さぁ、どうしましょう、多分ここで張っていれば、いずれ会えると思うけど。ララちゃん、どうする?」
「……捕まえて、ウルダン王国の領事館に差し出し、あとはそちらに処置を任せます」
「うん、それがいいと思うわ」
この前、宿の裏庭で話したララの話が本当ならば、もう彼女に二人を斬る理由はなかった。家族を失い、力にすがっていた彼女はもういないのだ。
彼女は少しずつ平静を取り戻している。ここでまた不要な殺生をすることは彼女のためにならない。
万が一そんなことになりそうなら、恭之介は全力で止める気でいた。
「じゃあそうと決まれば、ここで飲みながら待ちましょう」
リリアサは嬉しそうに昼間買ったチーズを机に広げる。
都ということもあるのか、それなりに腕が立ちそうな冒険者も多い。マカクとハラクがいないので、絡まれたら面倒だと思ったが、幸いなことにそういった変な輩はいなそうだ。
最近、恭之介は自分の強さの気配を完全に消せるようになっていた。この世界の強者は、気配を察知する力に長けているので、最初はばれないようにするのに少し苦労した。
自分の力量を読まれない方が、勝負の世界では有利になることが多い。多少腕が立つとばれても底の部分さえ隠せていれば、色々な立ち振る舞いができる。強さを読まれないこと自体が奇襲にもなるのだ。
反面、リリアサたちのような美人と一緒にいると、変な輩に絡まれる面倒くささはある。見た目だけで言えば、恭之介は全く強そうには見えないからだ。
「あっ」
しばらく飲んでいると、ララが小さく声を上げた。
ララの視線の先を見ると、二人の男がテーブルに腰掛けたところだった。
一人は幅の広い大きな剣を持った、がたいのいい短髪の男。もう一人は槍を持った、鋭い目つきの細身の男。
「マロックとトドフです」
ララが小さな声で言う。
標的を目の前にしてもいつも冷静な様子だ。恭之介は少し安心する。これならば感情に走るということはなさそうだ。
トドフは槍使いと聞いていたので、槍を持っている細身の男がトドフなのだろう。必然的に隣のがたいのいい男がマロックということだ。
身のこなしに隙はない。Aランク冒険者というのは伊達ではないのだろう。しかし、疲れているというのか、少しやつれているようにも見えた。
二人はやや物憂げな様子で、エールをちびちびと飲み始める。他人事ながら、エールの飲み方としてはあまり美味そうに見えない。
「なんか辛気臭い。景気が悪そうね」
リリアサも同じようなことを感じたようだ。
ララは不審にならない程度に、静かに二人を観察している。
マロックとトドフは会話もほとんどせず、何をするにも気だるそうな様子だ。見ているこっちの気も滅入りそうになる。
結局二人は、エールを二杯ずつと、じゃが芋を揚げたものを一皿食べただけで席を立った。あまり金がないのかもしれない。
「行きましょう」
少し間を置き、恭之介たちは二人の後を尾けた。
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