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第3話 時の魔女の困惑

本日4話目。


初回は7話更新です。

「う~ん、なるほどねぇ……と言っても、ちょっと信じられないわ」

 

 リリアサはますます困惑する。


 目の前の青年が、その世界における最強の遣い手なのはおそらく間違いないだろう。


 しかし、世界最強ぐらいで時空を斬れては、世の中の時空はぼろぼろである。


「うそは言っていませんよ」

「あ、ごめんなさい。あなたがうそをついているとは思っていないのよ」

 

 リリアサは、恭之介が腰に下げている刀に視線を移す。


「時空を斬ったのはその刀?」

「はい」

「……ちょっと見せてもらえる?」

「いいですが、ここで抜いてもいいんですか?」

「ええ、構わないわ」

 

 得物を抜かせるのは危険かもしれない。


 しかし、時空を斬ったなどという到底信じられない話を聞いた以上、見ないわけにもいかない。もちろん不測の事態に対応できるようにはしてある。

 

 リリアサの心境を知ってか知らずか、恭之介は刀を無造作に抜き、迷わずこちらに差し出す。


 頼んだリリアサが言うのもなんだが、武士にしてはずいぶんと無防備だがいいのだろうか。

 

 名工の手によるものなのだろう。よく鍛えられたいい刀だった。


 しかし、何の変哲もない普通の刀だ。素材も特殊なものなど一切使われておらず、普通の鉄である。


 もちろん、魔力が宿っているわけでもない。


「ありがとう、もういいわ」

「わかりました」

 恭之介は言われるがままに刀を鞘に納める。


「で、なんで宙を斬ったの?普通、宙というか空間を斬ってみようなんて思わないでしょ?理由は?」

「理由は……すみません、特にないです」

「ないの?」

「素振りをしていたら、なんか斬れそうな感じがしたので、つい」

 

 斬れそうで斬れたら、この世の時間軸はめちゃくちゃである。


 だが、うそをついているようには思えない。


 しかし、話せば話すほど、この青年の人間性は善良さしか見えてこない。


 まぁ悪意があって時空を越えてきたという状況と比べれば、断然いい状況ではあるだろう。

 

 今一度、目の前の青年を見る。刀が普通のものであったということは、時空を斬った原因は彼自身にある。


 おそらく、これは武芸系の特殊能力『アーツ』の発現によるものだろう。


 その力で時空を斬ったということであればわからなくもない。もっとも、アーツで時空を斬ったなどという話は聞いたことがないが。

 

 リリアサは権限を使って、こっそり恭之介の能力をのぞく。


(やっぱりあったわね……時空を斬るアーツ。ってか本当にアーツで時空を斬ったの?それがそもそも信じられないんだけど)

 

 やはりアーツによって、時空を斬ったのだ。


 信じがたいが、彼がここにいる以上、それを信じるしかない。


 しかし、ここでリリアサは更に驚くべき情報を手に入れてしまう。


「他のアーツや魔法は、一つも覚えてない?」

 

 思わず口に出してしまった。


 まずいと思い、恭之介の顔をうかがうが、怪訝そうにこちらを見ているだけだった。

 

 一般人が普通に生活しているだけでも、何かしらのアーツや魔法が使えるようになる世界線は多い。


 だが、恭之介には時空を斬るアーツ以外、何もない。これほど凄腕の剣士に、他の能力が発現しないことなどありえるのだろうか。

 

 そこで、リリアサはある一つの可能性に気づいた。


 しかし、そんなことがありえるのか。自分の予想に思わず鳥肌が立つ。


「ちょっとごめんなさい」


 一言断り、リリアサはテーブルのタッチパネルを操作して、アーカイブを開く。


 彼の世界線の情報を調べるためだ。恭之介は所在なさげに立っている。申し訳ないが、ここは勘弁してほしい。


「ああ、この世界線のこの銀河ね。時代は近世、国は……」

 

 ディスプレイに恭之介がいた世界線の情報が出てくる。


 やはりリリアサの予想した通りだった。しかし、それは到底信じられるものではなかった。

 

 恭之介のいた世界線は、生き物の潜在能力が最低限の値でしか発揮されない。


 ゲームのステータスで例えるならば、とても低い値ばかりとなる。

 

 たとえこの世界線の人間が身体を鍛えたとしても、大抵の他の世界線とは比べるまでもない低い能力値にしかならない。


 他の世界の住人の軽い一撃で殺されてしまうだろう。当然、アーツや魔法もまず発現しない。

 

 だが、この音鳴恭之介はその世界線の住人にも関わらず、時空を斬り裂いた。


 これがどれほど異常なことなのか。長く生きるリリアサからしても想像がつかない。


 過去に同じような事例があったか。少なくともリリアサは目にしたことがない。

 

 だが確かに彼は目の前に存在している。時空を斬り、時空を越えてきたことも事実である。

 

 そうなると、、もう一つ確認したいことが出てくる。


「もう一つ質問してもいい?」

「は、はい」

 

 作業に没頭していたと思ったら、急に声をかけられ、少し驚いたようだ。


「あなた、自分が他の人と違うって感じたことない?例えば~~、そうね、他の人に見えないものが見えたり、すごく速く動けたり、ものすごい力持ちだったり」

「う~ん」

 

 恭之介は腕を組んでわずかにうつむいた。


「多分何かはあると思うのよね。違ってもいいから思い当たるものを言ってみて」

「筋力は普通だと思います。人に見えないものが見える……そんな経験はないですね。でも、しいて言うなら、立ち合いの時、いつからか相手の動きが遅く見えるようになりました」

「あるじゃない」

「え?」

「なるほど、あなたは覚醒者ね」

「かくせいしゃ?」

「う~ん、要はその世界の人たちと比べ物にならないほど、すごく強くなった人ってこと」

「はぁ」


 恭之介は、よくわからないといった様子で首をかしげる。

 

 覚醒者の資格を持つ者は珍しいことは珍しいが、いないわけではない。ただ、資格があったとしても、そうそう覚醒はしない。覚醒すること自体が難しいのだ。

 

 また、覚醒したとしても、そこまで大きい力でない場合がほとんどだ。例えば、彼のいた世界線でも、超能力や妖術と言った類の能力を発現した者もいるが、その力はたかがしれている。

 

 覚醒には運ももちろん大切だが、それ以上に生き方が大切なのだ。


 おそらく彼自身、才能に溺れず、愚直に自らを鍛えたのだろう。


 修羅場も数多くくぐってきたに違いない。


 運と時と努力が結びついた結果、彼という規格外の覚醒者が生まれたのだろう。

 

 この世はゲームではないので、相手のステータスが数字で見えるわけでないが、もし見えるとしたら彼は剣術に関係するいくつかの能力が覚醒し、限界を突破したような状況なのだろう。


「だからって時空を斬るって尋常じゃないけどね」

 

 だが、これしか考えられない。


 納得できないことは多いが、一応リリアサ的には結論が出て、安心する。


 そして何より、彼が理性的で善良な人間であることが幸いだった。本当にわけもわからず時空を斬って、こちらに来たのだろう。


「あの……」

「なぁに?」

「私も質問をしてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 

 リリアサは手を差し出し、優しく促す。

 

 質問に答えるという約束だったからということもあるが、純粋に彼がどんな質問をするのか興味があったからだ。




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