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第19話 襲撃

 レンドリックは洞穴を見つけただろうか。


 恭之介は遠く森にいるであろうレンドリックに思いを馳せる。そろそろ見つけられそうだと言っていたが、時刻はすでに夕刻だ。今日も彼は野宿だろうか。


 もし洞穴が見つかったのなら、レンドリックには一旦帰ってきてほしかった。


 恭之介は、護り手を倒すのは自分がやれば良いと考えている。護り手がどのくらいの強さかわからないが、万が一のことを思えば、自分が戦った方が良い。


 自分には代わりがいるが、レンドリックにはいない。レンドリックさえいれば、村はどうとでもなる。洞穴を壊せなかったら、ここから移住したって良いのだ。


 しかし、護り手を倒すのは自分の仕事だと言い張っていたことを考えると、彼はそのまま洞穴へ向かうだろう。


 もっとも、レンドリックならば大丈夫だろうとも思う。実力の底を見たわけではないが、彼は相当な遣い手だ。


 もしレンドリックが倒せないような敵だったら、自分も勝てるか怪しいだろう。今は、そんな敵でないことを祈るしかない。


 結界を張る時間が近づいているということもあり、村の中心部に村人たちが集まってきている。


「先生、今日もお疲れさまでした」


 ヤクが水筒を差し出してくる。


「ありがとう」

「今日は強い魔物がたくさん来ましたね」

「そうだね、なんか変化があったのかな」


 ヘルゲートボアやハイオーガ、それにトロルという巨人型の魔物が複数体現れた。倒すのにそれほど時はかからなかったが、柵や一部の建築物に被害が出てしまった。


 魔物の襲撃が強力なものになってきた。まだこの世界に来て日が浅い恭之介でも、何かが起こっているのは感じる。


「でもさすが先生です。危なげなく倒してしまいました」

「う~ん」


 何と言って良いものか、少し考える。確かにあっさり倒せたのは事実だが、自分がそれを認めてしまうと、ヤクが戦いというものを軽く見てしまわないだろうか。


 どんな相手でも何が起こるかわからない、ゆえに集中しなければならない。しかし、そんな説教臭いことを言うほどの場面でもない。


 結局、良い言葉も浮かばず、明言を避け、うやむやにしてしまった。



 日が落ちてきて、辺りに村人たちが集まってきた。結界に使う魔力の提供のためだ。


 その時、夕焼けとは違う、赤い光が村の外れから見えた。


 何だろうと恭之介がそちらの方向を見ていると、鐘の音が響いた。


「魔物か!」


 鐘の音は連打。対処ができている状況の拍子ではない。連打は緊急事態の拍子だ。


 恭之介は、赤い光の方向へ駆ける。どうやら火事のようだ。ヤクもついてくる。


「恭之介さん、敵は魔物じゃありません!人間です!大勢の賊が村に侵入!火を放っています」


 村人の一人が報告に来る。賊か。多勢とは厄介だ。


「わかりました。レイチェルさんにも伝えてください」

「他の奴が伝えに行っています」

「そうですか。ではあなたも訓練通り、レンドリックさんのうちへ」

「わかりました」

「ヤクもレイチェルさんのところへ行って、みんなの避難を手伝って。気をつけるんだよ」

「はい。先生もお気をつけて」


 ヤクが元の方向へ駆け戻っていく。


 強力な魔物が大量に襲ってきた際などを想定して、村では時折、避難の訓練が行われていた。


 恭之介とレンドリック以外は、村の高台にあるレンドリックの家へ逃げる。あそこは侵入経路が正面しかないので、守りやすい。


 そこにレイチェルが結界を張るのだ。普段の村を覆う広範囲の結界と違い、村人だけを守る狭い範囲の結界なので、防御力は相当のものらしい。


 幸いなことに、水晶に魔力を注ぐため、ほぼすべての村人が村の中央に集まっていた。避難誘導もしやすいだろう。村を駆けまわりながら賊と対するのは恭之介だけだ。


「おめぇら!闇雲に火をかけるなよ。大量の魔物の素材があるはずだ。それを燃やした奴はぶっ殺すからな!」


 大振りの斧を持った髭の男が割れ鐘のような声で叫んでいる。


「それから!よほどの上玉以外、人間は攫うなよ。今回は人買いの伝手はねぇ。足手まといになる。見かけたら殺しちまえ」


 燃えているのは恭之介の小屋だった。被害にあったのが自分の家だったことにかすかな安心を覚える。


「ボス、変な奴が」


 恭之介の接近に気づいた賊が、斧の男に伝える。


「お、この村の用心棒か」

「そういうあなたたちは盗賊ですね」

「いいや、俺たちは悲しき流人だよ」

「流人?」

「あぁ、戦禍で故郷を追い出されたかわいそうな流人だ」


 うそではないのかもしれない。しかし、今やっていることはまぎれもなく賊の所業だ。


「そんな哀れな俺たちを、あのボンボンは追い出しやがった。他の奴は村に入れたってのによ。こりゃ差別じゃないか」

「あなたの素行が悪かったんじゃないですか」

「きれいな顔して嫌なこと言うな、兄ちゃん」


 悪そうな人間を村から追い出したことは、以前に聞いたことがあった。この男たちもそうなのだろう。

 

 襲撃の狙いは、逆恨みと魔物の素材のようだ。


「これを見る限り、あなたたちを追い出したレンドリックさんの目は正しかったということですね」

「ふん、まぁいいさ。にっくきボンボンは今頃、洞穴の中で死んでらぁ。まぁ万が一、洞穴から生きて帰っても、奴が帰ってくる頃には、俺たちは村を略奪し尽くして、トンズラしてるってわけだ!呆然とするあいつを想像すると、そっちのほうが面白れぇかもな」

「私がそんなことさせない」

「ふん、お前も相当使うって聞いているが、あのボンボンほどじゃあるめぇ」


 この男の話しぶりでは、どうやらレンドリックは洞穴を見つけたらしい。それは朗報だ。


 ならば尚のこと、この村を守らなければならない。洞穴を破壊して帰ってくるレンドリックをがっかりさせたくない。


「お前ら、こいつはうまくあしらいながら村を探れ!」


 賊数人が駆け出す。その前にもすでに何人か村中に散っているようだ。村人たちの避難は終わっただろうか。どこから守るかしばし迷う。まずは賊の頭をやるか。


 しかし、自らの周囲を三十人以上に囲ませている。相手の腕がわからないため、排除にどれだけ時間がかかるか読めない。


 優先すべきは、村人たちの命。緊急時の対応は、レンドリックとそう決めていた。無事に避難が済んだか確認するため、レンドリックの家へ向かうことにする。


「ぐぇっ」


 途中にいる賊はすべて斬っていく。それなりに腕に覚えのある者たちだが、強くはない。全員一太刀だ。


 レンドリックの家がある高台の下に着いた。下から見る限り、すでに避難は終っているようだ。上でレイチェルが手をかざし、結界を張っているのが見える。


 結界の前にはすでに数人の賊が来ていた。賊は空中に見えない壁があるかのように拳を叩きつけていた。


「おい、なんだこりゃ!中に入れねぇじゃねぇか!」

「お嬢ちゃん、この結界外してくれ。なぁにお嬢ちゃんは助けてやるから。あんたを連れて行けば、ボスも上機嫌になる」

「ちげえねぇ。ボスはすげぇからな。せいぜい俺たちのところに回ってくるまで無事でいてくれよ」


 男たちは下卑た言葉を、レイチェルに投げかけている。当のレイチェルは無表情で、結界を張り続けていた。


「な、なんだてめ」


 群がっていた数人を、伸び斬りの一太刀で葬る。


「恭之介様!」

「大丈夫ですか」

「え、えぇ、一応。ですが……」

「うちの子がいないんだよ!」


 一人の女性が叫ぶ。今にも外へ駆け出しそうだ。旦那が抱きしめ、止めている。確か、ラテッサという少女の母親だ。


「それにヤクさんも。もしかしたら探しにいったのかもしれません」

「……そうですか」

「すみません、しっかり確認できず」

「何を言っているんですか。レイチェルさんは自分がやるべきことをちゃんとやりました」


 恭之介はやさしくレイチェルの肩に手を置く。


「ここにいないのは、その二人だけですか」

「はい」

「わかりました。あとは私に任せてください」


 恭之介は全力で駆ける。全力疾走などいつぶりだろうか。




お読みいただき、ありがとうございます。

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