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第9話 村の事情と恭之介の決断

本日2話目。


本日2話更新です。

 この村は、レンドリックが流民たちをまとめ上げて作った村だそうだ。


 流民たちは、戦禍や魔物の脅威から逃れる道中に、レンドリックと出会った。振る舞いからは信じがたいが、レンドリック自身も流民とのことである。


 ここは我々が属するウルダン王国と隣国トゥンアンゴ王国という大国の間に位置する国境があいまいな地帯で、更には森深いこともあり、両国の管理がないに等しい。


 それをいいことに、森を切り拓いて、村を作ることにしたのだそうだ。森深いものの、幸い、土壌自体はよく、住むには悪くない場所らしい。 


「だが、うまい話には裏があるわけだ」


 レンドリックは深くため息をつく。


 森深いということは当然、獣たちにとって恵まれた住処で、同時に魔物も多く住み着いている。そのこと自体はレンドリックも想定していた。


「魔物も根本は獣と変わらないからな。人が住み着き、力を示せば、自然とその場所には立ち寄らなくなる」


 通常、魔物を退治し続ければ、自然とその周囲は安全になる。危ない場所に近寄らないようにする本能が働くためだ。だが、魔物は減るどころか、どんどん勢力を増しているらしい。


「ここに来て一年をとうに越えたが、魔物は一向に減らない。それどころか個体の力は増し、しまいには村を積極的に狙うようになって、僕も村を離れることができなくなってしまったのだ。以前は時折、町へ行くことができたのだがな」


 レンドリックとレイチェルの働きもあって、これまで村に大きな被害は出ていないし、まだまだ余裕もあるそうだ。だが、常に魔物に襲われている状態が続いていては、身も心も疲弊するだろう。


「今では、僕たちが村に張り付かなれければならないため、町に行くこともできない」


 一番近くの町まで、大人の足でも一日かかるらしい。当然、町への道中は魔物に襲われる危険があるため、レンドリックが護衛につかなければならないが、今の状況ではそれができない。


「不幸中の幸いなのは、魔物が頻繁に現れるため、食料はなんとなかなっているということだな。魔物は手ごわい反面、美味いものも多いのだ。このヘルゲートボアも美味いだろう。流人だった頃と比べれば、食料もあって、住むところもある。まぁこれだけ見れば、そこそこ幸せとも言える」 

「そうですね。不安はありますが、今は魔物への対応もうまくできていますし、魔物の被害で亡くなった方もいません。それに、ここで生まれた子どももいるんですよ」


 二人に気負った様子はなく、本心から言っているようだ。心も強いものを持っている。


「魔物が減らない理由はわかっているんですか?」

「おそらく、この付近に魔物の洞穴があるのだろうな」

「まもののほらあな」


 このところ新しい情報が多すぎて、子どもように繰り返して言うのが癖になってしまっている。 


「あぁ、魔物たちを生み出す穴のようなものだ。そこから新たな魔物が生まれてくる」

「魔物が尽きることはないのですか?」

「自然に尽きることはない。洞穴の内部にある核を壊さない限り、魔物は生まれ続ける」

「核は壊せないのですか」

「壊せる。だが、そのためには、まず洞穴を見つけ、その洞穴内で核を守っている魔物を倒さなければならない」

「核を守っている魔物は強いんですか?」

「ここの洞穴にどんなやつがいるかわからないが、これまで各地の洞穴で報告があった魔物の平均レベルだとしたら、僕ならそれほど苦労せずに倒せるはずだ」


 彼ほどの手練れが言うことである。過信でもないのだろう。


「だが、今の状況では、そもそも洞穴の探索に出ることができない。僕が村から離れられないからな」

「そんなに頻繁に魔物が襲ってくるんですか」

「ここに村を作ったばかりの時は、それほどでもなかった。たとえ村へ来ても弱い魔物ばかりだったから、僕じゃなくても対応できた。しかし、僕たちがここに定着し、魔物を倒し続けたことで、洞穴が生み出す魔物の量と質が上がってきている。魔物が定期的に減ることで、洞穴の自助作用が働いたのだと思う」

「洞穴が自らを守るためということですか」

「あぁ、たかが洞穴のくせに意志のようなものがあるのだ。もっと早く洞穴がある可能性に気づいていれば良かったのだが」


 レンドリックは、悔しそうな表情を隠そうともしない。よほどの痛恨事なのだろう。


 しかし、無理もないように思える。何の力も持たない弱った流人たちを守るため、おそらく一刻も早く、村としての体裁を整えなければならなかったのだろう。


 彼は後悔しているようだが、周囲の情報収集に漏れが出てしまったのも仕方がないと思う。


 だが、同時に彼の後悔もわかる。尽きることのない魔物に襲われ続けるこの村は、いわば鳥籠の中である。


「今日、この村の近くにヘルゲートボアが現れたのも、その一端だろう」

「あの猪は珍しいのですか?」

「あぁ、こんな近くに現れたことはない。一度、森の奥に入った時に遭遇しただけだ。通常、人の住処の近くに現れたらそれだけで大事になる強力な魔物だ」

「強い魔物がどんどん生まれて、村に近づいているということですね」

「あぁ、まだしばらくは問題ないが、洞穴を見つけない限り、このままではじり貧だ。ヘルゲートボアレベルの敵が大量に押し寄せてきては、さすがに村も無傷ではいられない」


 村の周囲には頑丈な木の柵が作られていたが、あの猪には通用しないだろう。柵を破って中に入ってくれば、当然畑や家が荒らされる。


「まぁ、畑も家もまた作れば良いから、それは最悪構わない。大事なのは人だよ。そのために、この館もいざというときは、砦になるように作ってある」


 言われてみれば、高台にあり、攻め口は登ってきた道一つしかない。守りやすそうな地形であった。


 

 その時、けたたましい鐘の音が鳴った。何事かと顔を上げると、レンドリックとレイチェルが素早く立ち上がり、外へ向かって駆け出した。恭之介も急いで追いかける。


「何事ですか」

「魔物の襲撃です。あの鐘の鳴らし方ならば、柵で食い止められているはずです」


 レイチェルが説明してくれる。鐘の鳴らし方にも取り決めがあるようだ。


「緊急時は連打だ」


 レンドリックが前を向いたまま言う。


「レンドリック様、魔物はあっちです」 


 レンドリックを見つけた村人たちが、魔物が現れた方向を教えてくる。


「魔豹が五匹か。それならば僕一人で十分だ。レイチェルは魔力を使うな」

「……わかりました」


 柵にたどり着くと、大型の猫のような魔物がいた。見るからに俊敏そうだ。


 柵の隙間から筋肉が盛り上がった腕を、中の村人に振るっている。村人たちも槍で応戦しているが、効果的な一手にはなっていない。


 レンドリックが拳を握り、力を込めたあと、親指を上に向け、人差し指を敵の方に向けた。


「ファイアバレット!」


 指から火の玉が出た。火の玉は柵の隙間を通り、魔豹の顔に直撃した。


「ギャワッ!」


 ひるんだ豹は後退し、地べたを転げまわる。


「僕は柵の向こう側に出る!念のため、お前たちは柵から少し離れろ」


「わかりました」


 槍を持った村人たちが、柵から下がる。


「レンドリック殿、助太刀します」

「……助かる!では、僕の腕をしっかりつかんでくれ」


 理由はわからないが、言われた通りにする。


 レンドリックの両足が火に包まれる。驚いたが、その火炎を勢いにして宙を飛ぶらしい。


「飛ぶぞ」


 レンドリックとその腕をつかんでいた恭之介は、人の背より高い柵を軽々と飛び越した。魔法とは便利なものだ。


 着地と同時に刀を抜く。


 レンドリックは、火の玉が当たり熱さで転げまわっていた一匹に向け、手のひらを向けた。


「ファイアキャノン!」

 

 手の平から大きな火炎が飛び出し、魔豹を襲う。全身を炎で包まれた魔豹はわずかに暴れたあと、黒焦げになって動かなくなった。

「あそこまで焼いてしまうと食べるところは少なくなってしまうし、当然毛皮も取れない」

 

 苦笑しながらこちらを向く。


「では、なるべく私が倒しましょう」

「はっはっは!催促したみたいで、すまんな」

「いえ、経験になります」

「そうか。魔豹は魔法は使わん。その代わり、魔力を自らの力に変換する。速さに気をつけろ。危なかったら呼んでくれ」

「わかりました」


 二匹の魔豹が頭を下げた。恭之介は後ろ足に注目し、そこに力がかかるのを待つ。


 後ろ足が脈動した瞬間、二匹は同時に飛び掛かってきた。速いが目視できる程度だ。


 恭之介は後ろに飛びながら、下から斜めに刀を振るう。ほとんど手ごたえはなかったが、一匹の首を斬った。


 それを見て警戒したのか、もう一匹は着地した直後に、すぐさま後ろに飛び退いたが、恭之介はそれに合わせるように前に駆け、そのまま追い討つ。


 レンドリックの方を見ると、火を目くらましに使いながら、二匹をうまく翻弄していた。倒すことなど造作もないのだろうが、恭之介に倒させようとしているのだ。


 二匹の魔豹は完全に翻弄され、隙だらけだ。恭之介は毛皮の傷を少しでも減らすため、首下を斬る。そんなことを考えられるほどの余裕があった。


「いや、見事!余裕だったな!」

「レンドリック殿こそ。私がいなくても全く問題ありませんでしたね」

「だが、僕だけではこんなにきれいな状態の肉と毛皮を手に入れらなかった」


 満足げに恭之介が倒した四匹の魔豹を眺めていた。


「試すようなことをしてすまなかったな。実際に君の戦い方を見てみたかったのだよ」

「いえ、構いませんよ。戦いに身を置く者たちは、腕の立つ相手がどのくらい強いか気になるものです」

「そういうものか」

「えぇ、ですからいつかレンドリック殿が本気で戦うところを見てみたいです」

「僕はあまり本気で戦わないようにしているのだ。疲れてしまうからな」


 レンドリックが不敵に口元を上げる。

 柵の中に戻ると村人たちが、歓声を上げながら近づいてくる。


「恭之介さんって言ったっけ?あんたすごいわね!」

「いえ、そんな」

「謙虚な男だね。その上、顔もいいし。あたしが独り身だったらほっとかないわ」

「ちょっと、あんたみたいな女じゃ、たとえ独り身でも振り向いちゃもらえないよ」

「そこはうまくやるわよ。ところでレンドリック様。魔豹の肉は硬いし、全部燻しちゃっていいかしら?」

「あぁ。全部冬越しの食料に回そう」


 レンドリックが解体の指示を出す。


「あいよ。レンドリック様たちは休んでくださいな。さ、男衆!広場まで運んでちょうだい!」

「人使い荒いなぁ」

「なに?こんなか弱いあたしたちに運ばせようっていうの?」

「か弱いねぇ……」

「なによ!」

「よし、みんな頼むぞ。さて、と」


 レンドリックがこちらを向く。


「この村は常にこんな感じだ。魔物がいつ来るかわからん」

 

 しかし、常に魔物に脅かされている環境にも関わらず、みな総じて明るい。そして軽口をたたきながらも、てきぱきと各々の作業をこなす。

 

 この村がどんな村か、語らずとも彼らの振る舞いが示している。


「いい村です」

「何?」

「ここは、いい村だと思います」

「魔物がひっきりなしに来る村だぞ」

「それでもです」

「…………そうだな、私もそう思う」

「はい。こんなところなら、ぜひ住んでみたいです」

「そうか、そう言ってくれるか」

「放浪癖があるので、いつか旅に出てしまうかもしれませんが……そんな人間でも良ければ、私をここにおいてくれませんか」


 恭之介は、この新しい世界に一つ居場所を見つけた気がした。

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