日常2(王都でのデート?)挿絵あり
ナヴァル家に着きましたが、外が騒がしいです。マリアが扉から離れるようにと私を背中で隠して、スカートの下から二つの剣を取り出しました。
なんですか!屋敷が何者かに襲われているのですか?
ミシッと馬車が軋みます。何が起こっているのでしょう。
「駄犬!待ちなさい」
セーラの叫び声が聞こえます。デジャヴュです。
クストが帰って来たのですか。私が居ないからといって馬車を襲撃するのはやめて欲しいです。
バキッという音が馬車の内側に響き、馬車の扉が外されました。馬車を壊すのはダメです。
「ユーフィア!!」
「この狼藉者が!!」
クストの声が聞こえたかと思えば、マリアが両手に剣を持ってクストに向かって行きました。
「この駄犬が!ユーフィア様を不安にさせるなど言語道断!このマリアが成敗してやる!」
「マリアさん!頑張ってください!」
セーラ。マリアを煽らないであげて。
マリアの剣がクストの首を狙いますが、クストは体を傾け剣を避けています。
クストが腰に佩いている剣を抜き、別の方向から向かってくる剣を受け止めています。
「おい!俺が居ない間にどこに行っていた!直ぐに終わらすと言っていただろう!」
受け止められた剣を軸にマリアは体を捻り蹴りをクストにくらわします。この動きは流石狼獣人ということでしょうか?
「奥様の仕事を邪魔をする駄犬に文句をいう資格はない!」
クストはマリアの蹴りを片腕で往なし、剣を引きマリアの喉笛に向かって突きを放ちます。
「デートする資格は俺にはある!」
え?それは今日でなくてもいいことですよね。
「奥様。お手をどうぞ」
馬車の御者をしてくれているウルが手を差し出してくれています。
「今のうちに屋敷に入りましょう!」
セーラも馬車の側に来たようです。でも、あの二人が暴れているのですよ。
じゃれているだけだから大丈夫?
アレがじゃれているだなんて、流石獣人ということなのでしょう。私はセーラに促され、屋敷の中に入って行きましたが、外では今も剣がぶつかる音が響いています。
クストの襲撃対策もいい加減考えなければなりませんね。本当に馬車を武装させましょうか。
そんな事を考えて屋敷の中を進んでいると、突然窓ガラスが割れて、何かが目の前に転がり込んできました。
「ユーフィア!デートをするって約束をしたよな!」
窓ガラスを蹴破って入って来たのはクストでした。そんなに嬉しそうに尻尾を振られてもガラスの粉が沢山ついていますよ。痛くないのでしょうか?
「駄犬!窓は出入り口ではありませんと何度言えばいいのですか!」
そういうマリアもガラスが砕けた窓枠に足がかかっていますよ。
「クスト。ガラスが付いていますので払って来てください。それからきちんと今日のことはルジオーネさんに謝ってくださ····」
私の言葉を最後まで聞かずにクストは『着替えてくる』と言って去っていきました。本当に後でルジオーネさんに謝っておかないといけません。
✦
私は地図を見ながら、道を歩いています。その横にはニコニコとしたクストが歩いています。そして、何故か周りには人の姿が見られません。どういうことでしょうか?
今はお昼を過ぎた頃だといいますのに人っ子一人居ないだなんておかしいです。
「クスト。何をしたのですか?」
「ユーフィア、何処に行きたい?」
答えではなく質問が返ってきました。後ろを振り向き、マリアに視線を送ります。
すると、マリアは近寄って来て斜め後ろから声をかけてくれました。
「奥様。如何なさいましたでしょうか?」
「人の姿が見当たらないのだけど、どうしたのかと思ったの」
するとマリアは呆れながら答えてくれます。
「そこの駄ケ···旦那様が周りに威圧を放っているからです。普通の人は近づくこともできないでしょう」
なんですって!!
「クスト!威圧をやめてください。街の人の生活を阻害することはダメだと思うわ」
「でも、ユーフィアと一緒にデートを楽しむのなら、邪魔が入らなくていい」
そういうことじゃないのに。私はここの生活している人が、どのようなところに行ったり、どの道を使っているのかとか知りたいの!
駅を作るならどの辺りがいいとか、線路を引くには道の真ん中がいいのか端の方がいいのとかが知りたいの!
「クスト。私は普段の街の姿を知りたいの」
「旦那様。奥様は下々の生活がどのようにしているのか調査に来ているのです。駄犬にとってデートかもしれませんが、奥様にとってはお仕事なのです。邪魔をするなら、師団の詰め所に帰ってくださいませ」
マリア。往来の中で駄犬呼びはいけないと思うわ。
「師団に戻るのは嫌だ。ユーフィアと二人っきりのデートは諦める」
え?二人っきりって他の人がいることがダメなのかしら?
今までも二人っきりではなかったけれど?必ず、マリアかルジオーネさんが付いてきていたけど、それは良かったのかしら?
クストが威圧をやめてくれたのか、徐々に人々の姿を見るようになりました。
その姿にほっとため息が出ました。
立ち止まって人々のその姿を見ます。
教会に入っていく人。
お店に入っていく人。
足早に通り抜ける人。クストが悪さをしてごめんなさい。
そして、止めていた足を動かして歩き始める。
人のざわめき。店に呼び込む声。街に音が戻ってきた。
ふと、記憶が蘇る。
足早に、出来上がった企画をカバンに詰め込んで、会社を出ていき、街の喧騒の中を駆けていき、電車に乗って顧客先へと向かっていく。
とてもとても古い記憶。
もしかして、私ってこんな都会を歩いたのって初めてじゃないかしら?コルバートの領地は辺境で、こんなに賑やかじゃなかった。
炎国は恐ろしいだけだった。
この賑やかな感じは懐かしいような、寂しいような。
「ユーフィア?どうかしたか?」
「何も。何もないですよ。人々の暮らしが豊かになればいいですね。あ、でもクストが街を護っているのなら、何も心配はないですね」
そう、何も心配をすることはない。脳裏にちらつく帝国の影にも怯えることはない。私はここにいるのだから。
✦
数日後
「なぜ、私がここにいなければならないのか、説明していただきたいのですが?」
不機嫌な雰囲気を纏ったルジオーネさんが、クストに向かって説明を求めています。
「デートだ!」
クストは胸を張って言い切ります。
「ですから、なぜ、デート先がダンジョンなのですか!まだ、先日の街の見聞の方が健全でしたよね」
街の見聞···確かに見聞だったかもしれません。クストが途中で飽きてしまって、屋台で食べ物を買ってきたり、武器屋に入って行ってしまったり、物取り騒動があったと聞けば駆け出していったり···あ、これはお仕事ですね。
取り調べをすると言って途中からクストが居なくなったので、私とマリアで順調に東地区と北地区を調べることはできました。西地区と南地区は時間が足りず後日となってしまいましたが、大まかな調査はすることはできました。
「ルジオーネさん。ごめんなさい。私がダンジョン産の石材が欲しいと言ったばかりに」
そう、私は彼女に教えてもらった西の森のダンジョンに来ているのです。泉の岩盤ということは、泉の主を倒さないといけないということなのです。ですから、クストはルジオーネさんについて来てもらったのでしょう。
「お詫びにと言ってはなんですが、これをお納めください」
そう言って私はルジオーネさんに手の平サイズの箱を渡します。
受け取った箱を開けたルジオーネさんが不思議そうな顔をしています。箱から取り出された物は手の平サイズの黒い石版です。
「これは?」
「メモ帳と言えばいいでしょうか?」
先日、ルジオーネさんがクストの急な予定変更にメモ帳に何を書いていましたので、きっと隊員の業務変更などを記していたのだと思ったのです。こう何度も何度もクストが迷惑をかける度に、ルジオーネさんにご迷惑を掛けていますので、その管理が少しでも楽になればと思ったのです。
「ここの小さな魔石を押し込むと画面が立ち上がります」
そう言って黒い石版の横にある突起のような魔石を押し込むとカチッと魔石がハマり、画面が明るくなりました。
「これが専用のペンになります。このペンで『メモ』というアプリっじゃなくって、ところを触るとメモができるようになります」
「キューン」
「『表』を触ると表が作れるようになります」
「キューン」
····
「もう少し、使い勝手がいいと思うのであれば、入力専用のキーボードというものもおつけします。詳しくは箱の底にある説明書を読んでいただければ」
「キューーーン」
「クスト、うるさいです」
私の説明を聞きながら、画面をガン見していたルジオーネさんは画面のある部分を差しながら聞いてきました。
「この数字はなんですか?」
画面の上の左端にある数字のことです。
「時間です」
デジタル表記の時計を内蔵してみました。スマホと言えればいいのですが、メモ機能と表機能と時計しかありませんので、デジタルのメモ帳という位置づけでしょうか。
「凄いですね。しかし、使いこなすには時間がかかりそうですね」
最初はそのようなものです。
「わからない事があれば、聞いてもらってかまいません。終わるときは魔石を再度押すと元の状態に戻ります。クスト、地面を寝床にしないでください」
地面に横たわっているクストを注意します。本当にこんなことで、いじけないでください。
「行きますよ」
そう言って、私はスクーターを取り出して、乗り込み出力全開で森の中を疾走します。
「ユーフィア!待ってくれ!」
後方から聞こえるクストの声を無視をして、突撃銃を取り出し前方に立ちふさがる魔物に標準を合わせて引き金を引きます。
何度か来ているダンジョンなので、慣れたものです。ダンジョンの最深部を目指さすに南に進路を変えます。それはもちろんダンジョンの南に泉があるからです。
前方にいる魔物だけを倒していると、泉の端が見えてきました。銃をしまって、一つの武器を取り出します。
今回のために作ったものです。
戦鎚
今回作った物は柄の先を平らにした片口ともう片方は円錐状にした形状にしました。これは勿論、岩盤をから石を採掘するためです。
それに地属性の魔石を鎚の部分に練り込み、強度を高めてみました。
泉からここの主である水龍が姿を現しました。スクーターの勢いは全開のまま、水龍に突っ込んで行きます。後ろでクストが何かを言っていますが、聞こえません。
戦鎚を思いっきり水龍に向かって振るいます。頭部に直撃です。
これで主を倒したら、採取です!
水龍が倒れていこうとしているときに、戦鎚から衝撃がほとばしります。崩れ去る水龍がバラバラに朽ちていき、水面から波が立ちのぼり、地面にヒビが入って行きます。
これは何が起こったのでしょう。
泉の水が引いていき、底にある白い岩盤が顕になりました。かなりヒビが入っていますが、結果オーライでしょう。
「ユーフィア!無事か!」
クストがやっと追いついてきました。その隣で、ルジオーネさんがため息を吐きながら『やはり必要無かったですよね』なんて言っていますが、石の採取は手伝ってくださいよ。
こんな感じで私の日常が過ぎて行くのでした。
もの凄い破壊力のあるウォーハンマー(笑)




