21話 こんなのが主でいいのか?
翌日の朝、青くの晴れ渡る少し肌寒い空気の中、港にやってきました。湾内の海は穏やかに波打っています。無事には出港できそうです。
昨日言われたとおりに3刻の4半刻前に港に来ましたが、どうすればいいのでしょう。多分、あの100メルあるかないかぐらいの大きさの船が今回乗る船なのでしょうが、船員らしき人が忙しそうに船を出入りしているので、話掛けるタイミングがつかめません。
「なぁ、あんたたちか?今回船に乗りたいって言ってきたヤツって。」
いきなり後ろから話かけられました。振り返りその人物を見ますと、昨日お話しをしました白い猫獣人の姉弟とよく似た感じの白猫獣人の方ですが、金色の目の目つきが少しキツく、白い髪に黒色が所々混じっていて、細く長い尻尾も白と黒の斑模様になっています。
「キョウ。久しぶりですね。この度はよろしくお願いします。」
マリアがキョウと呼んだ猫獣人の方の方へ一歩前に出て、挨拶をしました。その猫獣人の方はマリアを見て考え様に目を細め
「ああ、マリアか。久しぶり。何がよろしくなんだ?マリアと手合わせはしないぞ。」
「ザックから聞いていますよね。聞いていないとは言わせませんよ。」
「ザック?ザックに何か言われたか?言われたような言われていないような?」
キョウさんは首を傾げており、心当たりはないようです。ザックさんは言ってくれてなかったのでしょうか?
その言葉を聞いたマリアはフルフルしながら『だからキョウはダメなのよ。』と呟いている声が聞こえてきました。おそらく、ザックさんは説明をしていますがキョウさんは覚えていないということなのでしょう。
「キョウ、話は後でしますから、船の中に案内してくれますか?」
「ああ、いいぞ。昨日突然、出港前に客が乗るって連絡が来て、みんなバタバタだったからな。ちゃんと用意してくれているだろう。」
う・・・。確かに昨日、突然訪ねまして船に乗せてもらうようにお願いをしましたので、ご迷惑をお掛けしています。
「痛っ!マリア!すぐに暴力で訴えるクセを止めろ!俺の脳細胞が死んでいく。」
目線をマリアとキョウさんの方に戻しますと、マリアがキョウさんの頭を叩いたようで、キョウさんは頭を抱えていました。
しかし、昨日から気になっていたのですが
「マリアは商会のご兄弟と仲がいいのですね。」
「仲がいいだ?んなわけないだろ。フィーディスとガレーネだからだ。」
キョウさんが否定してきましたが、フィーディスとガレーネ?フィーディスは商会の名前ですね。ガレーネとは何のことでしょう?
「何でわかんねぇって顔してんだ?この女。」
「キョウ!奥様です!」
「おい。マリア。こんなのが主でいいのか?お前の名も知らないみたいぞ?」
マリアの名前!
「そこの斑猫。俺のユーフィアがこんなのとはどういうことだぁ?」
クストの低い声が隣から聞こえてきます。
「だってそうだろ?自分の侍女の経歴ぐらい知っているものだろ?それもギランのガレーネって聞いてわからんって顔しているし、よくガレーネを側に置こうと思ったよな。」
「ユーフィアだから問題ない。」
うぇ。私だからってどういうことですか?それにしてもガレーネがマリアの名前ってことはそんなこと誰も教えてくれませんでしたよ。もしかして、これも常識?
「あ、あのガレーネってマリアの姓なのですか?これも常識なのですか?それで商会とマリアは何か繋がりがあるのですか?」
「マリア。お前の主は大丈夫か?」
「斑猫!ユーフィアをバカにするな。殺すぞ。」
「あ゛?ヤれるものならヤってみろ!」
はっ。なぜだか険悪な空気になってきました。
「痛っ!」
「ギャ。」
クストとキョウさんが喧嘩を始めようとしていたところに、マリアがキョウさんの頭にチョップをかまし、セーラがクストに回し蹴りをして事なきを得ました。
「奥様に常識を求めてなどおりません。奥様は存在そのものが尊いのです。」
やはり常識なのですか。
マリア、尊いなどそれは言いすぎです。それは現神人に使うような言葉ではないのですか?
「駄犬、英雄の子孫に喧嘩を売るなんて、ギランと戦争をしたいのですか?死にたいのですか?」
セーラが倒れたクストを足蹴にしながら言っておりますが、英雄の子孫?キョウさんが?
「セーラ。英雄の子孫ってどういうことですか?あの壁画に猫獣人の方は描かれていませんでしたよ。」
私の質問に答えてくれたのは、セーラではなく涙目で頭を押さえているキョウさんでした。
「壁画?ああ、シーランの転移門がある教会のあのおかしな壁画のことか?」
おかしな壁画?
「まぁ。人から話を聞いて描いたんだろうな。あの嘘の絵。」
「嘘の絵とはどういうことなのでしょう。」
「英雄は5人だ。龍人のアマツ。うさぎ獣人のグアトール。豹獣人のグラシアール。狼獣人のガレーネ。そして、俺達の祖である猫獣人のフィーディスだ。」
 




