15話 番がいればそれが一番だろ
転移門の部屋から外にでますと、そこは教会ではなく、何かの施設の建物の一部屋から出てきました。人々が忙しそうに行き交っている事はわかりましたが、マリアがさっさと先に歩いて行ってしまうので、そのまま外に出ていきました。
外に出るとそこは何故か見覚えがあるような無いような景色が広がてました。
石畳の道に整然と規格があるかのように作られた石造りの建物が道沿いに並び、そこに人々が行き交っています。美しい街並みです。でも、なんでしょう?何処で見た街なのでしょう?心のどこかでモヤモヤします。
少し空間が空いたところでマリアが立ち止まり、マリアの鞄から魔道馬車を取り出し、その横でセーラが召喚魔術を使っています。
馬車を引く騎獣の召喚です。契約した騎獣は召喚することができ、いつでもどこでも騎獣に乗ることができるのです。
マリアとセーラが馬車の準備をしてくれましたので、私とクストとセーラが馬車に乗り込み、御者席はマリアが座りました。
ガタンっという振動と共に馬車が動き出します。流石に街の中で浮かすと迷惑になりますから、この魔道馬車も通常の馬車と同じ様に走行できるようになっています。
クストの膝の上に座りながら、窓の外の街並みを眺めていますが、やはりモヤモヤとします。道幅が広く街路樹が景色と共に後ろに流れていきます。その街路樹の奥には建物が整然と連なっています。あっ。他の道と合流しました。ここに凱旋門でもあればパリみたい・・・パリ!
ははは。そんなまさかね。異世界に来てパリだなんて、気のせいね。きっと。
こんな事を思っていますと、馬車が停まりました。
「傭兵団に到着しました。」
外からマリアの声が聞こえ、馬車の扉が開かれます。
傭兵団?なぜ?何か護衛でも頼むのでしょうか?
クストに手を引かれ馬車からおります。街外れまで来たのか、先程の整然とした街並みではなく。3階建ての石造りの建物がポツンとありその周りは木々に覆われていました。建物の奥の方からは、掛け声のような声が聞こえますので、訓練でもしているのでしょう。
「奥様少しお待ちください。中を確認してまいります。」
マリアはそう言って建物の中に消えて行きました。
「クスト。なぜ、傭兵団に来たのですか?何か依頼をするのですか?」
「ん?ユーフィアには言っていなかったか?金狼族の族長は傭兵団の総帥だ。
さっき話した。ギラン共和国を作った黒豹獣人と金狼獣人はその後に自衛団を作って国に縛られることのない組織を作ったんだ。だから、代々の金狼族が自衛団をまとめ上げていたんだが、今の総統閣下がこの戦力を無駄にするなんて不利益だと言って国に取り込んで、現在の傭兵団となったんだ。」
そんなことがあったのですね。金狼族ってすごいですね。何か建物の中が騒がしいです。『糞餓鬼共そこにナオレ!』っというマリアの声が響いた後に、轟音が響き渡っています。
な、何があったのでしょう。その後に建物の玄関扉が開き、マリアが出てきました。
「奥様。中へお入りください。族長がお会いになるそうです。」
え?さっきの轟音のことは無視ですか?何があったのですか?
クストに連れられ建物の中に入っていきます。建物の入り口には右手を左胸に当てた姿で出迎えてくれているここの傭兵の方々が並んでいるのですが、所々できたての傷があったり打ち身があったり・・・マリア、別に出迎えは必要ありませんでしたよ。
建物の二階に連れて行かれ、大きな扉の前でマリアが立ち止まりました。
「お父様、お連れしました。」
「おう。入れ。」
中から男性の声が聞こえ、マリアが扉を開けます。中に入りますと、奥にある長椅子の中央にマリアによく似た金髪金目の金狼獣人の男性がいるのですが、マリアより若く見えます。お父様と呼んでいましたよね。その男性の両脇には同じく金狼獣人の女性が二人いらっしゃいます。
「久しぶりだな。クロードの孫。俺の娘は気に食わなかったのか?」
「お父様!」
マリアが金狼の男性に向かって叫ぶが、その男性はニヤニヤした顔でクストと私を見ています。
「別に気に入る気にいらなじゃなく、俺には番がいるから嫁にはいいって言ったはずだ。それにマリアはユーフィアによく仕えてくれているから助かっている。マリアがナヴァル家に来てくれたことには感謝をしている。」
「くくく。番か羨ましいなぁ。憧れだよなぁ。」
「何人も奥方がいてもそんな事をいうのか?」
何人も奥様が!もしかして、横にいらっしゃるお二人もまさか・・・。
「そりゃそうさ。お前らも番が見つかれば俺なんか捨てて番のところに飛んでいくだろ?」
金狼の男性は両脇にいらっしゃる女性にそう尋ねています。
「「ええ、もちろん。」」
え!番ってそういうものなのですか!
 




