12話 ユーフィアに嫌われた
ナヴァル家の玄関前に転移してきましたが、何か騒がしいです。何があったのでしょう?
何故か、蜥蜴人のウルさんがマリアを後ろから羽交い締めをしています。マリアの正面にはセーラがおり『マリアさんだけ抜け駆けは許されないです。』とか言っています。
「何かありましたか?」
玄関先で騒いでいる人達に尋ねます。皆さん一様に私を見て駆けつけて来ました。
「奥様。お帰りなさいませ。」
ウルに声を掛けられ『ただいま』と返事をします。
「奥様。駄犬が迎えに行けたようでよかったです。」
セーラ。クストは迎えに来てくれたのですか?しかし、どうやってイアール山脈まで来たのでしょう。
「奥様。」
マリアが私の手を握って来ました。
「今度、家出をする時はこのマリアもお連れくださいませ。旦那様に見つからないように完璧に逃亡してみせますから。」
い、家出?私そんなつもりはなかったのですが、逃亡は精神的にも肉体的にも疲れるので、もう懲り懲りです。
「皆に心配を掛けてしまいましたね。少し狩りをしてきただけですので、ごめんなさいね。」
「奥様が謝ることはありません。全てこの駄犬が悪いのですから。」
セーラ。いくら地面に横たわっているからと言って、クストを足蹴にすることはないと思いますよ。
「もう、旦那様にお伺いをせずに試運転をしてしまえばいいのです。準備は全てマリアがしますので。」
クストには一言いうべきだと思いますよ。
「団長は戻って来たようですが、なぜ、地面で項垂れているのですか?」
ルジオーネさんが来てくれたようです。
「駄犬など放置して良いのです。」
「はぁ。今日は休みでしたので、師団の詰め所に連れて行かなくていいと思っていましたら、この騒ぎですか。おかげで、私もあっちこっち走らされましたよ。」
「「申し訳ありませんでした。」」
マリアとセーラ、そして他の家人たちもルジオーネさんに頭を下げています。いつも無理を言って連れて行ってもらっていますのに、今日ぐらいはお仕事に集中したかったですよね。
「ルジオーネさん。ごめんなさい。今日はご迷惑をかけなくて済むと思っていましたけど、このような騒ぎを起こしてしまって本当にごめんなさい。」
「まぁ。団長が悪いということをオーウィルディア様から聞いていますから、大丈夫です。」
え?なぜ見ず知らずのオーウィルディア様と言う人が今日のことを知っているのですか?
クストがオーウィルディア様に転移をしてもらった!ああ、だから遠く離れたイアール山脈までクストが来れたのですね。
『グスッ』
しかし、そのような見ず知らずの人にまでご迷惑をお掛けしてしまったなんて、どうお詫びを言っていいか・・・戦友の顔見知りだから大丈夫?
『グスッ』
いえいえ、それはだめです。Sランクの冒険者!え?そのオーウィルディア様がですか?
『グスッ』
だから、依頼料とて金銭を渡しておいたからいいと・・・本当にごめんなさい。
「クスト、いい加減に起き上がってくださいな。」
「グズっ。ユーフィアに嫌われた。」
「私、そんな事を言っていませんよ。」
「邪魔をした俺が嫌いだって、グズっ。」
ああ、そこを勘違いしたのですか。
「邪魔をしたら嫌いになりますよと言ったのです。だから、嫌いではありません。」
「ユーフィア!」
起き上がってきたクストに抱きつかれました。
「クスト。ルジオーネさんとご迷惑をかけたオーウィルディア様に謝ってくださいね。」
「何でだ?ウィルにはお礼を言ったから大丈夫だ。」
大丈夫じゃありません。
「まず、ルジオーネさんに謝ってください。」
「ルジオーネ、悪かった?」
それ謝ってないです。
「はぁ。何が悪いのか分かっていない人に謝られても困りますね。西第一層門に詰めている者から連絡を受けて慌てて何があったのか調べたら、ただの喧嘩じゃないですか。問題児が馬鹿らしいと言っていました。」
問題児?あの少女も知っているのですか!
「休みの日ぐらい迷惑を掛けないでもらいたいですね。」
「ああ、悪かった。ウィルには酒でも贈っておく。」
クストはそう言って私を連れて屋敷に入って行きました。今回の事で色んな人に迷惑を掛けてしまったようです。
せめて、マリアには狩りに行ってきますと言うべきでした。そうすれば、見ず知らずのオーウィルディア様や仕事に専念しているルジオーネさんにご迷惑をお掛けすることはなかったと思います。
しかし、なぜあの少女にまで今回の事が耳に入ったのでしょう。




