10話 強い人族と言えば・・・勇者だろ!
クストside2
「で、何があったのかしら?」
そうウィルに聞かれ、今日あった事を話した。すると、ウィルはウンウンと頷いており、シェリーの嬢ちゃんは『はぁ。』とため息を吐いている。
何が悪いんだ!
「クストの言い分もわかるけど、奥方はあのコルバートの魔女でしょ?彼女は魔道具を作るために生まれて来たと言ってもいいほどの天才でしょ?
コルバート領に行ったことあるけど、領民からよく聞いた話が、自分で作った魔道具を持って性能確認の為にイアール山脈を駆け回っていたという話よ。
自分で納得できる魔道具を作る為には必要なことじゃないのかしら?」
ウィルにそう指摘され、俺はユーフィアの事を全く考えていないことに気付かされた。
「俺、ユーフィアに謝ってくる!」
そう言って立ち上がったが
「何処に探しに行くつもりですか?」
シェリーの嬢ちゃんに言われ、頭を抱える。そうだった。ユーフィアが何処にいるかさっぱりわからない。
「交換条件で探して上げてもいいですよ。」
そんな事をシェリーの嬢ちゃんに言われた。ユーフィアが何処に居るかがわかるのであれば、魔王にだって尻尾を振ってやる。
「何だ!何が交換条件だ!」
「討伐戦の生き残りで強い人族の騎士と言えば誰ですか?」
何だ?その質問は・・・強い人族と言えば
「テメーの父親・・グッフ。」
思いっきり腹を殴ってきやがった。
「誰がクソ勇者の事を言いましたか?わたしは騎士と言ったのです。あれが騎士ですか?糞虫以下の存在です。」
そこまで、酷くはないと思うが、騎士か
「フォルスミス元統括副・・・うっ。」
胸ぐらを掴んで揺するな。
「誰がキングコングの事を聞きました?人族の騎士はいないのですか?」
人族の生き残りなんてほどんど居ないぞ、いるとすれば・・・。
「ライターか。」
「氏名をフルネームで言ってください。」
「ライターリエーレ・ヴァーリシクだ。」
「ありがとうございます。」
そう言って、解放された。毎回思うのだが、この嬢ちゃんは本当に人族か?
「ああ、ライターね。確か本隊の勇者の補佐に付いていた人族よね。彼、グローリア出身だったけど、あの悪災を乗り越えていればって話よね。」
「生きてはいるようです。今はギラン共和国ですか。」
ん?ライターが今何処にいるかわかるのか?
「そう言えば、グリードに一度寄って行くのでしょ?」
「ええ、大公閣下に会う必要ができましたので、面倒ですが伺いますよ。」
嬢ちゃんとウィルが別の話をしだした。ユーフィアはどこだ!早く調べろ!
「で、ユーフィアは何処にいる。」
「ユーフィアさんですか・・・今はイアール山脈を爆走中ってところですか。」
爆走中?何だそれは。
「多分、気がすんだら戻ってきますよ。」
「多分って何だ多分って!今からイアール山脈に行ってくる!」
「4千メル級の山々が聳え立つイアール山脈の何処に行くのですか?師団長さんが遭難者になりますよ。」
「ウッ。」
俺が遭難者になるのか?いや、大丈夫なはず!
「ウィルおじさんは色んなところに行ったんだよね。」
ルークがウィルに話しかけているが俺はそれどころじゃない。
「おねぇちゃんの言っている近くに転移できないのかな?」
「あら?いい子ね。こんな馬鹿なおじさんの心配をしてあげているの?」
馬鹿って。ウィル、俺は馬鹿じゃない。
「だって、けんかしたら仲直りしないとダメなんだよ。」
「ルーちゃん。なんていい子なの!師団長さんは自業自得だからいいのよ。ツガイがウザ過ぎて息抜きに狩りに行っているだけでしょうから。」
嬢ちゃん。俺はウザくない・・・はず。
「シェリーちゃん、今、コルバートの魔女は何処にいるのかしら?」
「え?コレを連れて行くのですか?」
「だって、ここでウジウジされても嫌でしょ?」
「はぁ。そうですね。」
お前ら俺に対して酷くないか?
「しだんちょーさん良かったね。」
そう言ってくれるルークが天使に見えて来る。頭を撫でてやるとニコリと微笑を返された。あれ?今思えば、ヴァリーとミュゼルの頭を撫でた事ってあったか?無かったような気がする。
「クスト。どうやら、マルス帝国との国境の山道沿いにいるみたいだから、近くまでなら転移でいけるわ。」
「ウィル、本当か!」
俺はウィルに近づき
「早く連れて行ってくれ!」
「落ち着きなさいな。本当にナオフミもそうだけど、あの嵐牙の青狼と言われたクストがねぇ。番を持つとこうも人が変わるなんて、番の威力は凄いわね。」
その名は嫌だから呼ばないで欲しい。特にユーフィアには知られたくない。
「それじゃ行くわよ。『転移』」




