9話 ユーフィアが消えた!
クストside1
ユーフィアを怒らせてしまった。どうしよう。しかし、空を飛ぶ馬車にユーフィアを乗せるわけにはいかなかった。
別にユーフィアの魔道具を信用していないわけじゃない。しかし、万が一何かあっては遅いのだ。
マリアが部屋に入ってきた。しかし、その顔は何かを決意したように思われた。
「旦那様。本日を持って辞めさせていただきたいです。」
「は?」
マリアは何を言っているんだ?
「マリア、いきなりどうした?」
「奥様が転移で消えて居なくなりましたので、後を追うことにいたしました。」
え!ユーフィアが転移で消えた!俺はマリアに詰め寄り
「どういうことだ!ユーフィアが転移で居なくなった?」
番の気配を探るが全く感じない。どういう事だ!感知範囲外にいる?
「旦那様が悪いのです。奥様は物作りの為に旦那様と結婚したと言っていいのに、それを駄目だと言う言葉で片付けてしまったから、奥様に捨てられたのです。」
そう言ってマリアは部屋を出ていった。ユーフィアが俺を捨てた?馬車の御者をするのは駄目だと言っただけで?
ユーフィアが転移で行けるところは何処だ?帝国か?いやそれはないだろう。国内で・・・西の大森林か?北のダンジョンか?ラースの嬢ちゃんのところ?
「誰かいるか?」
「お呼びでしょうか?駄犬。」
セーラが部屋に入って来たが、最近、駄犬呼びが多くなってきていないか?
「シェリー・カークスの家は何処にある?」
「西地区第二層の4区7地ですが?」
4区だと?貴族街に家があるのか。直ぐ様、後ろの窓から外に飛び出す。
「駄犬!ルジオーネ様に連絡をいれときますから。」
セーラの声を背中で聞きながら、西地区を目指す。
西第一層門を通り抜けたときに部下が何か声を掛けて来たが、それどころじゃない。
4区は貴族街の中央にあり、大きな屋敷が建ち並ぶ区画になる。そんなところにラースの嬢ちゃんが住んでいたなんて、いや、ルジオーネは把握していただろうな。
4区の7番目の屋敷の前に来たが、思っていたとおり、貴族の屋敷の構えだった。門から庭を通り抜け、両開きの扉を叩く。中から『はーい。』と言う声が聞こえたが、この声はまさか!
中から扉を開けた人物はピンクの短髪にピンクの目、筋肉隆々の大男が中から出てきた。
「あら?クストじゃない?どうしたの?」
「ウィル。なぜ、この屋敷にいる。」
そう、先日ラースの嬢ちゃんと乱闘騒ぎを起こし、俺が現場に駆けつけた時には影も形も無かったオーウィルディアだ。その人物がなぜラースの嬢ちゃんの屋敷にいるんだ。
「え?だってー。姪っ子と甥っ子じゃない?」
そうだった。こいつら親族だった。危険人物としか頭に無かった。
「嬢ちゃんはいるか?」
「居ますが?」
「おぅ!」
いつの間にはウィルの横に立っていた。
「ユーフィアは来ていないか?転移で居なくなってしまったんだ。」
「来ていませんが、ウザすぎて捨てられましたか?」
「捨てられた・・・俺、ユーフィアに捨てられたのか?」
「その話、面白そうね。中に入って聞かせてくれない?」
ウィル、人の不幸を面白そうで片付けないでくれ。
「ユーフィアを探すからそんな暇はない。」
俺は別のところに探しに行こうと踵を返せば
「転移で消えた人物を探すなんて無理じゃない?竜人族の番じゃあるまいし。」
ウィルにそう指摘され、膝から崩れ落ちる。確かに、竜人族であれば、この世界の何処にいようとも番の場所がわかると聞いたことがある。しかし、俺は狼獣人だ。国一つ分ぐらいの範囲でしか番を感知することができない。
「シェリーちゃん。クストにお茶を入れてあげて。」
「ちっ。面倒くさい。」
俺はウィルに担がれ屋敷の中に連れて行かれた。ユーフィアを早く探さないといけないのに。
俺はソファに座らされ、お茶を出された。目の前にはワクワク感を醸し出したウィルに、俺の横にはキラキラしたピンクの目に煌めく金髪のあの討伐戦でよく見た男に似た幼女・・・いやルークがいる。
「しだんちょーさんが家にくるなんて、どうしたの?」
「奥様に逃げられたのよ。ルーちゃん、女の子には優しくしないと、このおじさんみたいになるから、気をつけるのよ。」
嬢ちゃん!煩いぞ!それにユーフィアに逃げられてはいない・・・はずだ。
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補足
クストの番感知できる範囲はシーラン王国内なら居場所の特定までできるのですが、そこから外れると方向性の特定はできるのです。しかし、クストは番からの拒否反応とマリアのユーフィアに捨てられた発言でパニックになっており、見当違いのシェリー・カークスのところに行ってしまいました。
おバカですね。




