7話 英雄10人の1人?
5日掛けて馬車に施す陣が完成しました。ええ、本当なら3日で出来たと思うのですが、あの後、罠に掛かったクストを助け、師団に行ってもらおうとすれば、休暇の申請が通ったと言われました。もしかして、そのために戻って来たのですか?
直ぐに息を切らせたルジオーネさんと数人の第6師団の方が来られまして、クストを連行して行ってくれました。はぁ。休暇の申請が通った報告なら、仕事が終わってからでも問題ないと思います。
その翌日も、旅行に行けることに浮かれているのか、炎国の旅行資料を持ってきて仕事に行くことを拒否り、ギラン共和国の旅行資料を持ってきては工房に居座り、私の作業が滞り、流石にこれは駄目だと思いましたので、私はクストに言いました。
「これ以上、作業邪魔をするのでしたら、4日後の休暇デートはキャンセルして、私の作業時間に当てますよ。それから、ギラン共和国は経由地なので観光はしません。」
と。
「デートが無くなるは駄目だ。わ、わかった。邪魔はしない。」
そう言って、耳をタレ下げ、背中を丸めて工房を出ていきました。これで集中して作業に没頭できます。
出来上がった陣を馬車に見立てた衣装箱に付与をしてみると、浮くのは浮きましたが、自走機能も付けたため、回転をする箱が出来上がってしまいました。失敗です。
次に上下四箇所と左右2箇所に回転抑制の陣を付けてみたのです。イメージ的には、宇宙空間での姿勢制御スラスタのような感じですかね。
浮きながら真っ直ぐに進むことに成功しましたが、魔石の消費が激しいものになってしまいました。これでは一般的に運用は難しいでしょう。
・・・。マリア。廊下からキューンキューン聞こえているのですが、なんですか?クストですか?仕事に行ったのではないのですか?出て行ってから扉の前に居座っていると。
ルジオーネさんに迎えに来てもらえないのですか?今忙しくて手が離せない・・・そうですか。
私が席を立とうとするのをマリアに止められ、マリアはセーラに廊下に出るように言っています。廊下に出たセーラの声が響いているのですが『この駄犬いつまでウジウジしているのです。さっさと師団に戻りなさ。戻らないと言うのなら王族の権限を施行しますよ。』と言っておりますが、セーラ、王族の権限を仕えている当主に使うのは間違っていると思います。
仕方がないので、廊下にでます。
「クスト、お仕事に行かなくてもいいのですか?ルジオーネさんが手が離せないと言っているようですが。」
「俺が居なくても大丈夫だ!」
そんなに自信満々に言われたら、余計に心配になってきます。大抵クストが仕事に行かなくても大丈夫と言って、ルジオーネさんに否定されているではないですか。
「師団長。大丈夫じゃないっすよ。」
声がした方を見ますと第6師団の蛇人の方が立っていました。
「ラースの嬢ちゃんが暴れて手が付けられないっす。師団長、仕事に戻ってくださいよー。」
「あ゛?今度はなんだ。」
「オーウィルディア様と街中で喧嘩を始めたっす。」
オーウィルディア様?聞いたことのない名前です。
「は?何でオーウィルディアがメイルーンにいるんだ!」
「今は気ままに冒険者をしているらしいっすからフラリと来たんじゃないっすか?」
「ヤバイ。本気でヤバイ!厳戒態勢だ!街の中で魔眼を使われたら被害が甚大だ!ユーフィア行ってくる。」
そう言ってクストと部下の人が駆けて行きました。魔眼ですか。そのオーウィルディア様という方が魔眼持ちなのですかね。
「オーウィルディア様がここに来ているのですか!ぜひ、サインが欲しいです。ちっ!旦那様に託ければよかったです。」
セーラはオーウィルディア様と言う人を知っているようです。
「セーラはその方を知っているの?」
「え!奥様は知らないのですか?英雄10人の内の一人です。」
英雄10人?初めてそのような言葉を聞きました。
「奥様、旦那様もその英雄10人の中に入っておられますよ。」
マリアが教えてくれましたが、びっくりです。
「そ、そうなの?クストって凄かったのですね。」
「「はぁ。」」
マリアとセーラの二人にため息を吐かれました。この15年間そんな事を聞いたことはありませんでしたよ。
戦勝記念の式典が5年前にあった?知りませんよ。クストがその事を隠していたと・・・なぜでしょう。私を人前に出したくなかった?意味がわからないのですが?
「戦勝記念って、あの討伐戦は15年前でしたよね。終結してから10年後に式典をするなんて、時期的におかしいですね。」
普通なら、1年後とかにしないのでしょうか?しかし、私の質問にマリアとセーラは信じられないという顔をしています。どうしたのでしょう。
「奥様。あのグローリア国とラース公国の悪災を知らないと言わないですよね。」
セーラが聞いてきましたが
「知らないわ。」
「奥様。そのような事をおっしゃるから、あのシェリーという少女に興味がないもの以外知らないと言われてしまうのですよ。」
え?マリア、私はそんなに世間知らずじゃないはず・・・。
補足
悪災については、『メアリーの選択』で少し垣間見えます。




