6話 駄犬を置いて行くのは却下
「あのラースの嬢ちゃんか!なんでそんな所に行った!」
ですから、耳の元で叫ばないで欲しいです。
「そんな所って、おかげでクストが長期休暇を取れるような案を出してもらいましたし、私の知らないことも教えていただいて炎国への行き方も教えていただきました。」
「あの嬢ちゃんに頼らなくても、休みぐらい取れる。」
「そう言って3年経ちましたが?」
「グフッ。」
「そんな駄犬は放置して、奥様の聞いてきた事をセーラに教えて下さいませ。それに前から計画していた通り、駄犬をこの国に置いて炎国に行くのもありです!」
「え?俺、置いて行かれるのか?それは嫌だ。」
「その計画は却下しましたよね。使い物にならない団長を置いて行かれても、こちらとしても困ります。」
そうです。以前セーラがそのような計画を立てていましたが、速攻にルジオーネさんが破棄をしていました。
「それで、問題児に何を提案されたのですか?」
ルジオーネさんにそう問われ
「転移門の使用を勧められました。その時、教えてもらったのですが、クストが青狼族の長だと・・・私、知らなかったのです。」
俯く私の髪をクストは撫でながら
「ユーフィアには言っていなかったから知らなくて当然だ。青狼族と言っても10人も残っていない。だから、一族をまとめるほどでもない。それに、金狼族とは規模が違う。」
「そうです。マリアがクストの嫁に送り出されたことも初めて知りまして「っあんの糞餓鬼いらん情報をユーフィアに教えやがって!」」
クストがかぶせて文句を言っていますが、もしかして私が知らないことが、まだあったりするのでしょうか。
「マリアがここに来た理由は確かにそうだが、俺の番はユーフィアだ。」
私には番かどうかはわかりませんが知っています。
「それはマリアからも聞きましたので大丈夫です。そのマリアがギラン共和国の首都の転移門の許可を出せば一気にメイルーンからミレーテに跳ぶことができるそうです。そして、金狼族の長に頼めば商船に乗せてもらえるらしいのです。そうすれば、1ヶ月の休暇で済むのではないかと言われました。」
「確かに転移門を使えば可能でしょうが、今、そのような物を一般で使う人はいません。よく問題児は知っていましたね。」
ルジオーネさん。転移門を使う人はいないのですか?使って大丈夫なのでしょうか。
「何故、便利な転移門を使わないのですか?」
「もともとはエルフ神聖国で使われた転移門で大陸中にあると言われています。エルフ神聖国が滅亡して転移門は残されたのですが、エルフ仕様なので、起動するのに膨大な魔力が必要になってくるのです。獣人は以前も言ったとおり魔力が少ないですからね。今使用しているのは王族の方ぐらいでは?」
今は王族の方しか使っていないようなものを個人の旅行で使っていいのでしょうか。
「うーん。王族でもあまり使っていません。やはり、魔力量の問題で起動ができません。唯一起動できたのが、愚兄ぐらいです。」
セーラがそのような事を言っていますが、そう言えばセーラは王族でしたね。愚兄というのは誰のことかわかりませんが、魔力量が多い方なのでしょう。
「それで、1ヶ月後に行くように言われました。なんでも、数カ月の旅に出るそうです。」
「なんだと!ルジオーネ、ニールに確認しろ。」
「了解しました。」
ニールさんというのは部下の方ですかね。
「クスト。これで問題なく休暇を取れますよね。」
「ああ、だがユーフィアにこれ以上、あの嬢ちゃんと関わって欲しくない。」
そのような事を言われても、彼女の持つ知識や情報は私には無いものばかりです。そして、あの紅茶の出処を知りたいです。
そして、私は馬車の改造に入りました。流石に馬車自体は作れませんので、馬車の車輪と底の部分に施す為の陣を考えます。スクーターと人一人分の重量を持ち上げるのとは違い、馬車と数人分の重量を持ち上げなければなりません。
スクーターを浮かせている陣は古来から使われていた浮遊術を基本として、陣に用いていたのですが、これは根本的に考えなければなりません。
浮遊・・重力からの解放ですか・・・先程から、ノック音がうるさくて考えがまとまらないのですが、誰ですか?クストが扉の前にいるのですか?
師団の方に戻って行きましたよね。直ぐに戻って来たのですか?マリア、用件だけ聞いて、師団に戻るように言ってください。
マリアが工房から出ていった事を確認して再び構想を練ろうとしていたところ、廊下から『ギャー!』と言う叫び声が聞こえてきます。クストが侵入者用の罠に引っかかったのでしょう。はぁ。落ち着いて思考の海に没したいです。
 




