4話 逃げるが勝ちです
そして、私はせっせと荷造りに励んでいるのです。まあ、全て亜空間収納付きのバックに投げ入れているだけなので、荷造りとは言いませんね。
直ぐに準備は終わりましたので、私は心置きなくここを立ち去ることができるということです。おいとまさせて貰おうと部屋のドアを開ければ、ロベルト様が部屋の前にいらっしゃいました。
「何かご用でしょうか」
「明日の終戦パーティーにはでるように。それだけだ」
「申し訳ありませんが、それは出来かねます」
「なんだと!」
「婚姻の誓約書に記載してありましたとおり、夫、ロベルトが不貞もしくは別の妻を迎え入れた場合、この婚姻は破棄されるという誓約に基づくからです」
「そんなものは知らん」
「先程いらしたヒューイッド様とサウザール公爵家の立会人の方もお存じのことです。ロベルト様はその婚姻の誓約書にサインなされたのでしょ?まさか何も読まずにサインされたことはないですよね?」
ロベルト様は青い顔をしながら去って行きました。
6年間何も知らない私を支えてくれた、家令や侍女たちに別れをいい、玄関を出たところで、転移を発動しました。サウザール公爵家に感ずかれる前にさっさとコルバートへ帰りましょう。
懐かしい我が家の前に転移し、玄関を開け直ぐにこの家の家令がやって来ました。
「お嬢様お帰りなさいませ」
「もう、お嬢様という年じゃないのに、ただいま。お父様はいらっしゃる?お話があるのだけど」
「お伺いしてまいります。お疲れでごさいましょう。お茶をお部屋までお持ちいたします」
「まだ、私の部屋なんてあったの?」
「旦那様がいつでも帰ってきてもいいようにと」
「そう」
私の部屋に戻ってみれば、何もかわらず6年の時がなかったように思えるほどそのままでした。
部屋を見渡していれば、廊下を勢いよく走ってくる音が聞こえてきた。
バンッ
「ユーフィア」
「お父様ただいま帰りました」
「ユーフィアすまなかった。私の力不足でユーフィアに辛い思いをさせてしまって、これからは好きなだけここにいていいからな」
「その事なんですが、サウザール公爵様に契約の終了をお父様から伝えて貰えますか?娘は心神耗弱のため対応できないと言ってください」
「ああ、わかった」
「それと、私は自由に開発がしたいので、シーラン王国にいきます」
「なぜだ。ここにいればいいじゃないか」
「王都のメイルーンに技術者の町があるって聞いたときから行ってみたかのです。それに、この国にいるのはもう嫌なのです」
獣人の国シーラン王国は、帝国と違いおおらかな人が多いとも聞きます。
もう、モノづくりを強要されるのは嫌なのです。これからは、自分のために好きなものを作っていきたのです。
「そうか、好きにしなさい。サウザール公爵の方はこっちでなんとかするから心配しなくていい」
「では、今からいってきます」
このコルバートの地に戻って来たのは、家族に別れを告げるためでした。そして、サウザール公爵の手の者の目を欺くためでもありました。
私は辺境の地にいると。
「待ちなさいせめて、一晩泊まってから行けばいいじゃないか」
「サウザール公爵様が来たらどうするのです?」
「こんな辺鄙なところまでワザワザ来ないだろ。いや、ユーフィアの価値と比べたらくるかもしれんな」
「そういうことなんで、お母様とお姉さまによろしくお伝えください」
そして、私は部屋を出ていく、後ろからお父様と家令の声が聞こえるがそんなのは無視です。サウザール公爵様に捕まることだけは絶対だめだ。死ぬまでいいように扱き使われるに決まっている。
最短でシーラン王国に行くために、目の前にある4000メル級の山脈を越えて行くことにします。
タイヤのないスクーターを出し、スコープ性能のゴーグルを頭に乗せ、散弾銃を背負い、出力全開で山脈に向かう。途中、街道沿いを早馬が駆けているのが見え、山の中腹からゴーグルで見てみると、サウザール公爵家の家紋をつけた早馬だった。危なかった。
そのまま、スクーターで山脈を進む途中魔物に遭遇することもあったが、大抵は散弾銃でなんとかなり、頂上付近でドラゴンに遭遇したけれども、レールガンで固い皮を貫き首を落とした。焦りと恐怖が占めていた心は、いい素材が手に入ったので、幾分か良くなりました。
そして、1週間かけてやっとシーラン王国の王都メイルーンに到着したのでした。