3話 金髪の少女
翌朝、仕事に行くのを嫌がるクルトを送り出し、西地区第二層に来ました。西地区は一般の商業区で、商業ギルドや冒険者ギルドなどが第三層にあります。第二層はその商業区に関係する貴族や商人が住居を構えているところになります。
馬車の中から第二層の景色を見る限り、第一層より多くの住居が見られます。確かに、王族や公爵家しか居を構えられない第一層に比べれば、住むことのできる人が増えれば、土地も小さくなり、屋敷の数も増えるのでしょう。
第三層は集合住宅が多くなりますが、第二層は庭付きの戸建ての屋敷ばかりです。
そして、一軒の屋敷の前に馬車が止まりました。薬師と聞いていたので、小さな一軒家を想像していたのですが、貴族の屋敷といっても遜色ない佇まいでした。
両開きの扉の玄関に3階建ての建物で、1階に比べ3階の窓の数が多いことから使用人が多く居る屋敷なのでしょう。
マリアがドアノッカーを叩くと、高い子供の声で『はーい。』と聞こえます。
扉の向こうではパタパタという軽い足音がして、ガチャっという音と共に重そうな扉が開きます。中から顔を出したのは・・・か、かわいいー!
「どちらさまですか?」
10歳にも満たない子供が扉の隙間から顔を覗かせています。太陽の光に反射してキラキラと光る金髪にピンクの揺らめいている瞳。可愛いというより美しいと表現していいような容姿・・・あれ?この顔は何処かで?
「ルーちゃん。客様が来たのでお部屋に入ってお勉強しておいで。」
扉の奥から声が聞こえ、美幼女は『はーい。』と言って中に入っていき、代わりに金髪のピンクの目の少女が出てきました。ルーちゃんと言うことはあの子がさらわれた弟さん?この三年間で美幼女率がアップしていません?
「どうぞ中に入ってください。」
そう言って、扉を大きく開けた少女は先程の美幼女とは全くと言っていいほど似ていない。唯一似ていると上げられるのは目がピンクなことぐらいでしょう。
通された応接室は、薬師の屋敷とは思えない部屋でした。置かれているソファもローテーブルも質のいいものですし、飾られている調度品も品がいいものばかり、もしかして、他国の貴族の方なのでしょうか?
ノック音と共に『失礼します。』と言って先程の少女がカートを押しながら入ってきました。あれ?使用人の人は?
そのまま少女はお茶を入れ始め、茶菓子と共に私の前に用意をしてくれました。私の後ろに立っているマリアの分も用意してくれたようで、マリアにも声を掛けています。
少女は私の目の前に座り、お茶と茶菓子を一口づつ口にしました。そして、私にむかって尋ねます。
「それで、何のようですか?」
「今日はクストの長期休暇が取れないので、どうにかならないのかと相談に来ました。」
少女は怪訝な表情になり
「なぜ、第6師団長さんの長期休暇を取る相談をされなければならないのか、わからないのですが?相談するところを間違っていますのでお帰りください。」
そう言われればそうなのですが、一番の原因であるルジオーネさん曰く『問題児』である少女に直接聞いた方がいいと思ったのです。
少女の入れてくれたお茶を一口飲みます。あっ!これ好きだった紅茶の香りと味がします。
「この紅茶はどうやって手に入れたのですか?それにあの便箋も、普通なら手に入らないですよね。」
「では、お茶を飲んだらお帰りください。」
スルーされてしまいました。後ろから、『この糞餓鬼。』っという声が聞こえた気がしましたが、気のせいでしょう。
「貴女が関わったことで、第5師団の師団長が復帰が不可能な状態になり、統括副師団長が辞められたことで王都の守りが脆弱になり、貴女がいることで、クストが王都を長期間離れられなくなったと聞いたのです。」
そう私が言うと少女はため息を吐き
「はぁ。なぜ、私が行ったような言い方をされるのですか?第5師団の変態集団など子供の心の平穏のために居なくていいのではないのですか?それとあのキングコングは自分で第5師団の詰め所を倒壊させ、第5師団を壊滅に追い込んだ責任を取って辞めたのです。それから、人材育成ができていない責任を私がいるからと言われているのも腹立たしいですね。」
第5師団が変態集団?キングコングとは統括副師団長でしょうか?統括副師団長が第5師団を壊滅させた?そう言えばルジオーネさんは責任を取って辞めたと。人材育成は中々難しですね。
「言い方は悪かったわ。でも、一昨日に外門が崩壊したことでクストも大変だったようですし。」
「それは、一昨日の夜には元通りに直しましたが?翌朝には通常通りの運用になっていたはずです。」
え?直した?そのことは聞いていませんでした。う。私の分が悪そうです。このままじゃダメです。腹を割って話しましょう。




