1話 春の庭で
寒さが和らぎ、暖かく晴れ渡る空の下で二人の少年が模擬剣を使い打ち合っており、その横には青髪の青年が少年たちに指導のために声を掛けています。
少年たちは真剣に指導された事を再現しようと、先程から同じ動きを繰り返し行っています。
私はそれを眺めながら、庭で紅茶を飲み、子供たちの成長を楽しんでいるのですが、なぜ、夫のクストが子供たちに剣を教えずにルジオーネさんが指導をしているのでしょう。
ええ、剣の先生は別にいらして、子供たちの指導をしていただいていますよ。しかし、今日も朝から仕事に行きたくないと駄々をこね、ルジオーネさんが迎えに来られ、連行させるように師団に行ったかと思えば、昼過ぎに戻ってきて私を離してくれません。
直ぐにルジオーネさんが迎えに来られましたけど、今度は昼休みだと屁理屈を捏ねだしました。半刻だけと約束で、その間はルジオーネさんが子供たちの剣の指導をしてくだっています。こんな事を繰り返しているので、子供たちはクストよりルジオーネさんに懐いてしまっています。
はぁ、私にもやることはあるのですけど、困りました。
時間になったのかルジオーネさんがこちらに来ました。
「団長。時間ですので戻りますよ。」
「嫌だ。ユーフィアといたい。」
そう言ってクストがお腹を締めてきます。食べたものが出そうなので、それ以上は力を入れないで欲しいです。
「ぐっ。クストお仕事行ってきてください。」
「ユーフィア!俺の事が嫌いになったのか?」
ギブ!ギブ!流石にこれ以上は締められるダメです。
「この!駄犬さっさと、師団に行って来てくださいませ!」
セーラの声が聞こえたかと思えば衝撃が響き、お腹が解放されました。あれ以上は本当にキラキラモザイクが入るところでした。
「奥様、ご無事ですか?」
振り向けば、マリアに抱えられていました。どうやら、セーラがクストに蹴りを入れ、マリアが私を救出してくれたようです。
しかし、セーラ。借りにも当主を毎回足蹴にするのは、どうかと思います。
「お前ら、俺はユーフィアといると言っているのに、なぜ邪魔を毎回するんだ!」
セーラに蹴飛ばされ、地面に横たわっていたクストが起き上がり、文句を言っていますが、お仕事ですので邪魔をしているわけてはありませんよ。
「クスト、それでは長期休暇を取れるように許可を貰って来てください。」
クストにそう言えば、大抵は耳をへにょんと伏せ『すまん。』と言って肩を落として、師団に向かうのですが
「長期休暇が取れないのは俺が悪いんじゃない!クソガキが悪いんだ!」
と言って泣きながら駆けて行きました。今日はどうしたのでしょう?
「ルジオーネさん。クストはどうしたのですか?」
ルジオーネさんは困ったような顔になり
「昨日、西地区の外門が崩壊したのです。昨日からそのことで色々ありまして、今日の会議も昨日の外門崩壊のことだったので、ストレスが溜まっているのでしょう。」
外門が崩壊?確か石造りの強固な外壁に金属の扉が付けられていたと思うのですが、それが崩壊したとは一体何があったのでしょう。でも・・・。
「それと長期休暇は関係ないと思うのですが?」
「今は第6師団が門兵と警邏を担っていますからね。問題児が事件を起こすと対処できるのが、団長か私しか居ないのですよ。」
え?
「問題児と言うのは、3年前に来た金髪の少女のことではないですよね。」
まさか、一人の少女に対処できるのが2人だけとは、ありえなくないのでは?
「そ「ユーフィアやっぱりルジオーネの方がいいのか?」」
ルジオーネさんの言葉を遮って、いつの間にか戻ってきたクストが言ってきましたが、どうしてそのような考えになるのかわからないのですが?
「クスト。ルジオーネさんに話を聞いていただけです。クストの事は好きで「ユーフィア!」」
クストが抱きついてこようとしましたが、私の後ろにいたマリアが、私を素早く抱き上げ回避し、セーラがクストの足を引っ掛け、クストはその勢いのまま地面にスライドしていきました。
セーラ、足を引っ掛ける必要はなかったのではないのですか?
「ルジオーネさん。対応できる人が2人しかいないと言うことはありえないのではないのですか?」
私は先程の話の続きをルジオーネさんに尋ねます。クストが長期休暇をとれないということは炎国に連れて行ってもらうと言う約束が果たされていない事を指すのです。
3年です。あのマルス帝国に行って私が成したことの精算をしてから3年です。
炎国に行くためには最低3ヶ月は必要だというのに、クストの3ヶ月長期休暇の許可が下りないのです。
そんな事で許可が下りないなんてあり得ません!
 




