17話 私のやってきたことは
「イース、学園はどうした?」
イース少年の襲撃を聞き付けたクストさんが戻ってきました。学園ということは学生なのでしょうけど、一度も見ていないということは遠くに学園があるのでしょうか。
イース少年はそっぽを向いて答えませまん。
「抜け出して来たのか。ダメだぞ」
クストさんはため息混じりで言います。しかし、もう少し腕の力を抜いて欲しいのですが……。イース少年の襲撃を聞きつけ戻って来てから、私を膝の上に乗せたまま、ぎゅうぎゅうに抱きつき、離そうという気配がクストさんに全く見られません。
「旦那様、ユーフィア様はこのマリアが守りましたので、その様に抱きつかなくても大丈夫です」
「ユーフィア。俺が側にいなくて怖かっただろ?」
「マリアがいてくれたので大丈夫でした」
「俺はユーフィアがいないとダメだ」
「っ。本当に兄上の番なのか?こんなの、格好いい兄上じゃない。おい。人族のクセに!このヒィ」
部屋中になにやら圧迫感が満ちてきます。少し息苦しいような?
「旦那様、殺気を押さえてください。ユーフィアが困っていますよ」
マリアのたしなめる声と共に圧迫感は無くなりました。
「ユーフィア。すまん。イース、誰に何と言われようが、ユーフィアは俺の番だ。そこに 、人族だろうが獣人だろうが関係はない。わかったな」
「はい」
イース少年は心なしか震えながら返事をし、学園へ戻って行きました。
「ユーフィア。すまん」
イース少年が去った後、クストさんが謝って来ました。
「何がですか?」
「イースのことだ。先の戦いで両親が戦死をしてしまって、俺も討伐隊に召集された時に言われた。『兄上も俺を残していくのか。』と。あの戦いで多くの者達が死んでいき、一族の生き残りは5人となってしまっていたからな。イースには頼れるのが俺しかいなのだ」
私は言葉を失いました。確かに先の戦いで多くの方々が亡くなられたと耳にしましたが、一族の方が5人とは、戦場を知らない私には想像も出来ないことでした。
「弟さんのことは謝ってもらう事ではありません。先に挨拶をしなければならなかったのは私の方ですから。ご両親のことは御悔やみ申し上げます。戦場を知らない私には言葉にするのも烏滸がましいかも知れませんが」
「そんなことはない。マルスの魔武器にはとても助けられた。俺が生き残っているのも、陰ながら頑張ってくれたユーフィアの功績だ。ありがとう」
私のやっていたことは間違いじゃなかった。サウザール公爵様に目を付けられて、今までのやって来たことが無意味に思っていた時があったけど、よかった。
「こうやって、私が作った物がクストさんを助けたと聞くと嬉しいですね」
胸が嬉しさでいっぱいになります。
「ユーフィア、お……」
「旦那様、副師団長のルジオーネ様がお迎えに来られました」
「……マリアわざとか、わざとだろ」
「何のことですか?私は旦那様にお迎えが来られた事をご報告差し上げたのです」
マリアが部屋のドアのところに立っていました。
「どう見てもいい雰囲気だったじゃないか」
「そうでしたか?」
「団長。戻りますよ」
ルジオーネさんが部屋の入り口から顔を見せて、クストさんを催促してます。
「嫌だ。嫌だ。今日はユーフィアと過ごす」
「さあさあ。団長、戻りますよ」
私にしがみつき離れようとしない、クストさんの頭をふわりと撫ぜる。
「いってらっしゃいませ」
「う……ユーフィアがそう言うなら」
部屋を出ていくクストさんの背中から哀愁が感じられるのですが、尻尾が勢いよく振られているのはなぜでしょう?
ルジオーネさんはお礼を言って、クストさんを追いかけて行きました。副師団長というのは大変なんですね。
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薄暗い部屋の中、4人の人影が見られる。テーブルの上で二人は遊戯を楽しみ、一人が遊戯の盤上を眺めている。彼らの前に膝をついた人物が、穏やかな空気を裂くような一報を報告したようだ。
「それは間違いないのか」
「恐らくそうではないかと」
「ふん。そのような物、やはりアヤツらと同じじゃろう」
「確かにこの世界に必要ない物だ」
「今度こそ逃がすな」
「はっ」




