9話 結婚式のプランとは
「それはない。絶対にない」
クストさんは床から立ち上がり詰め寄ってきました。そうなのですか。姉の結婚式は熱が出て行けなかったから、この世界の結婚式がどんなものか分からなかったけど、やっぱり、あの結婚式はなかったのですね。
「ユーフィアさんはこの国の結婚式をご存じではないのですよね」
「そうですね」
「爵位によって規模は多少違いますし、この国には多種多様の種族が住んでいる分、式の形体も色々あります。一度どんな式があるか、調べてみましょう」
「はい。お願いします」
「あ、それと先程のこれ何という物でしたか?」
私の捨てた懐中時計をルジオーネさんは拾ったままだったようです。
「時刻を知るための魔道具で時計と言うものです」
「それはどうすれば分かるのですか」
「この部分が蓋になっていまして開けますと」
「12までの数字が書いてありますね」
「はい。短い針が刻を示してます。今は8刻です。長い針が半刻です。この時計から見ますと8刻4半刻です。そして、短い針が一周すると1日になります」
「素晴らしいです。これは大発明じゃないですか。会議の時間など皆さん全然集まってくれないのです。『え?鐘の音なんて鳴ったか?』とか言われるのです」
クストさんがなぜかビクリと動揺をしました。どうしたのでしょう。
「これと同じ物を私に作ってください。そして、誰でも見える位置に大きな物は作ってくれますか?」
「大きな物ですか。作れるとは思いますが、それだと教会から何か言われませんか?」
時計が一般化するとどうしても必要でなくなる物が出てきます。かの国では水時計や時鐘と言うものがありましたが、西洋式の時計が輸入されると常用化をされなくなりました。
この世界では教会が一定の時間になると鐘が鳴らされます。流石に夜中は鳴らされません。多分基準となる時を刻む物があると思われます。教会がそれを独占しているとすれば、大きな物を作ることは色々な問題を排除しなければ難しいと考えられます。
「それもそうですね。教会に出てこられると流石に厄介ですね」
『くーん』
「?……個人的に用いれば、一種の地位的な自己顕示にはなるかと思います」
『きゅーん』
「団長。いじけないでください」
ルジオーネさんの目線を追うと、耳をペタリと伏せ、床で三角座りをしながらいじけているクストさんの姿がありました。
その2日後、再びルジオーネさんが訪ねてこられました。
結婚式プランナーですか?と言うぐらい大量の資料を持って来てくださったのです。
辞書の厚さ程の資料を持って来られても流石に頭が混乱しそうです。一般的な結婚式を聞いてみますと、あちらのチャペル様式に大規模晩餐会がプラスされた感じだそうです。
因みにルジオーネさんのお薦めはトーマという赤い野菜をぶつけ合うというものをお薦めされました。
それはどこぞのお祭りですか?教会から屋敷に戻る間にどれだけ綺麗な花嫁を守れるかですか。
それって日頃の鬱憤を晴らしたいだけでは?トーマの反撃可なんですか。
それだけですみますか?やはり最後は乱闘騒ぎじゃないですか。
いいえ。その案は採用しません。クストさん花瓶の陰で拗ねないでください。
この一般的なプランがいいです。変なものを入れ込まないでください。詰まらなそうな顔しないでください。
クストさんきゅーんきゅーん煩いです。隣に座ればいいじゃないですか。
あの辞書の様な厚さの結婚式プランの殆どが喧嘩祭りの要素が入っていました。流石獣人の国と言えばいいのでしょうか。一番まともなプランが先程の一般的な結婚式のプランのみだなんて……はぁ。
「ユーフィアはどんな感じがいいか言ってくれないか。ユーフィアのためなら、どんなことでも叶えてやるぞ」
「結婚式ねぇ。……クルージング船のプランは憧れたけど、ここでは無理ですよね」
「ごめん。よく分からない」
「無理だとわかっていますから、気にしないでください」
「役立たずですまない」
そう言ってクストが隅の方に行こうとするのを止めます。
「私は、クストさんと結婚できて嬉しいですよ」
「本当か!俺も……」
「好きに物を作っていいのですよね!」
「あ……」
「私は、誰かの役に立つものを作りたいのです。領民の困っていることを解決したいのです。そうすれば皆が幸せになりますよね」
「あ、うん。ユーフィアが幸せならそれでいい」
クストさんが何か落ち込んでしまいましたが、何か間違ったことをいいましたか?
ルジオーネさん。笑っていないで教えてくださいよ。




